*試し読み:誘惑★オフィスLOVER2―プロローグ07―

相沢美月「陽向にもアドバイスもらったのに、ごめんね?」

陽向「・・・嘘つき」

絞り出すような声は、微かに震えていて、のぞき込むと、陽向の大きな目に雫が溢れていた。

陽向「やっぱり、なんかあったじゃん」

相沢美月「・・・バレてた?」

陽向「妹の観察眼、見くびらないでくれる? お姉ちゃんが平日に泊まりに来るのは、必ず嫌なことがあった時って、決まってるし。それに、特に何もなかったら『ない』って答えるのに、今日は『どうして?』って答えてた」

相沢美月「本当、ひなちゃんには敵いません」

陽向「だったら、正直に白状して。担当から外れた理由、まだあるでしょ?」

普段は甘えん坊で、ザ・末っ子なのに、いざという時は、頼もしさを発揮する。

懐の深さに、お姉ちゃんはこれ以上強がれそうにない。

* * *

山縣社長の言葉をそのまま伝えると、涙で濡れていた陽向の目が、キッと鋭くつり上がる。

陽向「何それ・・・! 地味な人は、化粧品のCM作っちゃいけないの? だいたい! ファッションにこだわりがないだけで、お姉ちゃんは地味なんかじゃない・・・!」

相沢美月「陽向、ありがとう。わかってくれる人がいるから、私は大丈夫」

陽向「何が大丈夫なの? 悔しくないの!? 私は悔しいよ、自慢のお姉ちゃんがバカにされて、誰よりも頑張って、たくさんガマンして来たでしょ!? お母さんだって言ってた。初めてお姉ちゃんから、何かしたいって言葉を聞いたって、それほど強い気持ちで、仕事に向き合って来たのに・・・!」

相沢美月「陽向、私また頑張るから」

陽向「それなら、今頑張って」

相沢美月「っ!」

鋭く放たれる言葉に、ハッとなる。

誰に何を言われたところで、曲げる気はなかった。

だけど、私を誰より理解してくれる家族からの忠告は自信のない臆病な心を、的確に突いて逃がさない。

陽向「心のキレイさをわかってもらえないなら、その社長を見返すくらい、外見も着飾ればいい。そういうチャンス、ないの?」

相沢美月「3日後に、新社長就任のパーティがあるけど・・・」

陽向「そこで変身して、後悔させちゃおう!」

相沢美月「でも、方法が・・・」

陽向「お姉ちゃん、まさか忘れてる? 私たちには、超強力な助っ人がいるってこと」

ほんの数秒前まで、大粒の涙をこぼしていたのに、妹の顔には、とびきりの企みを潜めた笑みが浮かんでいた。

相沢美月(オシャレに着飾ったところで、何が変わる訳じゃない。だけど、小さな復讐くらい、神様も見逃してくれる・・・?)