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さっちゃんの話

子ども達の寝かしつけに、空想のお話をするのが好きだ。

小さいころ、たまに父がしてくれたことを今も覚えている。父は眠そうだったし、いつも「さっちゃん」という架空の女の子が公園に遊びに行くお話だった。

「さっちゃんはブランコに乗りました」「さっちゃんは滑り台をしました」父の作る話にはストーリーなど無く、大抵は話しながら私より先に寝てしまった。

それでも、嬉しかった。いつもあんまり家にいないし、居ても酒ばかり飲んでいる父が、大きなベッドでしてくれるお話。小さい頃から私は、お父さん子だった。

でも、さっちゃんの生活は退屈そうだった。友達すら出てこないのだ。ひとりで、いつもの公園に行き、遊具で遊ぶだけ。

(私だったら、もっと面白いお話ができるぞ…)
割と幼少期から謎のライバル意識を持っていて、小学校に上がる頃にはジャポニカ学習帳にお話を書き溜めていた。けれど2年生のとき、母親が家庭訪問に来た先生にそれを見せてしまった。恥ずかしくて悲しくて、私はお話を作ることをすっぱりと止めてしまった。

だから今、30年の年月を経て、我が子を相手に好きなだけ空想のお話を披露できることが嬉しい。

最近は、シリーズもの。お話の中で、今ふたりは小さなお店を経営している。万華鏡カフェという、カフェを併設した万華鏡のお店。カフェの調理は息子が担当していて、割とめちゃくちゃなメニューを出す。(バカウケポイント)

娘は万華鏡を展示していて、たまに小さな万華鏡が付いたアクセサリーも作っている。YouTubeを使って2人で宣伝をすることもある。好きな人も当然出てくるし、手をつないでデートに行くこともある。

つまり、彼らの憧れを、すべて架空のお話に放り込んでいるのだ。もちろん喜ぶに決まっている。ただし、我が家の寝る前のルールは「目を閉じること」「おしゃべりしないこと」。これを破ると、お話は「また明日」になる。

だから2人はできるだけ反応しないように、抱き枕を抱えたり、くくくと小さく笑ったりして、堪えている。口元だけが緩んでいて、私はそれを見るだけで1日の疲れが吹っ飛ぶ。

息子は、寝かしつけと夢が地続きなのか、夢の街にはぶどうの飲めるプールがあるんだよという話をしたら、起きてすぐ「流しそうめんプールがあったよ!」などと報告してきて笑ってしまった。

朝から「え、薬味は流れてた?」「最後はめんつゆなの?」という質疑が食卓で繰り広げられる。

こういう、日常に潜む小さな出来事が、ろうそくの灯のように心を温かく照らす。小さな頃、眠くてもお話をしてくれた父に、さっちゃんに、心から感謝している。

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