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チャンスは二度訪れない

本記事には、私と関係する方々との関係性があってゆえの表現があります。
許可等々含めて十分検討の上であることを申し上げておきます。

2022/Oct/30 16:43 追記
2022/Oct/30 17:53 誤字等修正
2022/Oct/30 18:03 誤字等修正
2022/Oct/30 22:28 謝辞、誤字等修正
2022/Oct/31 15:48 将棋プレミアムの視聴ページへのリンク追加
2022/Nov/2 23:14 ヘッダー画像設定、誤字等修正
2022/Nov/7 21:23 銀河将棋チャンネルの視聴ページへのリンク追加

忙しさの間に

上期も終わりに近づき、珍しく残業続きだった日々。

帰宅しては雑用を済ませて寝るだけの日々が続いた、そんな折。

数日ぶりに開いたメールボックスに一通、日本将棋連盟からのメール。

はて?何かあったかな?やらかした?

心当たりもなく、さりとて、他に何も思い浮かばず、送信日時はよく見ると、数日前だ。

(何かあってはまずいしな)

とメールを開く。件名にはこうあった。

「囲碁将棋チャンネル:お好み将棋道場につきまして」

はぁ

は?

なにそれ?

まったく何も分からないまま、ひとまずメールを読んでいく。

チャラく要約するとこうだ。

将棋指しません?(収録するよ)

嘘をいっても仕方ないから、率直にその瞬間思ったことを書くわけだけも。

囲碁・将棋チャンネルも日本将棋連盟もこれにOKを出したすべての人間はまちがいなく全員頭おかしい。

頭がクラクラするのを感じながら、椅子から転げ落ちなかっただけマシだ。

棋力皆無

これを読んでいる方はおそらくはご存じだろう。

私はいわゆる「観る将」だ。

そう、「観る将」。

将棋は観る専門で、自分ではまったく、あるいは、ほとんど指さない、多くの場合棋力もほとんどない、そうカテゴライズされる集団の一人が私だ。

叡王戦の見届け人を何度やっていようと、ほとんど指さないことに変わりはないし、棋力もカスみたいなものだ。どれだけ絞っても存在しない棋力は出てこない。出てくるはずもない。指さないからだ。

いただいた本は読むし、買うこともある。案外と書棚には棋書も並んでいるが、指さないものは指さない。

将棋は小学生のときに覚えたわけだが、誰かと指した記憶はないし、物心がついてからで覚えている限り、盤を挟んで人と指したのは、人生でたった一度だけ。

第6期叡王戦の見届け人をしたときに、アテンドいただいた井出隼平五段と記念に一局指していただいたときだけだ。あれもおまけが大当たりしたくらいの奇跡の一局に過ぎない。

碧髪のスティグマ|ひょうがらのおかん|note

このイカれた状況に、なんてこったい、とは思うが仕方ない。

そんな私になぜ声がかかるのか。

まったく分からないし、本当に世界がどうかしている。

恐ろしく集中したときに突然湧いてくる謎の超絶棋力。そんなものも当然ながらにしてない。やはり私にはどこをどう絞っても棋力はない。

そんな自分を思いながら、メールにどう返そうか、と悩む。

なにより時間がだいぶ経っているので、先方の都合もある。

サイコロでも振って決める、なんてわけにもいかない。

どこか、OKが出てほしくはない自分もいるからだ。

二度目はない

だがしかし、悪魔のおかんはいう。

人生でこんなチャンス二度とないぞ。
いいのか?
本当にいいのか?
ここで「お断り」のメール書いたら、本当に二度とないぞ?
終わりだぞ?
何ビビってんの?

