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No.647 東西南北の人

ニュース(NEWS)とは、多角的に最新情報を収集して、正しく報せることだと思います。北=NORTH、東=EAST、西=WEST、南=SOUTHの頭文字を一語にすれば「NEWS」となり、近くは地元、遠くは世界を見据えて報道する視点は、古い時代から行われてきたものでしょう。
 
大分県には、大分合同新聞という地方紙があります。そのコラム名「東西南北」の出典に唸ってしまったので、ご紹介させてください。
 
中国は、盛唐(712年~765年)の時代に、高適(?~765年)という詩人が、友人の杜甫(712年~770年)に贈った「人日寄社二拾遺」(人日、杜二拾遺に寄す)の詩(七言排律)があります。「人日」(じんじつ)とは1月7日の風習をいい、「社二」(とじ)とは杜甫への親称をいったものであり、「拾遺」(天子に意見を進言する)とは官名のこと(杜甫は左拾遺に任じられたことがある)をいうそうです。その詩の終わりの二句は、次のようなものでした。
 
「龍鐘還(ま)た忝(かたじ)けなくす二千石
 愧(は)ず爾(なんぢ)東西南北の人」
(この私は、老いさらばえてもまだ刺吏などという職を頂戴している。
 無位無官、四方の土地を放浪している自由な君に対して恥ずかしい。)
と訳されています。
 
つまり、
「『東西南北』とは、定まった家も職もなく、あっちこっちを点々とする浪人」
「よくいえば天下の自由人だが、本当は、細々と浪人生活を送らざるを得ない人」
であって、その精神に拠ったのが大分合同新聞コラム「東西南北」の謂われだろうというのです。2018年(平成30年)に87歳で亡くなられた大分合同新聞取締役主筆の南里俊作氏が、1982年(昭和57年)4月1日に書かれたコラムに学びました。実に興味深く読みました。
 
私は、居所こそ定めてはいますが、詩人・高適に学ぶなら、
「人生手探り状態の東西南北の人」
なのかも知れません。ふぅ。もう少し、周りをよく見なければ…。

※画像は、クリエイター・鈴懸ねいろさんのタイトル「くねる、くねれば、くねる時。」をかたじけなくしました。お礼申し上げます。