望まれる「正確な報道」とは?-「輸出管理措置の見直し」に対するネットからの反応を見て思うこと。

筆者も何件か「輸出管理~」について主にマーケットの観点からnoteしているが、その関係でよくネットでコメントなどを読む機会が増えた。その中でやや意外だったのがマスコミ、特に日本のメディアの姿勢を批判するものが目立っていた事。いわく、正しい表現を、とか、不要に煽るな、的なものだ。日本のメディアリテラシーも高くなったなあ、と実は感心している。

確かにメデイアが権力側に近すぎたりおもねったりするのは感心しない。メディアリテラシーが高いと言われるイギリスでも、「政権に近づけばネタはたくさん取れる。しかしそれは同時に取材力も弱めてしまうので最終的には民心の離反を招く」というような戒めもあるそうだ。ただ今回の批判の対象になっているのは反政権であればどのように報道しても良い、というような一定数のマスコミの姿勢ではないか。反権力の過剰擁護とでも言おうか。日本人特有の「自己反省」や「謙虚」が逆方向に逸脱しているのか、あるいは反権力側に別の利権があるのか、とさえ疑われているようだ。

「輸出管理~」について言えば、「制裁」や「報復」など韓国側で多用されている煽動的な報道を日本のメディアが繰り返していることや、大変な事態になっている、といわんがために現地で撮られた不買運動などの画像をただ流していることに対する批判が多い。例えば不買運動の画像を流すなら、それがどのような属性の人達がどのぐらいの規模で行っていて、一般の人達への影響はどうなのか、ぐらいの解説を加えるのがジャーナリズムの良心だと思う。(ようやくそういう事を解説するニュースが出てきてはいる)いくら政権批判をしたいといっても、裏取りやきちんとした取材の裏付けがない「切り取り」や「印象操作」だけでは説得力を持たない。反トランプ傾向の米メディアの報道の仕方も然りである。

筆者にも(大分ささいなことではあるが)苦い経験がある。もう20年以上も前のことだが、N経新聞の記者さんから円金利の動向について取材を受けた時、確か「これから出てくる日銀短観の結果次第ですが、円金利は低下する方向に行くかもしれませんね」というような受け答えをしたら、翌日の新聞にでかでかと「XX銀行 損切丸氏 円金利低下を予想」と書かれてしまった。「日銀短観~」の件は一切なし。いわゆる「切り取り」である。もうその日は知り合いのトレーダーや他の記者さん達から電話が殺到して弁明に大わらわとなってしまった。その後、同じ記者さんから電話取材を受けた時に皮肉を込めて「今日はどんな記事を書きたいんですか?円金利が低下する話ならコメントしませんよ」といったらすぐに電話を切られ、その後二度と電話をかけてこなくなった。こういう自分の書きたい記事のために他人をアリバイ的に利用しようとする記者がいるので要注意であることを悟り、それからは筆者も取材は相手を選んで受け答えするようになった。

「切り取り」といえば、ちょっと前に菅田将暉さん主演の「3年A組~」というドラマが大変話題になったが、やはり悪意を持って印象操作をすることは恐ろしいことである。こういうものの影響があって、番組や報道を見聞きする側の意識が徐々に高くなってきたのだろう。筆者が見ていても、最近の大手メデイアの記事には「迫力」がない。おそらくそれは地道な取材や事実関係の確認に強く裏付けされていないからだろう。「視聴率」「ヒット率」ばかり追いかけていると、最終的には民心の離反を招く。事実視聴率や新聞の売り上げはどんどん落ちる一方である。

長らく新聞やテレビが世論を形成するのに力を持ってきたのは事実だが、世の中の意見を全部コントロールできる、と考えるのは奢りだろう。特にネットメディアが発達した状況下では、嘘や欺瞞はすぐ暴かれる。そういう意味では日本のメディアリテラシーが上がっているのは喜ばしい事でもある。

とは言え、メディア側の苦悩もある程度推測できる。真面目に取り組んでいらっしゃる記者さん達もいる。筆者も銀行を離れてフリーの身なのでこのように好き勝手書いているが、銀行に所属していたらこんなコメントを書くことはまず不可能。今やSNSなどの投稿は厳しく制限されているし、やれコンプライアンスがどうのと言って何も情報発信などできないのが実態だ。マスコミ関係者ならなおさらだろう。

筆者はマスコミ批判をしたいわけではない。むしろ頑張って欲しい、と応援する立場である。いくらネットが発達したとはいっても、やはり紛れは多いし取材できる範囲は限られている。だから中立的立場でバランスを取ってくれるメデイアが絶対に必要。全体のリテラシーは上がってきているのだから、そこはもう少し視聴者、読者を信じて「覚悟を決めて」もっと迫力のある記事を提供して欲しい、と切に思う。そうすれば、このなんとも言えない息苦しい感じが少しは減るのではないか。期待している。

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