つづけて、天使のおかんがいう。

人生に二度目はありません

「おいおい、悪魔さんが勧めるのかよ。天使さんは天使さんでいったいどうしたんだ。もうちょっと何か言うことないんですか?ったく、どうしようもねぇ天使だ。」などという漫画のような展開はこれっぽっちもないが、はっきり自覚している性格がある。

私は、かなり慎重で、奥手で、目立つことなくひとりひっそり生きていきたいタイプの人間だ。異論は一切認めない。

生活においては、石橋を叩いて、叩いて、これでもか、と叩きに叩きまくって、壊した後に、

ほら。やっぱり壊れるやん。

というタイプの人間だ。冒険はまったくしないタイプ。

着る服も、行くお店も、そこで注文する品も、おおよそ冒険はしない。

私の本質とでもいっていいだろう。

そういう自分の怠惰な本質を自覚しているからこそ、常に避けることを考えてしまうからこそ、新しいことに意地でもはったように手をのばしてきた、とはいえる。

そんな本質に抗わなくても十分に楽しいし、行動にはエネルギーが必要だ。なにより疲れる。そして、疲れることが大嫌いだ。

だが、人生一度きり、という条件は誰にも等しいのだから、誰かに流されてか、自分で決断して歯をくいしばってか、どんな形であれ一歩踏み出すことを心掛けている。そんなところだろうか。

かっこよく言ってみたところで、美容院を予約する、という一歩はいまだ踏み出せていないわけだが。

しかしだ。

息子には常日頃から「迷ったらやってみるべきだよ、チャンレジしてダメだったら次やめればいいんだよ。」などと出来損ないの父親がしたり顔でご立派に高説を垂れているくせに、その肝心の父親がいったい何グジグジしてんだ。

やらなくて後悔するくらいなら、やって後悔

とかいっちゃってるクセに。そうだろ、自分。

棋力は本当にありませんが大丈夫ですか?
それでも本当に構わないのであればせっかくの機会ですのでお受けしたいと思います。

そう返すしかないだろう。

こんなチャンスは二度来ない

返事は間を置かず返ってきた。チャラく要約するとこうだ。

おっけー

走り出した列車はもう止まらない。

持ち合わせていない棋力

すでに書いたように私には棋力と呼べるものは存在しない。

駒の動かし方は分かる。

原始棒銀、四間飛車の出だしくらいなら分かる。

棋士・女流棋士の対局を見れば、角換わりなのか、相掛かりなのか、矢倉なのかはおおよそ分かる。相振り飛車全然わかりません。

藤森先生、戸辺先生の普段の動画はおおよそ今の私には役に立たない。大駒を切る?ブッチ?そんなことできるわけないだろうが。そもそもタイミングもなんもわかんねぇよ。

以上。

困った。何もいっさい分からない。

加えて、もっと大きな問題がある。

いただいたメールにこうあった。

「よろしければ二枚落ちか四枚落ちで対局を行えればと思います。」

私の勘違いだろうか。一言一句間違いないこの文面。

私は、はっきり、明確に、誤解しようのない表現で「棋力がない」と伝えましたよね?

大丈夫ですよぉ~

こんな感じで、あの、いつもの優しい穏やかな笑顔つきできっと書いてるんだろうな、とは思いながら、今ほどあの笑顔が憎たらしく思えたことはない。

で、では、四枚落ちでお願いします。

完全にハメられた。そういっても過言ではないだろう。

もう後には引けない。引けないな… 引けなくなったな…

まさか人生初の指導対局が、棋士と四枚落ち、解説・聞き手あり、記録・読上げあり、収録あり、なんてことになるなんて本当に分からないものだ、と語彙力ゼロのうっすら頭の悪い感想しか出てこない自分のいるこの部屋に乾いた笑いが響く。

走り出した列車はもう絶対に止まらない。

収録まであと2週間

しかしだ。このときすでに、収録までおよそ2週間しかなかった。

番組のラテ欄にも記載があるように、収録日は2022年9月30日だ。

これはもう動かない。

対局者、解説、聞き手等々はまだ何も決まっていないが、収録場所・日時、なにより四枚落ちで指すことだけが確定していた。

困った。定跡の一つも知らないのだ。本当に、困った、というより他ない。

だが、何もしなくても時間だけはどんどん過ぎていく。

一分、一秒も無駄にはできない。

将棋を覚える

そうだよ。

絶望しようとなんだろうと何もしないで過ごすわけにはいかないんだよ。

開き直って、すぐさま検索する。

「四枚落ち 定跡」ポチッ

安直すぎる検索ワードだが笑う余裕もない。

いくつも動画が出てくる。

片っ端から見る。

棒銀のように攻めろ

おおよそこうだ。

おーけー、わかった。

他は?

ふと思い出す。

戸辺先生がルークの鈴木さんと対局している動画があったぞ。
講座やってるんじゃないか?

