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異人たちとの夏 / 山田太一

日に日に朝のひんやりとした空気が辛くなる季節になってきたって言うのに、ご覧の通り全く季節外れな本の紹介をする。

何年か前に実家の母の本棚にあるのを見つけ、その表紙の官能さとタイトルに惹かれて、そのまま母の本棚からくすねてきた一冊。
たぶん母に何も言われていないので、この本が母の本棚から消えたことに気付いていないのだろう。

ようやくこの本を読もうと開いたのは今年の9月のことで既に夏は終わりかけていた。それでも何故か今この本が読みたくなってじわじわと読み始めた。

秋が始まる時期に読むにはやっぱり遅かった。
もう少し蒸し暑い、涼を取りたいような時期に読むべきだったかもしれない。

主人公は、仕事に結婚生活に交友関係にと、色々もう人生にくたびれだしている中年男性。
その主人公が住む、都会のど真ん中で騒音に包まれる高層ビル。
ある夏夜に、ここに住むのは自分一人だけなのではないかということに気が付き、突然の恐怖感と不安感に苛まれて、いてもたってもいられなくなる所から、この主人公と読者と"異人たち"との夏が始まる。

その主人公と読者が共に過ごす、たったひと夏の、不思議な日々を綴るこの物語。
ただのオカルト小説でもない、SFでもない、スピリチュアルストーリーでもない、でも確実に現実ではない、別次元での物語であることに気が付くのは最後の最後になるだろう。
大体の物語の終わりは、読んでいるうちにわかってしまうものだしそれが当たると面白いと思うものだ、勿論この物語も終わりが見えてきてしまうんだけれど、その見当が、出来れば当たってほしくないと思って読み進めてしまう。

なにかと目に見えるモノを求め、目に見える結果を信じ、目に見える世界が全てだとされる現実だ。
私たちはそれを軸に生きてしまっているし、目に見えないモノは信じられなくなってきている。

昔はあんなに居ると思っていたサンタクロースも、UFOも、トトロも、私がまだハイハイしてる頃に亡くなった祖母の御霊も。
クリスマスプレゼントを貰うのには年齢制限があるだけでもう既にサンタクロースさんたちは大忙しの時期を迎えていようとも、ZOZOTOWNの社長が月からヴェノムを連れてこようとも、ご先祖様が私達をいつも遠くから見守っていようと、
私たちはそれをこの目で確かめなければ認められなくなった。

それが大人になるということなのだろうか。

少し寂しいような、マトモなような。
しかしこの"異人たちとの夏"を体験すると、きっとあなたはまた 見えないなにか を感じることが出来るかもしれない。
どんなに孤独でどんなに寂しくてどんなに独りよがりで生きていようとも、私達は一人ではない。
例えそれが、見えなくても。

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