*試し読み:誘惑★オフィスLOVER2―プロローグ06―

* * *

今日は低く見積もっても、最低最悪な運勢。

身も心も疲れ切った状態で、ひとり暮らしの部屋に帰る度胸はなくて、私の足は意識をする前から実家に向かっていた。

相沢美月「ただいま・・・」

鍵を開けて玄関に入ると、廊下の先に明かりが見える。なんだかものすごくホッとして、思わず顔がほころぶ。

リビングのドアを開けると、ソファに座って携帯を操作していた妹の陽向が、顔を上げて目を大きくする。

陽向「あれ、お姉ちゃん? 珍しい、金曜日じゃないのにこっち来るなんて」

相沢美月「うん・・・今日、出先から直帰だったの。マンション帰るより、こっちのが近かったから」

陽向「そっか、お帰り」

相沢美月「ただいま・・・お母さん、もう寝てる?」

陽向「じゃないかな? 私もさっき仕事から帰って来たばっかだから、わかんないけど」

相沢美月「そう・・・」

陽向「そんなとこ立ってないで、座れば?」

なんでもない会話が、心をほぐす。疲れた表情に弱さを紛れさせて、陽向の隣に座る。

陽向「お姉ちゃん、なんかあった?」

相沢美月「どうして?」

陽向「・・・なんとなーく。あ、ねぇ! この間話してたシャンプーのCM、まだ撮影とかしてないの?」

相沢美月(今、それ聞く・・・?)

相沢美月「どうして?」

陽向「お姉ちゃんが初めて手掛けた作品でしょ? 早く見たいと思うのは、当然!」

弾けるような笑顔の眩しさに、私はようやく、心の底から悔しさを実感する。

なるべく軽く聞こえるように、笑顔を貼りつける。

相沢美月「ダメになっちゃった」

陽向「え?」

相沢美月「担当から外れることになったの」

陽向「でも、お姉ちゃんのアイディアでしょ?」

相沢美月「コンセプトは変わらないまま、他の人が」

陽向「どうしてよ」

相沢美月「上からの命令で、そう決まったの」

陽向「そんな・・・!」