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No.969 一昨日の老天女

6時前には目覚める孫のために、私は「早朝乳母車散歩(SUGS)」に出かけます。いつもは団地内を20分程押して歩きます。一昨日は、少し遠出をしようと大きな道路に出ました。
 
幸い雲に隠れて太陽は出ていません。早朝の事とて、蒸し暑さもありませんでした。歩きやすい広い路肩を、1km先にあるコメダ珈琲明野店に向って直進しました。清々しい空気に、ベビーカーに揺られる孫も上機嫌です。
 
コメダ珈琲の前の大きな交差点の近くに着た時、少し足を引きずりながら半透明のポリ袋にゴミを集めながら歩く老女性に出会いました。まだ6時30分前のことです。
 
カジュアルな白いサファリハットを目深にかぶった、身長150㎝前後の白髪の女性は、お世辞にも痩せているとは言えない体型です。くたびれた紺色のリュックサックを背負った張り張りのピンクのシャツの肩の辺りは、すでに汗がにじんでいました。左手に大きなビニール袋、右手に長い火ばさみを持つその人は、七十代後半のように見えました。
 
互いに目礼を交わすと、彼女も一緒に交差点を渡り始めたので、思い切って声をかけてみました。
「朝早くから、ご精が出ますね…。」
「私ね、大きな手術したのよ。だいぶ良くなったから、体を動かして何かお返ししたいと思ってやってるの。」
「でも、足が少し不自由なんじゃありませんか?」
「両方に人工関節が入ってるから、ちょっと歩きにくいのよ。」
「リハビリも兼ねてるんですか?」
「そうね。それに朝はいい気分でしょ?ちょっと、そこのコンビニでトイレを借りてから、またやろうと思ってね!」
 
初めて話を交わしたのでしたが、親しげな笑顔を絶やしませんでした。私は、さりげない会話と、なかなか真似できない行動をする、美しい心のその人物に、天女か女神に出逢ったような、なにか畏れ敬いたくなる気持ちを抱きました。

小太りの老天女は、孫に「バイバイ!」とにっこり笑って声をかけた後、ゆっくりとコンビニに入ってゆきました。
 
孫のお陰(?)で、朝から出逢いの妙、会話の楽しみ、美しい生き方を学んだ気がしました。いつもは、ギャン泣きされて、泣きたい気分になる私でしたが…。


※画像は、クリエイター・Strolling Rickyさんの、「Photographing With, Vol. 1: Canon EOS Kiss X8i で散歩」の1枚をかたじけなくしました。私には、老女も輝いて見えました。お礼申し上げます。