結局、記憶に残るもの

その日は運悪く、大雪だった。

友人のアパートに泊めてもらい、朝早くにお礼を言って家を出た。駅から目的地のビルまで、歩道橋を渡り、信号を進む。

街のほとんどが雪で覆われていて、手に持った地図はふにゃふにゃになってしまった。ビニール傘に、真っ白な雪が積もっていく。これが日常だったなら、カメラを片手に記念撮影でもするのに。

せっかくの東京は、就活の予定のみ。1着しか持っていないスーツも、合皮の野暮ったいパンプスも、しんなり濡れて溝鼠みたい。もうどうにでもなれという気持ちだった。

しばらく彷徨ってから見つけたロゴ入りのビルに、スーツ姿の学生が次々と吸い込まれていく。

案内されたホールは暖かく、目の前のスクリーンにはかっこいい企業CMが流れていた。気が付けば、私はぐうぐう寝ていた。誰が何と言おうと、素晴らしい眠りだった。試験には落ちたが、社名だけであのとろけるような快感を思い出す。

#旅する日本語 #追懐

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