玉砕の美学 11

2024年3月3週

「歩け!」という叫びを使っているのは私の回りの極少数な気がする。あまり良い言葉ではないが、非常に汎用性が高くて便利である。何より悲壮感があるのが良い。希望というよりは呪いに近くて、鉄火場の空気にはあっている。まぁ、最近の競馬場に鉄火場の空気があるのか?は疑問ではあるのだが…

「歩け!」の使い方は単純で、馬券的に邪魔な馬に叫べばいいのである。逃げ差し自在で、対象は何でもいい。便利過ぎて、「そのまま」でも「差せ」でも「残せ」でもいい場面であっても、「歩け!」を使ってしまう。

いつから使うようになったのか?正確には覚えていないが、チャーリーブレイヴのヒヤシンスSで、コパノリッキーに歩け!と叫んだ記憶はある。私、この1,2着のワイドを持っていて、一番人気のコパノリッキーが馬券圏外に落ちると配当が上がるので、必死に叫んだが、3着に残ってしまった。4戦目から歴史的名馬と戦っていたのか…これは2013年らしいが、もっと前から使っていたはずだ。

そもそも何処でこの叫びを覚えたかというと、一人で東京競馬場に行った時、画面に向かって「歩け!」と叫ぶおじさんに遭遇したのだ。千㍍のダート戦だったので、おそらく2月の小倉開催のはずだ。「①歩け!①歩け!」と絶叫するおじさんがいて、府中にはやべぇ奴がいると思ったのだが、その①番は4着に歩いて、おじさんは三連複を的中していて、何か凄みも感じた。

後日、勇者(馬友の一人だ)に、府中には「歩け!歩け!おじさんがいる」と報告したのだが、「いや、さすがにそんな奴おらんやろ~」という反応だった。本当なのに…後々、彼と一緒に競馬場に行った時、今度はスタンドから馬場に向かって、「歩け!歩け!」と聞こえてきて、ほら~、歩け!歩け!おじさんは実在するじゃないか!と、ラピュタは本当にあったんだぐらい勝ち誇る出来事があった。懐かしい。

あの頃でもいい年齢だったはずだが、歩け!歩け!おじさんは今でも元気だろうか?もう府中に行くのも年に数回程度なので、巡り合うのは難しい。最早、自分が歩け!歩け!おじさんではあるのだが、あの領域には達していない気がする。まぁ、やべぇおじさんに進んでなる必要もないのだけど…

その歩け!を使う場面があった。土曜中山12Rの古馬2勝クラスだ。千二のダート戦で、◎はスクバー、○はカンザシ、差し決着と踏んで、この2頭から馬連と三連複を買った。スクバーが抜け出し、カンザシの脚色もいい。馬連は大丈夫そうだが、◎○が揃って来たなら、三連複も取りたい。

その時、三番手にいたのはアドバンスファラオで、私、この馬を1枚も買っていない。差し決着に期待して切った逃げ馬だ。この馬が番手から粘りこもうとするところに「アドバンス歩け!アドバンス歩け!」と叫ぶのである。直後からサザンステートが差してきたので、この馬に「差せ!」と叫んでもいいのだ。脚色も有利そうなので、「そのまま!」でもいい。

それでも必死に「アドバンス歩け!アドバンス歩け!」と叫ぶのである。もう歩け!と叫びたいだけだが、この馬が歩かないと困るという必死さに哀愁があって良いのである。アドバンスファラオは綺麗に4着に歩いて、馬連の1,700円と三連複の8,430円が的中した。最終レースの後は、レースが無くてとてもいいが、この日は土曜日、日曜も競馬はあるのだ…

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