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お酒を飲めば誰でも気分転換になると思わないで下さい~避けるべきは女性なのか


「お酒を飲めば誰でも気分転換になると思わないで下さい。
 そういうことが苦手な方もいるのをお忘れなく」
(小笠原綸子「SHIROBAKO」第16話)


先日こちらの記事が話題になっていました。

ウォール街、「#MeToo」時代の新ルール-とにかく女性を避けよhttps://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2018-12-03/PJ5GIH6JTSEL01

この記事の内容がどれぐらい真実かはともかく、「セクハラと言われるリスクを冒さないため女性との接触自体を避ける男性達」というトピックが最近話題になっています。

セクハラは本来男女関係なく冒してしまうものですが、男性⇒女性が典型として語られるし、実際に多いとされているので、特に男性側は「意図せずセクハラを冒すリスク」に敏感になってきています。

では自分がセクハラを冒す可能性に敏感になった男性は何をするべきか?
こうしておけば絶対大丈夫という回答がないので、私自身いつも悩んでいます。

でも、件の記事のような態度に出るのは二つの点でまずい。

一つ目は、記事の中でも触れられていることですが、男性だけでつるむようになることで男性同士のつながりだけが強化され、その中で得られるメリット(仕事上の関係であれば有利な待遇を受けやすくなるなど)を女性が受けられなくなること。

私はそもそも男性どうしてあってもコミュニケーションをうまく取れるタイプではないんですね。だから相手が女性であっても、意図せずして問題のある言動をとってしまうリスクを常に抱えています。だからリスクのない関係に引っ込みたい気持ちはよくわかります。
軋轢を避けるために、必要以上のコミュニケーションを避けるという付き合い方自体はありだと思うんですよね。しかしそれを相手の属性によって使い分けた結果、全体として待遇に不均衡が生じるとしたら問題です。
別の方法なりアップデートした方法を考えなければいけないはずですが、件の記事はそこまで論評が及んでいません。むしろ男同士のつながりに引きこもる対応を「戦略」(strategy)と呼んだりしています。なんとなく、自分たちは悪くない(ハラスメントではないのに相手に冤罪を言い立てられる)という前提で語る男性たちの目線に同調しているような気配さえあります。

彼らが「自分たちの接し方には問題がないにもかかわらず、女性相手だと何が問題視されるかわからない」という前提に立っているならば、男性同士の付き合いにひきこもるという選択をとってしまうのも頷けます。
しかし、この「自分たち(=男性たち)の接し方には問題がない」という態度こそ、もっと根深い二つ目の問題だと思います。

仕事の後の一杯などの付き合いから女性が締め出されれば、男性同士のつながりばかりがますます強まりかねない。 

記事の最後のくだり。ここで考えなければいけないのは、「仕事の後の一杯」でセクハラ認定されかねないコミュニケーションが行われていたのだとしたら、「男同士ならば問題ない」なんて言えないんじゃないの?ということです。
男性同士の付き合いだって、同僚間であっても、上司と部下の関係ならなおのこと、力関係の差を利用したハラスメントは当たり前に発生します。「相手が女性だったらセクハラ」というレベルのことを、男性相手には平気で言い、言われた男性もそれを受け止めることが期待される。セクシャルではない内容のハラスメントもある。女性には言えないような「それ」を言い合えることで深まる「男性同士のつながり」って、結局その中で一番立場の弱い者が我慢をして成り立っている、「コミュニケーション」の振りをした何かではないか。
私はこの記事に書かれている「仕事の後の一杯」には付き合いたくないのですが、もし付き合わないと他の女性たちと同様に不利益を受けかねないのでしょうか。

セクハラを恐れて女性との接触を避ける男性がいるとして、彼らが避けているのは女性だけではない。自分たちの人との接し方(相手の性別関係なく)に問題がないか見つめ直すこと、考えることを避けてしまっている。そこにもっと根深い問題があると思います。
避けるべきものがあるとすれば一つしかありません。それは「自分の人との接し方には問題がない」と考えることです。

冒頭に引用したセリフは、アニメーションの製作現場を舞台にした作品の一節です。ある女性スタッフが仕事で行き詰っているときに、監督とプロデューサー(ともに男性)が、気分転換に飲みに行こうと提案しかけたところを、別の女性スタッフにピシャリとやられたところ。
この場面、男性二人は全くの善意でそれを提案しています。にもかかわらず彼らが失敗したのは、つい「自分たちが普段採用している解決策」を安易に提案してしまった点にあります。そしてその根本には、「自分たち」と励ましたい対象の女性スタッフでは考え方が事なる可能性を忘れてしまっているという問題がある。
その提案が男性の口から語られるところ、その内容が「飲み」であるところなど、職場での男性たちのコミュニケーションの在り方の問題を鋭く突いている場面だと思います。ちなみに脚本は女性。


[お酒を飲めば誰でも気分転換になると思わないで下さい~避けるべきは女性なのか]

【追記】
どうも件の記事の印象がよろしくないのは抜粋の仕方が適切でない点にありそう。
原文の英語の記事は問題提議としてデータも交えて色々な人にインタビューしているし、最後を
Men have to step up, she said, and “not let fear be a barrier.”
と、ある女性の発言で締めている。これだけでも記事の書き手がどういうスタンスなのかの印象がだいぶ変わります。

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