見出し画像

不登校は不幸じゃない、か

不登校は不幸じゃない、か。


それでも、私は今も鬱々とした日々を送っている。
宿題が苦手だった私の実家の本棚には、かつて学校で配布された名前すら書いてないテキストや、答えを丸写ししただけの折り目のない綺麗な冊子がそのままにある。

なんの思い入れもない。

そのままだ。

私はあの頃から何も変わらずにいる。


不登校だった私は、無職になった。


21歳。大学は2年通ってドロップアウトした。
とはいえこの件はややこしく積み重なった事情の上の止むを得ない選択なのであまり気にしないで頂きたい。
ただの、私の現状。所謂レッテルなのだ。


不登校だったのは高校生の頃である。
あまり覚えてはいない。思い出したくもない。
そんなに長い期間ではなかった気もする。
不登校というより、自分の教室を前にすると、入れなかったというのが正しい。
保健室や図書室には登校していたのだ。それに、3年生になれば受験部屋という名の隔離教室に移動出来たので、私は逃げるように赤本に向き合っていられた。教室に入らなかったのは卒業するまでの1年半ほど、だろうか。


宿題は相変わらず出来ない生徒であったが、それは問題ではない。高校なんてテストが出来ていれば良いのだ。


問題だったのは、上手くかわせぬ人間関係にあった。



ともかく、今は陽も射さない部屋のベッドの上で、朝か夜かも分からない生活を続けている。筋肉が溶けて骨が軋むような痛みを感じ、気休めのように月の光の下をほんの少し歩いては、近くの公園で煙草を1~2本ふかす。そうして部屋に戻ってまたひたすらに黒い天井を見上げるのだ。
今年は桜の開花が早かったと、ネットで知った。


ほんの少し前までは、大学に通いながら寝る間も惜しむほどアルバイトに明け暮れ、美術を学びながら東京中を駆け回っていた。
好きな人と手を繋ぎ、仕事の知識も深め、喉の渇きも感じぬほどに喋り続けた。

燃えるように日々を生きて、思春期の悩みなどなかったかのように晴れ晴れとして生きていたのだ。間違いなく。



それがある時、ぷつりと糸が切れてしまった。
何が原因かは分からない。
突然だった。
私は日常生活で人と会わなくなり、掛け持ちしていたアルバイトも全て辞め、前述した薄暗い生活をかれこれ1年近く続けている。


今の収入は芝居のギャラと、舞台スタッフのお手伝い。
日銭を握りしめて浅い呼吸を繰り返している。

なんだ、家から出れてるじゃん、と思ったことだろう。

どうにか日中に人間になれる理由が、もう芝居にしか残っていないのだ。
起きて、着替えて、メイクをし、陽に目を細めることが出来る理由。
家に帰って頭痛に苛まれながら床に就くのもワンセットだが。


私に残された命綱は、細く透明で、首にキリキリと巻きついている。



話が逸れてしまった。



思い返せば、私はずっとそうやって生きてしまった。

甘えだの言われたところで知ったことではない。
これは私の人生で、環境に恵まれたものも含め、変えようが無い私の生活だ。

みっともない人間なのだ。

私の生き様にどれだけ呆れ憤慨しようと、どうせ誰も変わってはくれない。


かの小学生の弾糾する動画を見た。
戦争をなくしたい、箱舟を造りたい。
高尚な夢だと思う。


とても素敵だと思う。


私はその箱舟に乗ることを想像する。
たくさんの人が居る。もう無理だ。
楽しそうに振る舞う自分。
金もないし。
また具合が悪くなるだろう。


結局、私はきっと箱舟に乗ることを拒むのだ。


ごめん、その時期は舞台本番中だ〜(;_;)また誘って!
とLINEして、すぐに寝る。



不登校は不幸じゃない。
登校していたからと言って、幸福になれるわけでもないと思う。

あのまま無理に教室に通わされていたらどうなっていたのだろう。

当時学校では、無差別的に生徒の私物に尿が掛けられてるという馬鹿みたいな事件が頻発していたのだが、私の心労の元であるクラスメイトが被害にあったと聞いた時、半分心配しながらも心の奥底ではほくそ笑んでいる自分がいた。

そんなもんなのだ。
私を含む、そんなもんの人間しかいなかった。
わざわざ心を傷め、命を絶つほどのエネルギーを使う場所ではない。

ただ、エネルギーの変換がヘタクソで、最後まで上達する術を身に付けられずに成人してしまった。


人が怖い。

高校生のときに発症した精神障害はいまも変化し続け、私の体の中を脳みその中を肺を、心臓を、跳ねたスライムのように蹂躙してくる。

夢と現実が逆転するほどに眠り続け、夢の合間に見る天井の黒さに吐き気がする。
働かなければ、働かなければ、働かなければ、働かなければ、働かなければ、働かなければ、働かなければ、働かなければ、働かなければ、働かなければ、働かなければ、働かなければ、働かなければ。
眩しすぎるスマホの光を指で追いかけ、バイト情報を捲る。
面談、履歴書、顔写真。
最悪だ。最悪なコンボが脆弱過ぎる精神を叩き殴ってくる。
目を瞑り、また夢を見る。
温かくて大きな手が私の手を包むのだ。
幸せだ。

ああ、これか、幸せは。

そうか。

淡く美しいコウフクを噛みしめていると、私がせめて人間らしくと申し訳程度に設定したAM11時の無意味な目覚ましが鳴り響いてクソみたいな現実に戻される。

固く握りしめた枕の裾を見て、もれなく絶望した。


いつか健やかに、他人を気持ち悪くない存在と認識が戻り、せめて月15万くらいは稼げる人間に、なりたいよ


いま生きていられる私は不幸ではない。


不幸ではないけれど。


じゃあ、どんな子どもだったら、私の見上げた先の景色はひらけていたのだろうか

ビオトープの中で死ぬ生物は果たして拡大した世界なら死なないというのだろうか




疲れてしまった。


photo by shion (Tw@pht_shn)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?