すぐさま調べる。

あった。

なんと四枚落ちで、しかも振り飛車党向けの講座だ。

すぐに攻めたがり、無理攻めですらない、ただ無茶苦茶な攻めしかできない自分が待つことを覚えようと四間飛車を指していた自分には好都合だ。

何度も見る。

基本の組み方は分かった。
(分かったつもりになっただけだったことは最後まで私に暗い影を落とす)

とりあえず、何が何でも指すしかない。

どこで駒落ちを教われるのか分からない。なにより時間がない。

こんな短期間で形作りできるようにしてくれ、と頼むほうがどうかしているというものだ。

コンピュータと練習するしかない。

ぴよ将棋、激指と対局しまくるしかない。

設定はもっとも強くする。

ボコボコに負かされる。完膚なきまで、とはこのことだ。

初日10戦全敗。

終わってんな。

二日目12戦全敗。

うん、完全に詰んでる。

「負けました」の言葉をそこそこに、水匠5先生のお力を借りる。

大きく形勢を損ねたところはどこだ?
ここで迷ったがどう指すべきだった?
最善は無理、-300 くらいまでに収まる手順は何?
どの形を目指すべきだった?

候補手を5個ほど表示させ、なんとか自分でも指せそうで、形になりそうな手順をひたすら教えてもらう。

三日目10戦3勝7敗。

一発入るようになってきた。待つところは待つ。覚えた。

四日目13戦7勝6敗。

勝ち越す。だがダメだ。これは完全に暗記しているだけだ。オープニングが似ているので有利・優勢になる手順を覚えただけだ。これではダメだろう。

上手の囲いを変えてみる。お?指し手が変わった。なるほど、じゃあ、明日からはすべて違う囲いにしてみよう。

五日目10戦2勝8敗。

ダメだ。全然、何一つ、まったく分からない。せいぜい序盤の駒組みまでだ。駒がぶつかり始めるとお話にならない。一方的にボコボコにされるだけだ。もっと落ち着いて考えなければダメだ。

六日目15戦4勝11敗。

恐ろしく何も分からない。一局指すごとに歩一枚、桂一枚、香一枚、どんどん弱くなっていってる気すらしてきた。

もう一度原点に立ち返ろう。助けて、戸辺先生。

動画を見直す。(また分かった気にだけなって最後に暗い影を落とす)

七日目13戦5勝8敗。

ちゃんと考えよう。手拍子で指さない。
スケジュールには追われているが、秒には追われていない。
秒に追われてなんかいないんだ。
おまえの直観は間違っている。ちゃんと考えなさい。

八日目10戦6勝4敗。

おーけー。対抗形は形になってきた。

九日目11戦9勝2敗。

相振り飛車ではまったく勝てない。まったく何も分からない。
攻めたいところに金銀全員集結しやがって。何も分からない。

ひたすら指して、棋譜解析にかけて、解析結果待ちの間にまた指して。

とりあえず数だけをひたすらこなす。

自身が何より大嫌いな「根性論」で乗り切ろうとしているのだから笑える。

普段から短い睡眠時間がますます短くなる。2、3時間睡眠が当たり前。
(仕事は、まぁ、うん。こなしてたよ、知らんけど。)

落ち着いて本読んで、とか言ってられない。

こうして続いた日々もとうとう終わりを迎える収録当日。

収録日当日

対局者が飯島栄治八段に決まったことは事前に連絡をもらっていた。

飯島先生ともメッセージをやりとりさせていただいていた。

事前に少し練習を、と考えてくださっていたが、あいにく都合が合わなかった。そんな中でも、

収録前、少し早めの時間に集合して練習しましょう

と都合をつけていただけた。

私が将棋をあまり指さないことをご存じだっただろうし、まったく形にならないのもまずかろう、という配慮だったのではないかと思う。それでもお忙しい中、時間を割いていただけたことに感謝しかない。

