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No.1144 私はファンです!

当方、70代男子です。
頭皮の現れた、寄るシワ波を目尻に刻み、ついでに眉間に縦ジワを刻み、ブヨン・ボワンなゆるゆる体型、いささか右耳が遠くなり、歯の8020運動空しく既に7005状態であり、小説の登場人物が5人を超えると記憶にとどめることが出来にくく、二病息災で、左膝が疼き始めた、眼鏡必死の、どこにでもいる(?)おっちゃん(ゴメンナサイ、爺さん)です。
 
こんな草臥れた風情の者が教師面をして廊下を歩いていても、顔なじみでない若い先生方は挨拶したり礼をしたりしてくれることも少なくなった、ちょっぴり寂しい状況の中、
「まっ、まぶしい!」
と思わず声を上げそうになるほど燦然と輝く男子生徒がいます。
 
どうも高校1年生らしい。でも、クラスも名前も知りません。そんな彼なのですが、廊下でたまに出くわすと、いったん立ち止まり、
「おはようございます!」
「こんにちは!」
と言ってから、こちらが恐縮するほどの美しい礼をしてくれるのです。心が形に籠ります。思わずこちらも「へへーっ!」と頭をさげてしまいます。もう「ほ」の「ほ」の「ほ」の字です。
 
つい先日、校舎の2階から降りてきた彼とバッタリと出会い、気持ちよく挨拶を交わし、
「いつも、美しい礼をする人だなあと思っていたんだよ!」
と肩をたたいて声を掛けたら、
「有り難うございます。親から『ちゃんとした挨拶をしなさいよ』と言われて、小学校の時からやっています。」
と返事がきました。ヘーボタン乱打です。なる程、堂に入っています。
 
「人間、素直が一番!」
そうだからこそ、打算も掛値もない美しい礼で、大人を感動させるのでしょう。「まごころ」を感じる見事な礼です。お見せ出来ないのが残念なくらいの振る舞いです。
 
でも、彼の名前もクラスも担任の名も聞きませんでした。私は、心が洗われるような彼の美しい礼のファンです。そして、胸のすくような美しい礼をする彼のファンです。


※画像は、クリエイター・阿北ボタンさんの、「校舎の階段で見下ろす少年。」の1葉をかたじけなくしました。コラムのシチュエーションに重なります。お礼申し上げます。