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No.1072 男の子の言い訳

自慢にもなりませんが、「机の上が片付けられない症候群」の私は、
「整理整頓能力検定」があれば、「E判定」
「散らかしっぱなしライセンス」があれば、「1級」
の認定に自信があります。
 
綺麗に整頓し過ぎると「あの世からお呼びがかかってしまう」という強迫観念に襲われてしまうからです。
 
「耳遠くあの世のお呼び聴こえない」
2002年、第2回シルバー川柳(新潟県 ・男性・81 歳)
「お迎えは何時でも良いが今日は嫌」
2013年、第13回シルバー川柳(神奈川県・女性・84歳)
 
「そう言えば、きれいに片付いていたわ」
「全集もの、長編作品を仕上げちゃったからね」
などと、故人に対して口さがない事を言う人もおられ、「身辺整理=今生の別れ」のような安直で短絡的な図式を思い浮かべてしまえる能力のある私は、進んで片付ける気がしません。
 
そんなこんなで、いつも乱雑なままの机の上や、散らかしっぱなしの近くの置物の中から捜し物をしていたら、すっかり忘れていたメモ用紙が数枚出てきました。
 
そのうちの1枚には、TVで見たか、車のラジオで聞いたかの話が走り書きしてありました。
 「昨日、電車で10歳くらいの男の子が、お爺さんに席を譲ったので、『ありがとう。お母さんに教わったのかい?』とお爺ちゃんが聞くと、男の子が『良いことをしたら、お父さんが帰ってくるの。』と言った。近くにいた僕らは、皆、目が潤んだ。」
とありました。

そのメモ用紙には、「11月5日」の日付が書いてありました。11年前のその話は、今は亡き義父のお通夜の日に見たか聞いたかしたものを、思い出しながら書き留めたものでした。義父の二人の娘達の心境・心情もきっと同じだったに違いありません。良い事をすれば、きっと…。
 
この男の子は、江戸時代中期、長州藩の儒学者で、漢方医でもあった滝鶴台(1709年~1773年)の妻が、善いことをして徳が積めた時には白い糸を玉に巻いたというのと同じように、心の中に白い積善の糸を巻いているのだろうなと思いました。

邪気なく信じて励んでいた男の子は、今年、成人の頃でしょうか?彼のその後が、ゆかしく思われます。

「我田引水」「牽強付会」かもしれませんが、いつも整理整頓しているだけでは見逃してしまいそうな、こんな出会いもあるのです。


※画像は、クリエイター・重涅 扇さんの、「写真求めてぶらり旅」の途中の「田舎らしい風景」の1葉をかたじけなくしました。お礼申し上げます。