解説、聞き手、記録、読上げと決まっていく中で、おみやげのひとつも、と考えて当日の朝一で買いに走ってから、新幹線に乗り込む。

あとはもうすべてなるようになるだろう。

いや、なるようにしかならない。

将棋会館に行くときにはいつも鳩森八幡神社にお参りする。

だが、この日はしなかった。鳥居をくぐることも憚った。

「神様の力は決して借りない。借りるべきではない。」

謎の信念にも似たような思いを抱いていた。

時間には十分な余裕があったはずが、ちょうどに着く。

すでにどこか迷いがあったのかもしれない。

先に到着していた飯島先生に少し遅れたお詫びをしながら、練習できる場所を求めて、道場に向かう。

突然、道場に現れる指導予定のない棋士。

それに連れ立って、親しげに会話しながら入ってくるオレンジ髪の絶対に目を合わせたくないイカれたド素人。

目を引かないわけがない。いろんな感情がのった視線が痛い。

風体だけでもどうかというのに、なぜか一番奥に陣取り、あいさつもそこそこに、棋士と練習将棋を始めるのだから、なお奇異に映るのも致し方ないだろう。

窓際で教わっていたので、職員の方に、

来られているの一目でわかりましたよ

と一言。こんなやつが窓際にいて将棋指してますから、そりゃそうか。

そこから4局ほどだろうか。道場で、事前に用意していただいた部屋で、アドバイスをいただきながら、箸にも棒にもかからない、というわけではない形にもっていけた、と思いたい。

収録開始の迫る中、これまでの将棋すべてを整理しながら、どうにかこうにか、気持ちも落ち着かせていく。

迫る収録

収録開始時間も迫ってきたので、地下にあるスタジオに向かう。

クラウドファンディングの返礼品で将棋会館の中を回ったときに、ここには入ったことがない場所、として挙げたところだ。

残るは女流棋士室。まぁ、さすがにそこに入らないままで終わるだろう。

飯島先生には「指し手はよくなってきているので、思い切って指してください。」と声をかけていただくが、今思えば、どこか上の空だったかもしれない。

そもそもこんな言葉だったか?とても怪しい。

自分では気づいていないがやはり何とも言えない感覚、気持ちの昂りを感じていたのだろう。

解説の戸辺誠七段、聞き手の竹部さゆり女流四段、記録の安食総子女流初段、読上げの廣森航汰三段にも挨拶をし、持参したお土産の品を手渡しながら、その時間を待つ。

うに軍艦

ツイッターにあげた写真に突然の謎ワード。そう。「うに軍艦」

興奮・不安などいろいろ感情が入り乱れている中で、竹部先生にお土産を渡す際にちょっとした事件が起きた。

「竹部先生、今日はよろしくお願いします。あ、これ、お土産です。」

「何?その頭。うに軍艦みたい。」

wwww

「いやいや、なんかこう、あの、挨拶の第一声がそれですかw」

拝啓 竹部さゆり殿

「あいさつ」ってご存じですか?社交辞令の基本といいますか、まず最初のやりとりではだいたい行われる儀式のようなものなのですが。え?ご存じない?

敬具

スタイリストさんに整えてもらっているところでアレですけども、
それでなんか変わるんすか?

くらいの返しをしたいところだったけれども、誠に遺憾ながら、私には社会性フィルターが標準装備されておりますので、複数人いるその場ではしっかり笑いに昇華するしかあるまい、と咄嗟に無難な会話をこなして部屋を後にする。

だが、この一件により、笑顔で話しているその机の下で、お互いの足をひたすら蹴り合っているような、「もうダメだな、今日から「タケベ」な」と心に固く誓った事件が裏で起きていたことは、今ここに記しておかねばならない。解決する糸口すら見えないこの関係を。

始まる収録

台本のざっとした確認の一幕。

飯島先生

凄八先生
「今日のネクタイ。対局に行くときのやつ着けてきちゃいました。イベント用のがあるんですけど、ついクセで。でも、見てください。靴下。この色はないですよねw」

おかん
「私の髪の色と、飯島先生の靴下の色。似てますね。画面がやばい色になりりそうです。」

おかん vs タケベ

タケベ
「おかんさん、わたしと同じ種類のニコ厨だと思っていました!」

おかん
「失礼すぎるでしょw 同類扱いは勘弁してくださいよ。別人種です。」

番組冒頭のインタビューと淡々と進行されていく。

(へぇ、こういう感じなんだなぁ。)

