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2021年1月10日、「マーガレットハウエルのコート」

2020年の9月、人生で初めて服に「一目惚れ」した。それが、マーガレットハウエルのコートだった。




それまで、服にかけるお金は1着3000円くらい、安ければ安いほどいいという程度の気のかけようで、当然愛着など生まれなかった。




だが社会人になって服の好みが変わったこと、断捨離をしたことなどをきっかけに、


「長く愛せる服を買いたい」


と思い始め、春秋にオフィスにも休日にも着ていけるコートを探し始めた。



できればベージュで、大きな襟がなくて、膝丈よりも長くて…など、色々わがまま放題言いながら自分のお気に入りを探し、ついに、「あ、これいいかも」と一目見て感じるコートを見つけた。



店員さんがよかったら試着どうぞと言うので、お言葉に甘えてコートの袖を通した。


「おっこれはっ結構いいかも…!」


色、形、素材、丈、襟。全てが自分の求めていたもので、自分にも似合っていると思えて、直感で「これはいい!」と思った。全身の細胞が震えた。



しかし…。即決は良くない。値段もわからないし。2万くらい?


店員さんが気をきかして商品番号と値段が入ったカードをくれた。



「きゅうまんえん…!!!!!??????!」



目ん玉が飛び出るとはこのことで、それは新卒ほやほや人間が買えるような値段ではなかった。



当時、マーガレットハウエルが、成人女性が憧れるブランドだなんて知らなかった。知っていたら、そんなのこのこ店に入って試着なんてできない。

「いや、流石に無理…」とこの時は諦め、とぼとぼ家に帰った。



この後の私の検索履歴はこうだ。

「新卒 コート 値段」
「OL コート 平均」
「新卒 ◯万円 コート」



あのコートのことは諦めよう、他の、もっと安いやつにしよう…そう思ってネットから店舗まで探しまくるが、脳裏にあるのはいつもあのコート。


目の前のコートと、あのコートをつい比べてしまう。これでは恋する少女漫画の主人公が


「どうしてあいつの顔が浮かんでくるの/////」


のシーンと同じじゃないか!



どうしたら安く買えるだろうか…ネットで買ったら、5000円くらいは安く買えそうだった。でもなぁ…本当に良いんだろうか…


悶々としながら、2週間がたった。あっという間に秋が深まっていき、会社に着ていくコートが本格的に必要になった。


「よし!もう一回試着して、すっぱり諦めよう!!!」



今度は前とは違う店舗に行き、店員さんにお願いして試着させてもらった。私は3000円のヨレヨレの服を着ていたのに、その店員さんはとても笑顔で対応してくれ、私がコートの購入を2週間悩んでいる話も聞いてくれた。



だが、一回店を出て、デパートの中をぐるぐるしながら考えた。


人生で初めて服に一目惚れした。あんな感覚は、今まで味わったことがなかった。服を買う時は、


「値段を理由に買うならやめておけ。値段を理由に買わないのは、やめておけ」


らしい。ここでやめたら、また私は値段を理由に買ってたいして服を大切にできずにまた捨ててしまうかもしれない…



「このコート、買います。」



さっきとは違う店員さんが対応してくれた。


冬場はセーターなどを着込むので、これくらいの着用感がいいだとか、プリーツスカートを合わせるならこんな感じになりますとか、もう購入を決めたのに何度も、何度も、私が本当に納得できるスタイルになるように、サイズの違うコートを出してくれた。洋服屋さんでこんなに良くしてもらったことがないので、涙が出るかと思った。




結局サイズは1番小さいので十分だった。もしもネットで買っていたら、2番目に大きいのにして、少しダボついていたかもしれない。



支払う時は人生でこの上なく緊張した。あぁ、私の9万円…。


商品を手渡す時、先程の店員さんが言った。


「末長く、使ってあげてください」


それはまるで、我が子を送り出す親のようだった。




そこから季節はながれ、私はそのコートと会社に行ったし、旅行にも行った。外を歩く時は常に上から鳥のフンが降ってこないか心配になった。



約1ヶ月後、お店からハガキが届いた。
そこには、「お求めいただけたコートがご活躍ですと幸いです。」とあった。


拝啓 
あの時の店員さん

私は今日も、コートのおかげで仕事をがんばれます。
末長く、大切にします。


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