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素人がボードゲームを製作、販売する方法〜市場調査、黒字化への戦略編〜

はじめに

ただのボードゲーム好きの銀行員で正真正銘の素人です。しかも、家族や親族としか遊ばず、ボードゲーム事情にも相当疎く、販売を決定するまでゲームマーケットの存在すら知らなかったようなド素人と言えます。

そんな私がネットで情報収集しながら、サッカーをテーマとしたUNOZEROというボードゲームを製作し、2023春のゲームマーケットに出展しました。販売することを決めてから実際の販売までに2年半かかっております。情報収集時、noteに参加されている皆様の記事には大変お世話になりました。本当にありがとうございます。その恩返しの意味も込めて、自分の経験を共有させて頂きたいと思います。


構想から製作までの期間

2年半の内訳は大体次の通りです。
・1ヶ月    構想
・3ヶ月 試作、改善
・4ヶ月 テストプレイ
・6ヶ月 市場調査
・4ヶ月 印刷所の模索
・6ヶ月 デザイナーの模索
・6ヶ月 製作

ボードゲーム製作のきっかけ

子供達からのオリジナルボードゲームを作って欲しいという無邪気な依頼から、Excelを使って開発するようになりました。空振りも多いですが、2つだけ継続的に遊んでもらえる自信のあるゲームを作ることができ、UNOZEROもその中の一つです。子供にプログラミング的思考(考える、試す、修正する)を身につけてほしいとの思いで開発を始め、興味をもってもらうために彼らの好きなサッカーを掛け合わせることで完成しました。

当初は矢印がクルクルまわり、繋がった矢印の上をボールがグルグルまわり、試行錯誤しながらゴールへボールを進めていくのが単純に楽しく、何となくプレイしていました。しかし、回数を重ねるうちに上達し、真剣勝負となっていき、遂には家族以外の強い人と対戦したいという話になり、製作、販売してみようという話に発展していきました。

市場調査に半年間費やした理由

構想、試作、改善、テストプレイは特筆することは無く、楽しみながら自分なりの方法で進めれば良いと思います。ただ、やるからには継続性のあるものにしたいと思い、どんなに時間がかかったとしても、いつかは収支ベースで黒字化できるような事業計画をたてることとしました。6ヶ月間の徹底した市場調査はそのための期間であり、初めてボードゲームを製作、販売してみたいと検討している方、すでに販売しており収支を黒字化させたいと考えている方にとっても有意義な内容を提供できるのではないかと思います。検証の結果として自分なりに導きだした出来る限り現実的な黒字化への戦略についても記載致します。

市場調査の結果

市場規模が小さく文献も少ないことから、データを集めることに苦労しました。データが古い可能性もありますが、参考にはなるかと思います。

市場規模

ボードゲームの日本の市場規模は70億程度(ただし、人生ゲーム等の大手の販売するゲームは除かれた数値です)。ドイツが700億程度で世界トップ、世界全体で2500億程度。ちなみに、知育玩具の国内市場規模は1500億程度、家庭用デジタルゲームの国内市場規模3800億程度なので、ボードゲームは非常に小さいマーケットと言えます。
国内において約1000種類のボードゲームが流通しており、年間300種類の新作が投入され、大体8割が海外、2割が国内のもの。ゲームマーケット等でのセミプロの製作する新作も含めれば年間600程度の新作が投入されていると考えられ、極めて厳しい競争のある市場と言えます。
一方、ゲームマーケットの入場者数は2000年の開始当初に400人だったのが、2023年春には22000人と増加傾向にあり、ボードゲームカフェ、専門店が増える等、成長している分野でもあります。

売れているボードゲームについて

・モノポリー:1935年発売、累計販売数2億5000万個以上
・カタン:1995年発売、累計販売数3500万個以上
・オセロ:1973年発売、累計販売数2500万個以上
・人生ゲーム:1968年発売、累計販売数1500万個以上
十分な販売を見込めるゲームのみ生産をオートメーション化し、超大量生産することで、十分に競争力のある販売価格が可能となります。オートメーション化の参入障壁は高く、売れるゲームは永続的に売れ続けるという好循環を生み出すことができます。

