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note conte 『あだ名』


ーとある会社ー

新人に会社を案内するOLの大森。
熱心に聞いている新人OLの神田。

大森 「で、ここが給湯室ね。お茶とか入れる時はこの棚から茶葉を出すって感じかな」

神田 「はい(メモをしている)」

大森 「これで一通り案内はできたかな」

神田 「ありがとうございます」

今日の仕事を終えた雰囲気の大森はコーヒーを淹れ出す。

大森 「飲む?」

神田 「はい、いただきます」

大森 「でもさぁ、よくこんな会社を選んだよ」

神田 「え?なんでですか?」

大森 「この会社、本当にムカつく上司とか先輩ばっかりでさ」

神田 「え?そうなんですか・・・」

大森 「神田さんももう少ししたらわかるよ」

神田 「本当ですか」

大森 「でもいくらムカついても、結局、面と向かっては何にも言えないじゃん。だから私、陰であだ名つけてんだよね」

神田 「あだ名ですか?なんでまた?」

大森 「ストレス解消って感じかな、陰口言っててもあだ名だったらバレにくいでしょ」

神田 「そうなんですか・・・」

大森 「えっとね・・・例えばあそこに座ってる人、奥田さんわかる?」

給湯室の影からそっと指を刺す大森。

神田 「あ、はい。奥田さんはまだご挨拶程度しかお話したことないですけど・・・」

大森 「あの人はやたら偉そうにしてて嫌いなんだよね。あだ名は【ブルーレット】」

神田 「え?ブレー・・・トイレのやつですか?芳香剤の?なんでですか?臭いとかですか?」

大森 「いや、フルネームが奥田健って名前で、CMで♪ブルーレット置くだけっ♪てあるじゃん。そこから来てんの」

神田 「あ、そういうことか、『置くだけ、ん』で 【ブルーレット】うまい!」

大森 「そうそう!んで、あそこの木村さんいるじゃん」

神田 「はい、木村さん」

大森 「何かある度に言い訳ばっか言うのよ。『でもなんかー』『でもそれはー』『でもやっぱりー』ってでもでもでもでもばっかり言うから、あだ名が【デーモンばっか】」

神田 「あ、あのすごいメイクの?バントの方ですっけ?デーモン閣下みたいな?なるほど〜「でも〜」ばっかり言う人いますよねぇ」

大森 「んで、今はいないんだけど、椅子に緑のカーディガンがかかってるあの席わかる?」

神田 「あ、小池さんですね」

大森 「小池さんのあだ名は【パイプユニッシュ】」

神田 「え?ひどっ。何すかそのあだ名。排水溝みたいに汚いとかですか?」

大森 「ちょっと違うな。要はつまらないって事、あの人の話がマジでつまらないのよ」

神田 「あああ、(頷きながら)おおお・・・大森さんすごいですね」

大森 「常に排水溝にパイプユニッシュを入れてる状態みたいで一切つまらないから【パイプユニッシュ】」

神田 「なるほど、うまい!」

大森 「あそこの伊藤係長は【吉田tell me】」

神田 「え、伊藤係長が吉田?ちょっと待ってください。吉田さんっていますよね」

大森 「吉田さんは伊藤係長の隣の席」

神田 「え?ちょっとそれややこしくなりませんか?」

大森 「これがさ、伊藤係長がいつも吉田さんにこれ教えて?あれって何っていうの?って言って自分で全然調べないで聞いてばっかりなの、だから教えてを英語にして【吉田tell me】」

神田 「おおお・・・っ」

大森 「で、吉田さんのあだ名は・・・」

神田 「あ、そっか、吉田さんはまた違うのがあるんですね…」

大森 「あの人はいつもちょっとだけ遅刻してくるのよ、5分とか10分のどうしょうもない遅刻ばっかり、ちょこっと遅れるで・・・」

神田 「あ!わかったかも!チョコっと遅れる、lateで、もしかして【チョコレート】?」

大森 「おお!よくわかったね、正解、いいね」

神田 「あだ名がもうなぞなぞみたいになってません?」

大森 「では次の問題です」

神田 「問題って言っちゃてるし」

大森「めっちゃ人見知りで全然人と話さないけど上司にだけは気に入られようとするあの席の有田さん。あだ名はなんでしょう」

神田 「え〜なんだろ、人見知り…ひとみヒップ?いや、わかんないですね」

大森 「正解は【媚びうりシャイアンツ】」

神田 「いやすごいあだ名ですね」

大森 「有田さんの「あり」も「アンツ」で入ってんだよ。これいいでしょ」

神田 「凝りすぎ!て言うかあだ名長いですよ!あと捻り過ぎちゃって、逆にかっこよく聞こえますよ【媚びうりシャイアンツ】なんか特に」

大森 「なんでよ、嫌がらせであだ名つけてんのよ!」


ーある日の夜の居酒屋ー

神田は久々に友達の根岸と飲んでいる。

神田 「って感じでさ、会社の色んな人にめっちゃあだ名つけてんのよ」

根岸 「何それ、その人めっちゃ面白いんだけど」

神田 「その【あだ名つけ子】がさ、あだ名をつけた社員が述べ30人以上なんだよ」

根岸 「ん?・・・あだ名?つけ?」

神田 「それだけじゃ物足らず、社員でもないビルの清掃員にまでつけてんだから。【あだ名つけ子】が清掃員の1人につけたのが【グリーン】。掃除が下手で全く綺麗に、クリーンに出来ないから濁らせて【グリーン】なんだって、発想やばくない?」

根岸 「ちょっと待って、あだ名・・・つけ子?ってなにそれ?」

神田 「先輩、大森さんのあだ名」

根岸 「え、うそ、そのままじゃない?」

神田 「あだ名なんてこんなもんでしょ」

           完



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