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No.995 寿(いのちなが)く、ありませ!

今日、9月9日は、陽の数字(奇数)が重なるので、「重陽の節句」と呼ばれます。中国では、『芸文類聚』(624年撰)の中に、この日、魏の文帝が鍾繇(しょうよう。書家・政治家・武将)へ菊の花を贈った記事が見えるといいます。 そこで、「菊の節句」ともいわれます。
 
中国で重陽が正式な節句として認められたのは漢代(紀元前206年~208年までの前漢と、25年~220年頃までの後漢を総称して「漢王朝」と呼ぶ)の頃だということです。
 
その日は、「菊の被(き)せ綿」という行事もあります、9月8日の夜、満開の菊花の上に 真綿を被せます。翌9日の早朝、夜露を含み、菊の香りが移った真綿で老人の顔や体をぬぐうと、寿命が延び、若返るとされました。
 
こうした風習は、次第に忘れられ、3月3日の「雛の節句」、5月5日の「端午の節句」、7月7日の「七夕の節句」 等は、子どもが主役の年中行事として定着したのですが、長寿を祈る重陽の節句は、残念ながら国民的行事として受け継がれてはいないようです。和菓子や、菊の花の展示会で「菊の着せ綿」を見る機会がある程度です。
 
菊が主役となる節句であるにもかかわらず、残暑厳しい新暦9月9日に、満開の菊花はありません。旧暦9月9日は、新暦では一カ月半ほど遅れます。例えば、今年の9月9日は、10 月23 日に当たるそうです。こうした季節感とのズレが、「重陽の節句」や「菊の被せ綿」の行事を忘れさせる理由につながったのかも知れません。
 
そんなわけで、古典の年中行事に倣い、10月23日の夜に菊花に真綿をのせ、翌24日(旧暦9月9日)に露を含んだ綿でお爺ちゃんお婆ちゃんの肌を拭ってさしあげるなんて、いかがでしょう?お爺ちゃん、お婆ちゃんの目を細める様子が目に浮かびます。
 
さて、孔子の弟子たちによって成ったという『論語』(雍也篇)に、「知者楽 仁者寿」とと出て来ます。「知者は楽しみ、仁者は寿し(いのちながし)」と読むようですが、「寿」を「いのちながし」と読んでいることに心惹かれます。老寿を祝いたいものですね。

※画像は、クリエイター・柊月(しゅうげつ)さんの、キーワード「重陽の節句」の1葉をかたじけなくしました。その解説に「9月8日の夕方から日陰になる草原に、真綿を被せた菊を置いておきます。 重陽9月9日の朝、真綿に朝露が付きますので、 朝露の滴と菊の花弁を日本酒のぐい呑みに浮かべていただきます。」とありました。お礼申し上げます。