原価について

印刷するのみの書籍と異なり、ボード、カード、チップといった様々な種類のコンポーネントが必要になることから原価が高いです。ゲームマーケットで出展されるゲームは原価と販売価格が同額のものも多いようです。
1000個以上生産する目処がたてば、中国等で大量生産し、コンテナ輸送することで原価率を抑えることができます。ただし、コンポーネントに拘り、3Dプリンター等にて独自の方法で製作すると、人気化したとしても大量生産が難しく、また、もし大量生産できたとしてもコストを下げにくい可能性があります。

原価率の目安

独自調査でしかなく、ゲームの内容や販売価格にもよりますが、当初生産個数ごとの原価率の目安は次の通りです。
・50個:原価率100%。原価と販売価格がトントン。完売しても流通コスト分が赤字。
・100個:原価率80%。完売すれば流通コスト分を賄うことができ、収支トントン。
・1000個:原価率30%〜50%  流通コスト次第で黒字化が可能となる。

流通コスト

EC系(1個あたり委託販売手数料率)
・ボドゲーマ:20%
・アマゾン:10%
・booth:5.6%+22円
店舗系(1個あたり委託販売手数料率)
 ・イエローサブマリン:30%
 ・大手小売販売店、問屋:40%〜50%程度
店舗系よりEC系の方が流通コストは低いです。ただし、上記には店舗系では発生しない郵送コストが含まれていないので注意が必要です。もし、ユーザー負担としないのであれば、そのコストも加味する必要があります。
仮に口コミで人気化し、大手小売販売店から1000個受注することができ、中国で大量生産したとしても、流通コストが高いため、それだけでは黒字化は難しい可能性があります。例えば、1100個生産し、大手小売販売店に1000個卸した残りの100個について、流通コストの低いEC等で販売することで、その100個分については黒字化が可能となります。

黒字化のために必要な能力

市場調査の結果から見えてきた、黒字化のために必要となる力は下記の通りです。
 ①多くの方に面白いと思われるゲームを製作する力。
 ②面白いゲームであることを広める力。
 ③コストを抑えて生産する力。
 ④コストを抑えて流通させる力。
①の面白いゲームを製作する力は黒字化の一要素に過ぎず、②、③、④の力が無ければ黒字化させたうえで事業継続していくことは難しいと思われます。
「ハコオンナ」、「枯山水」等の人気ゲームの製作に関する記事にも目を通しましたが、人気化し販売部数が大きく増えてくると生産方法や流通方法で色々悩みが出てくるといったことが書いてありました。「人気になって良かった」で終わりではなく、それをいかに多くの方に届けるかという次の悩みが出てきます。

大手ベンダーの戦略

上記のような目線で見ていくと、例えば、ある大手ベンダーは最もコストのかかる箱のサイズを全商品で統一し、箱のデザインのみを変えることで生産コストを抑えていると思われました。印刷会社の事業構造として、印刷すること自体に大きなコストがかかるわけではなく、印刷する紙代や、家賃、人件費、印刷機といった固定費の方が大きなコストがかかります。出来る限りまとめてたくさん依頼し、稼働率を高めてもらうことで、印刷会社にとってもプラスになります。中国で安く生産できるのは固定費が日本より安いからですが、今後の経済情勢次第では想定よりコストが下がらなくなる可能性もありますので、常にベストな生産方法を模索していく必要があります。
ボードゲームを本業としている企業は面白いゲームを製作するだけでなく、様々なアイディアと企業努力により広告コスト、生産コスト、流通コストを下げ、ユーザーにとって魅力的な販売価格を提示しつつ、利益を出すことができる仕組みを構築しています。そういったアイディアを発見し、出来ることから真似してみるのも良いと思います。例えば、初めて製作する方の多くが利用する萬印堂さんへ依頼する場合、既に決められたサイズの中から選ぶ必要がありますので、新作を作る際、なるべく過去自作したゲームの箱やコンポーネントとサイズ、形を揃えることを意識してみると良いかと思います。すぐに効果は出ませんが、将来、相応の販売見込がたち大量生産することとなった際、コスト低減の交渉材料になります。なぜサイズ、形を揃えることでコストが低減するかについては次の記事で詳細を書きたいと思います。

