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No.933 なにとなく、あわれに、かなし。

もう30年も前のことです。教え子がフィアンセを連れて我が陋屋を訪れてくれました。挨拶と披露を兼ねて、結婚式の招待状をわざわざ持参してくれたのです。その彼が高校3年生の時の体育大会の催しには、忘れられない思い出があります。

定番の「仮装行列」のクラスの出し物を何にするか、みんなで考えました。私が、
「神輿の一番上で燦然と輝く鳳凰になりたい!」
と提案したら、意外にもすんなり受け容れてくれました。えっ、マジ?
 
当日になり、どんなことになるのやらと期待と不安で緊張感が高まります。午後のプログラムの1番に組まれた「仮装行列」の文字が大きく浮かんで見えます。
 
午後の演目の始まる何分か前に生徒からお呼びがかかり、グラウンドに行くと、梯子の真ん中にバケツが伏せて結わえ付けられていました。ん?
 
生徒たちはお揃いの法被をつくり、頭には豆絞りの鉢巻きをキリリと締め、腹には真っ白な晒まで巻いて「あでやか」で「いなせ」な雰囲気をムンムン漂わせています。一方、クラス担任の私は、鳥のくちばしに見立てた黄色いメガホンを口にあてがわれ、ご丁寧にも赤いトサカ状の冠を頭部に載せられ、ジュディオングの「魅せられて」(紅白歌合戦)を彷彿とさせるような青いマントの両手に棒きれを握らされて緩やかに振るよう命じられました。どう贔屓目に見ても、孤独感のにじむ哀れなニワトリもどき(?)の鳳凰の姿です。
 
この状態で担ぎ上げられました。カッコよく担いで大声を張り上げながら笑顔満面でいる生徒たちと、梯子に据え付けられたバケツに腰かけ、転げ落ちまいと顔を引きつらせながら必死に両足を踏ん張り、鳳凰よろしく両腕をカクカク上げ下げする担任とのミスマッチが大うけし、な・な・何とグランプリを獲得してしまったというオマケつきです。
 
その男が結婚すると言うので、今度は私が彼を担ぎ上げる番だなと思った次第です。何となく、哀れに、悲しいその証拠写真は、私のアルバムにひっそりと収められています。


※画像は、クリエイター・たかさばさんの、「神輿の写真」の1葉をかたじけなくしました。燦然と輝くこの姿に魅了されていた私でしたが…。お礼を申し上げます。