テーマ2つ、3つだけ決まっているだけなので、完璧とまでは言わないが、どこで鍛えたのか分からない謎のアドリブ力で、うまく乗り切れたと思う。

さぁ、笑顔の時間はここまでだ。

もう後には引けない。

やるしかない。

緊張でガチガチになるようなことはなかった。

思っていた以上に冷静でいれたように思うが、少しばかり緊張していたようだ。

「さぁ、対局だ」と、控室から出るその瞬間。

飲み物を一口飲もうとペットボトルを持った手に違和感を覚える。

飲んでそっと置いた後、じっと見つめる。

少し震えていた。

(やっぱり緊張してるんじゃねぇか)

と、どこか客観的に見ている自分のほどよい緊張をあたらめて感じながら、いよいよ対局場に向かう。

対局開始のその前に

ここでひとつ。

この対局直前。

私、ひょうがらのおかん、やらかしました。

もうやらかしてばっかりじゃねぇかよ。

安食先生の口上前に一礼あるのですが、ふと釣られて頭を下げてしまう。

カメラに見切れてしまった。

「(おかん)さん。礼は大丈夫です。」の一声を聴きながら、はっずぅ、となったのもいい思い出。

やらかし列伝に終わりはないらしい。

対局開始

いよいよ、対局が始まる。

駒を淡々と並べる。

いつも肌身離さず着けている GARMIN を外す。

仏様の指輪をインデックス、ピンキーとしているが全部外す。

「仏様の力も絶対借りない。」

すべての準備が整う。

「よろしくお願いします。」

画面越しに見ていたアレ、まさにアレを、今この瞬間に、自分自身がしているわけだ。

改めて、人生なんてものは本当に分からないものだ、とつくづく思った。

「上手、飯島先生、6ニ銀。」

あ、そうだ。読上げあるんだった。

「下手、(おかん)さん、7六歩。」

覚えている読上げはおおよそここまでだった。

この後は、読上げの声は聞こえているけど、言葉として認識していない。

「飯島先生、持ち時間を…」

少し違う言葉なので耳には入ってきたがまた聞こえなくなる。
秒読みの続く中も何も聞こえない。

(そっか、こうなるんだ。)

ほんの一瞬、割って入ってくる思考に気を留めたのも束の間、また将棋に戻っていく。

対局の様子は、囲碁・将棋チャンネルさんの CS、あるいは、将棋プレミアムで観ることができるので、そちらを確認していただければと思います。

すべてを横に置き、ただひたすら将棋のことだけを一心に考え、真剣なまなざしで、持てるその全力を、対局者飯島八段に、目の前のその一局に、ひたすらぶつけている「ひょうがらのおかん」を観ることができます。

将棋プレミアムから視聴される方はこちらから
お好み将棋道場 第285回 プロアマ指導対局 | 囲碁将棋プレミアム (shogipremium.jp)

銀河将棋チャンネルから視聴される方はこちら
【将棋】お好み将棋道場 第285回 プロアマ指導対局(四枚落ち) - ニコニコ動画 (nicovideo.jp)