ちなみにドイツでは上記の②③④に強い大手ベンダーが製作者から権利を譲り受け販売する形が確立されており、歩合制の場合、1個あたりネットプライス(出版社が商店に卸す価格)の3%〜6%が開発者に支払われるようです。詳細は不明ですが、おそらく日本でもその形態は存在していると思われ、大きな賞を獲得したゲームが後に大手ベンダーから販売されるケースがいくつかあります。面白いゲーム製作のみ頑張っていきたい方は無理して黒字化は目指さず、小ロットで生産しつつ大手ベンダーから声をかけられることを待つという戦略も良いかと思います。大手ベンダーは国内のみならず海外にも存在していますので、英語でのアピールも重要となります。事例として、海底探検、ピクテルといったゲームが該当しているのではないかと思います。

素人でも頑張ればできそうな現実的な戦略

大手ベンダーから声をかけられるかどうかは運の部分も大きいと思いますので、自力で黒字化させるための出来る限り現実的な戦略を考えました。
・初回は50個〜100個製作し、ゲームマーケットで販売しつつ、残りをボドゲーマ、booth等で小ロットずつ販売。
※仮に完売できたとしても、収支は赤字か良くてトントンです。
・定期的に新作を出し、なるべく箱、コンポーネント等のサイズを揃えることを意識する。
・Twitter、youtube、ブログ等でなるべくコストをかけずに自作の各ゲームの魅力を発信する。
・流通ルートについて、ECのみならず小売販売店での販売も含めて少しずつ増やしていき、販売手数料の高いルートと低いルートをミックスしていく。
・上記を繰り返し、各自作ゲームの合算にて年間販売部数1000個以上を目指す。
・各ゲームの生産するタイミングを合わせ、ベストな印刷会社へ1000個以上の生産をまとめて依頼し、原価率を下げる。

一つのゲームで1000個以上売れるのが理想ですが、例えば、年間100個売れるゲームを10作品用意することでも、箱やコンポーネントのサイズ、形をなるべく揃えることで、自作ゲーム全体での黒字化の可能性が見えてくると思われます。年間1000個売れるゲームを製作するのは相当ハードルが高いですが、年間100個の販売であれば、流通ルートを増やし、SNSを駆使して宣伝していくことで、頑張れば手が届きそうな気がしました(もちろん、それも十分に難易度は高いのですが…)。また、継続的に新作を出していくことで、何らかの賞をとったり、口コミで人気化する作品が生まれる確率もあがっていきます。

まとめ


・色々なコンポーネントが必要となるボードゲームの原価はとても高い。
・1000個以上まとめて生産すれば原価率を大きく下げることができるが、一つの自作ゲームで1000個以上売ることは相当ハードルが高い。
・各自作ゲームの箱やコンポーネントのサイズ、形をなるべく揃える。
・流通ルートを増やし、SNSを駆使することで、自作ゲーム合算で1000個以上売れるようになれば黒字化の可能性が出てくる。

半年におよぶ市場調査の結果、難易度は高いですが、何とか収支を黒字化させる戦略にたどりつきました。しかし、次のステップである印刷所、デザイナーを模索する段階でいくつかの問題が生じ、一方、UNOZEROの戦略ゲームとしてのポテンシャルも高いと思えたことから、全く別の戦略で収支の黒字化を目指すこととしました。次回の製作、広告編で詳細を記載していきたいと思います。下記が苦労しながら始めたTwitter、youtube、ボドゲーマです。
・Twitter

https://twitter.com/unozero_okazaki?s=21

・ボドゲーマ
ウノゼロ レビュー評価など3件|ボードゲーム情報 (hoobby.net)


最後に


「面白い=売れる」のではなく、様々な要素が重なり、売れるゲームに育っていくのだと思います。もし、当初の想定より売れなかったとしても落ち込む必要は全くないです。あなたが面白いと思っているならば、間違いなく面白いゲームなのです。クリエイティブの世界でデビューすること自体素晴らしい体験だと思います。購入してくれたユーザーのためにも、自信をもって、いかに面白いゲームであるかについて熱く語り続けてほしいと思います。思い通りにいかないことも、苦しいことも色々とあると思いますが、共に頑張っていきましょう。




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