ヒ素とグルタチオン

北海道外でどのくらい報道されているのかわかりませんが、蘭越町というところで大量の蒸気が噴出しています。

森林が変色 大量の蒸気噴出問題 最大2700倍の高濃度ヒ素を検出 北海道蘭越町

ニュースの題目にもあるとおり、飲料水基準値の2700倍となる「ヒ素」が検出されているとのことです。

ヒ素はかつてシロアリ駆除にも使用されていていました(しかも効果絶大らしいです。今は禁止されています)。
それだけ毒性が強いということです。

無味無臭ということもあり、悪いことにも当然使えるわけで、暗殺に使われることもあるようです。
有名な話ではナポレオンもヒ素中毒で死んだとされていますが、真相は不明です。

ヒ素中毒は急性中毒、慢性中毒でそれぞれ症状が異なります。
慢性中毒では癌や糖尿病、心血管疾患の原因にもなると言われています。

またヒ素にはいろいろな種類があり、その中でも三酸化ヒ素(亜ヒ酸)が一番毒性が強いとされています。
毒性は
・無機ヒ素>有機ヒ素
・3価>5価
となっています。

ちなみに、再発または難治性の急性前骨髄球性白血病の治療薬である「トリセノックス」という薬は、三酸化ヒ素です。
つまり一番毒性の強いヒ素です。

自然界には幅広くヒ素が存在しますが、特に魚介類や海藻類は陸上生物よりも高濃度のヒ素を含んでいます
しかし安心してください。
魚介類・海藻類には無機ヒ素化合物よりも毒性の低い有機ヒ素の形態で海産物中に存在しているからです。

ちなみに、マウスの実験では、亜ヒ酸のLD50(50%致死量)は34.5 mg/kg、一方で有機ヒ素化合物であるアルセノベタイン(魚介に含まれる有機ヒ素化合物)は10 g/kg以上の経口投与群でも死亡がみられなかったという結果が出ています。
単位をよく見て欲しいのですが、「mg」と「g」で、まさに桁が違います。

そして飲料水には主に無機ヒ素化合物が含まれています。
今回の北海道で噴出しているヒ素というものは大部分が無機ヒ素化合物かもしれません。

これ、高濃度のヒ素が空間へ蒸気に含まれて放出されているわけで、空気の流れに乗って地中に落ちます。
そうしたらそこの土壌も高濃度のヒ素が含まれることになりますね。
農作物や地下水への影響はどうなってしまうのでしょうか。
周辺地域の農家さんだとかにすごく影響が出そうな気がします。

さて、ヒ素中毒の治療には医薬品である「ジメルカプロール」というものや、キレート治療を学んだ方なら聞いたことがあるかもしれませんがDMSAというものを使用することもあります。
ちなみに自費診療でおこなっているキレート点滴などでは、亜鉛などの重要なミネラルも外に流れて行ってしまうので、点滴後に疲労感が半端なくなることもあるようです。
ですからミネラルの十分な補給が重要です。

ジメルカプロールなんて病院の治療だし、DMSAだって簡単にできるものでもない。
そこでふと、
「グルタチオンも使えるんじゃね?」
と思って調べてみたのですね。

そうしたらありました、

ヒ素の免疫毒性発現におけるグルタチオンの役割

日本免疫毒性学会の第10回大会の年会賞を受賞した文献です。

最初の方だとか何書いてあるんだかさっぱり…という方も多いかと思います。
最後の「考察」のところだけでも読んでみてください。
こんなことが書かれています。

『アジア地域の慢性ヒ素中毒患者に観られる炎症や癌の発症は、微量な無機ヒ素を長期間摂取した事により、生体の酸化還元反応などの恒常性のバランスが崩れて誘導されているものと推測される。そしてその鍵となるのが恐らく生体内のGSH(グルタチオン)である。実際に慢性ヒ素中毒患者の血液中GSH濃度は健常人に比べて低い事が報告されている。慢性ヒ素中毒により何らかの理由で生体内のGSH濃度が低下すると、猛毒である無機ヒ素の毒性や発癌性が高まり、さらに無機ヒ素の最終代謝産物であるDMAsVによるapoptosis誘導も正常に働かなくなり、結果的にダメージを受けた異常な細胞が生き残ってしまうと考えられる。GSHは無機ヒ素のメチル化代謝における重要な補助因子でもあるので、GSHが不足すればヒ素のメチル化が上手く働かず、毒性の高い無機ヒ素が体内に貯留してしまう可能性もある。即ち、生体内GSHレベルが低下すると、それぞれのヒ素代謝産物がそれぞれ異なった毒性を示し、結果的に癌をはじめとする様々な慢性ヒ素中毒症状を発症させるのであろう。』

つまりは、無機ヒ素が体内で無毒化される機序にはメチル化という代謝が必要なのですが、グルタチオンが不足しているとうまく無毒化できずに、体内に毒性の高い無機ヒ素が貯留してしまう。
そして癌とかいろんな病気が発症してしまう。
簡単に言えばそういうことでしょう(細かくいうともう少し奥が深いのですが)。

ついでなので「もう少し」のところを書くと、ダメージを受けた細胞はアポトーシスという機序で細胞死が引き起こされるのですが、グルタチオンが不足していると、ヒ素でダメージを受けた細胞にアポトーシスが起こらずに残り続けてしまうということです。
つまりダメージを受けた役立たずのゴミ細胞が体に残り続けてしまうということ。
そりゃ病気になりそうです。

「慢性ヒ素中毒患者の血液中GSH濃度は健常人に比べて低い」とあるように、慢性ヒ素中毒の場合、体内でグルタチオンを過剰に消費してしまっている可能性があります。
もちろん急性中毒でもグルタチオンの消費は激しいと思われます。

ちなみに最後に

『この様に、ヒ素のメチル化代謝の真の意義と、それにおけるGSH(グルタチオン)の役割がようやく明らかになってきた。今後更に研究を進め、ヒ素の毒性発現機構と、それに対する生体側の防御機構をGSHを中心に解析し、例えばGSHを患者に投与するなどしてアジアの人々を慢性ヒ素中毒の脅威から救う事ができれば幸いである。更に、最近さかんに行われつつある、無機ヒ素の急性白血病治療への応用にも、我々の研究が、例えば抗白血病細胞作用の機序の解明や副作用の緩和などの面で役立つ事ができれば甚大である。』

と書かれています。
ここにある、「無機ヒ素の急性白血病治療への応用にも…」というところは、先に挙げた「トリセノックス」という三酸化ヒ素(毒性が一番強いヒ素)の薬剤のことだと思われます。
つまりこの毒性が一番強いヒ素の薬を使わなくちゃいけないとき、グルタチオンを使用すれば副作用軽減につながるかもしれないということです。

グルタチオンは本当すごいですね。

誰かにヒ素をこっそりちびちび盛られて殺されそうな人、グルタチオンを日々摂取していた方が良いかもしれません。

「あれ?」ってなりますから。

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