*試し読み:誘惑★オフィスLOVER2―プロローグ03―

夏目さんと一緒に制作部を出て、私はエレベーターの到着を待っていた。

相沢美月「ごめんなさい」

夏目晴人「『どうして私が、田部ちゃんの仕事の穴埋めをしなくちゃいけないんですか!?』」

相沢美月「えっ?」

夏目晴人「くらいの文句は、許してやる」

相沢美月「・・・ふふ! 言いません、そんなこと。デスクで手持ち無沙汰になるより、百倍マシです」

夏目晴人「とりあえずの応援、てことだから。今後のことは、上条さんも考えてくれてると思うし」

相沢美月「それも、ちゃんとわかってます。今日の撮影って、確か子供服でしたよね?」

夏目晴人「そう、レクラ・デュ・ソレイ」

相沢美月「そのブランドなら、よく知ってます。従妹がデザイナーとして働いてるので。あれ? でも確か大人向けしか・・・」

夏目晴人「去年の秋冬から、キッズ&ベビー部門にも参入したんだ。元々レクラの担当だった縁で、そっちのラインも俺が任せてもらえることになって、今回は、その第3弾の撮影」

相沢美月「しっかり、勉強させていただきます」

夏目晴人「おっ、いい態度! 後輩の鏡だな。それにしても、相沢の従妹がそこのデザイナーとはな? 世間は狭い」

相沢美月「ふふ、本当ですね」

──その時

ポンという音と共に、エレベーターが到着する。

私は夏目さんに顔を向けたまま、一歩踏み出す。

夏目晴人「相沢っ!」

相沢美月「きゃっ」

夏目さんが伸ばした手よりも先に、私はエレベーターから降りて来た人に、正面衝突。

慌てて離れると、目の前の男性は何事もなかったように、キレイな顔の表情ひとつ変えず、私を見下ろしていた。

相沢美月「すみません・・・!」

???「いえ」

その人は、気にする様子もなく横を通り過ぎる。その背中を視線で追いかけながら、私は首を傾げる

相沢美月(見たことないけど、社内の人?)

夏目晴人「今の、サイバースピードの・・・」

相沢美月「え? 山縣社長、ですか」

夏目晴人「いや、名前は覚えてないけど。確か社長の、右腕的存在。メディア嫌いの山縣社長に代わって。取材とかはあの人が受けてるって、聞いたことがあるな」

相沢美月(言われてみれば。会社は有名なのに、社長本人は見たことないかも・・・)

夏目晴人「文句のひとつでも言っておくか?」

相沢美月「い、言いませんよ」

写真を見て判断されたのか、定かではないけれど、会ったこともない人にNGを出されるのは、釈然としない。

そうは言っても。

相沢美月(右腕さんに疑問をぶつけたところで、解決にもならないしね・・・)

夏目晴人「相沢、置いてくぞー」

相沢美月「あ、はい・・・!」

* * *

さすが、業界大手のレクラ・デュ・ソレイ。

本社ビルの中には、撮影スタジオも完備されていて、夏目さんが担当者と最終チェックをしている間、私は、キッズモデルたちのフォローをすることに。

相沢美月(撮影に使う最新型の水鉄砲をモデルたちに渡し、準備完了! あとは・・・と)

テンションの上がったキッズたちのヘアを、長身のメイクさんがテキパキと整えていく。

相沢美月(すごい美形・・・モデルさんみたい)

そんなことを考えながら、メイクさんの華麗な手つきに思わず見入っていると、明らかに特徴的な口調が、その場に響く。

メイク「ちょっとキッズたち! 君たちは数秒もじっとしてられないの!?」

相沢美月(もしかしてこの人・・・いわゆるオネエ!? メイクさんて、やっぱりそういう感じの人が多いのかな・・・)

相沢美月(それにしても、あの人はちょっと強烈かも)

夏目晴人「相沢美月! そろそろ撮影始めるって」

相沢美月「あ、はい! こちらはいつでも大丈夫です」

子供「おい、美月!」

ひとりのキッズモデルの声が聞こえて、振り返った瞬間・・・。

相沢美月「きゃっ・・・!」

おもちゃとは思えない威力の水圧が、私を襲った。