終局

やはり、一夜漬けのような将棋ではダメだ。

初級者の自分でさえも、もう自玉が詰むことが見えていた。

最後の最後までしっかり指そう。

王手ラッシュと言われようがしっかり指そう。

攻めが完全に切れる。

もうどうしようもない局面。

3手詰みの一手目が指される、その局面までしっかり指そう、決めた瞬間。

駒損も、うっかりも、何から何まで反省する時間がきた。

棋士・女流棋士の先生方の投了が近くなったところでよく言われる、

もう局面ではなく「どこが悪かったのか?」と反省している時間でしょうね

あれを今まさに自分がしている。

無駄に冷静で落ち着いた自分に少し苛立ちを覚えながら言葉を口にする。

「負けました」

私の挑戦がすべて終わる言葉。

私の挑戦に自ら終わりを告げるその言葉。

自らの言葉ですべてを終わらせるその瞬間だった。

チャンスは二度とは訪れない

不思議な感覚だったが、自分の頭の中では、この場で行われたこの一局を、終わりを悟ったその瞬間から逆再生されていった。

ずっと逆再生されながら、思い出す局面すべてを反省していた。

9七香、9八飛、あたりで、戸辺先生ならきっと「あ!まず玉を囲いましょう」と言ってるだろうな、などと。

その少し先で、今からでは間に合わない、と反省することになるあの手だ。

戸辺先生が

動画であれだけ「玉をしっかり囲いましょう」って言ってたのに。

8筋からの攻めもある、と言ってたのに。

何にも分かってなかった。

ほんの数秒だったようだが、自分の中では何分もずっと反省しっぱなしの時間だった。

指さなかった手を指すチャンスは二度とは訪れない

終局のその後で

終局後、すぐに感想戦が始まる。

飯島先生アドバイスをいただく。

すべてが終わった後でも、飯島先生、戸辺先生に今後に活かせるようにといろいろ熱心にアドバイスをいただく。

この言葉は今でも覚えている。

次の日、少し東京を散策して帰った後でも、棋譜を見返しながら、指し手覚えてるやん、と振り返りながら、アドバイスを漏らさず棋譜コメに入力できるくらいに。

本当に反省したのは

指した将棋の最後に大いに反省した。

しかし、まったく違う反省をこのあとずっとしていたのだ。

出演を決めたあの瞬間から本当に全力を出したか?

どうせ初級者と甘えていなかったか?

「できることは全部やった」なんて逃げを口にしなかったか?

「楽しめればいい」などとどこか浮かれていなかったか?

「負けました」の瞬間、くやしかったのだろう?

書いたこと全部吹き飛ばしても足りないくらいくやしかったのだろう?

そうでないと、あの短い時間に、あんなに反省なんてせんよな?

自分の指し手すべてを思い返せるくらい反省してたやん

言葉にならないくらい反省なんかせんよな?

神様、仏様とか綺麗事言うてる場合やないわ

おまえ、自分でも嫌になるくらい、心底負けず嫌いじゃねぇかよ

おまえさ!

本当は、勝ちたかったんだろう?

相手が誰だろうと、どんな手合いだろうと、やっぱり負けたくないわ。

すいません。私、将棋、指すのも好きでした。忘れてました。

改めて、思い出した一日になった。

最後に

収録も遅くなり、宿泊することを決めていたので、またごちそうになる。

このときもいろいろアドバイスをもらったわけだが、さっそくとばかり、指導対局をばんばん入れているあたりが、本当にダメなやつだなぁ、となどと思う。

でも。

飯島先生には、次はリベンジを果たして、なんでも食べてください、と言えるように。

戸辺先生には、ちゃんと玉を囲うことを覚えましたね、と言ってもらえるように。

竹部先生は、… いいや。

また、いつか、どこかで、絶対にリベンジ。

改めて

このような機会をいただいた囲碁・将棋チャンネルさん、スタッフの皆様。
日本将棋連盟の職員の皆様。

練習から何から何まで教えていただき、対局していただいた飯島先生。

いい指し手を全力で褒めて下さった解説の戸辺先生。

なんだかんだ言ってても、常に気を遣ってくださった竹部先生。

安食先生、廣森先生。つたない将棋ではありましたが本当にありがとうございました。

お世話になった先生方、スタッフの皆様、本当にありがとうございました。

最後に

この記事を書けるようになったのも、私の将棋に関することすべて、ときには冷やかし、いつも楽しんでいますと声をかけてくれた、画面の向こうのあなたのおかげです。

ありがとうございました。

唐突なお詫び

この収録があった2022年9月30日当日。
小髙女流に偶然お会いし、せっかく声までかけていただいたのに、ふわふわしていて、雑な受け答えしかできなかった気がします。

小髙先生、本当にすいませんでした。

こんな事情でありました。浮ついていただけなんです。

追記:名も知らぬ、あなたへ

名も知らぬ、あなたへ

ふと、ニコ生の放送に遊びに来てくれた
名も知らぬ、あなたへ

勇気をもって人生を変える一歩を踏み出した
名も知らぬ、あなたへ

以来、変わらぬ努力を続けている
名も知らぬ、あなたへ

あのときは何も伝えられなかった私から
名も知らぬ、あなたへ

また、放送にきてくれることを願っている
名も知らぬ、あなたへ

「わたしも、小さい一歩、踏み出してました」

今ならそう言える
名も知らぬ、あなたへ

また会えるのを楽しみにしています