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No.1131 愛すべき弱虫

福岡県大牟田市生まれの詩人であり絵詞作家の内田麟太郎(1941年~)さんの詩「泣きすぎてはいけない」があります。その一部抄出です。

  泣きすぎてはいけない
  
 おまえは 待っている
 いつものように
 
 まだ 私の なくなったことを
 知らないで
 
 知れば おまえは 泣くだろう
 めそめそと
 
 それは 弱虫だろうか
 弱虫だ
 
 でも 私は 弱虫が好きだ
 弱虫の おまえが好きだ
 
 弱虫は
 人の悲しみを 思いやれるから

「泣きすぎてはいけない」(岩崎書店、2009年5月)

人を優しい気持ちにさせるこの詩は、いとしい孫への深い愛、永訣の悲しみを乗り越えてほしいという願い、命のはかなさや尊さ、繰り返される人の営みと流れる時間の永遠性、遺されるものにとっての死の悲しみの試練など、たくさんの思いが詰まっているようです。
 
私は、この詩を読んだときに『ドラえもん のび太の結婚前夜』(てんとう虫コミックス、1999年3月)で、しずかちゃんのお父さん(源義雄)が嫁ぐ娘に語った言葉を思いました。調べてみたら、こんな風に言っていました。
 「のび太くんを選んだきみの判断は正しかったと思うよ。」
 「あの青年は人のしあわせを思い、人の不幸を悲しむことのできる人だ。それがいちばん人間にとってだいじなことなんだからね。」
 「かれなら、まちがいなくきみをしあわせにしてくれると、ぼくは信じているよ。」

 のび太くんは、勉強も運動も苦手です。弱虫で泣き虫でいじめられっ子なのですが、人の痛みに涙する心優しい人物です。しずかちゃんのお父さんは、人の本質を見抜く目、炯眼の持ち主です。弱虫で優しい人ほど、心の強い人なのかもしれません。自分のことをこんな風に見て語ってくれる人は、なかなかいないものですよね。
 
人の痛みのわかる人は、人を恫喝したり、人に危害を加えたり、人の命を奪ったり、人を騙したり、他人の家や土地に土足で踏み込むことはしないでしょう。人の痛みのわからない人をトップに頂きたくはないものです。人を見る目の大切さ…。


※画像は、クリエイター・稲垣純也さんの、タイトル「静香とのび太 #4664 」の1葉をかたじけなくしました。お礼申し上げます。