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名著『知的生産の技術』が50年の時を超えてウチらに届いた理由 #0012

かなり時間が空いてしまいましたが、今回から従来のポッドキャスト文字起こし方式ではなく、「話題まとめ」と題して編集後記的な位置づけの文章を書いていこうと思います。

話題まとめ

国立民族学博物館の初代館長、梅棹忠夫による大名著『知的生産の技術』について。この本は文化人類学の研究者である梅棹氏が編み出した勉強のノウハウ本のようなものです。
今から50年以上前に出版されたものですが、ここに書かれている「技術」は全く古びていません。
中でも有名なのは、大きさ、厚さ、罫線の配置までこだわり抜いた「カード式」のメモ術です。梅棹氏が開発したカードは勤務先の京都大学で評判を呼び、しまいには「京大式カード」として(勝手に)商品化されるまでに至りました。今でも購入することができます。
ただし、インターネットなど影も形もなかった時代のメモ法なので、ここに書かれていることを完全にそのまんま実践できるかというわけではありません。スマホのメモアプリのほうが手軽だし、梅棹氏も現代に生きていたらきっとEvernoteやNotionを利用していたはず。送った手紙は必ず控えのコピーを取って保存すべきだという主張も、現代のメールやチャットの時代には気にする必要はありません。
とはいえ、この本に書かれていることが無意味になったわけではなく、一段階抽象度を上げて理解して実践するのがよいのでは?という話をポッドキャストではしています。この本が時代を超越しているのは、そういう読みが通用する点にもあるのではないかと思います。
現代にもそのまま使える「技術」の例としては、「メモを取るときは文章で書け」だったり、「内容よりも形式の規格化を最優先にせよ」といったことでしょうか。整理と整頓の違いを江戸時代の国学者、本居宣長のエピソードをもとに解説しているのも興味深いです。
1969年に書かれたとは思えない鋭さで未来を予測している「あとがき」も圧巻だし、インターネットが存在しない時代の生活が文章の随所から感じられるという点でも楽しめます。エッセイ的にも読めるということですね。
読んでいると「なぜこんなに平仮名が多いのか?」と誰もが感じると思いますが、その理由についても最後まで読むと分かるようになっています。
ぜひ本書とともに本エピソードもお楽しみください。

お便りのコーナーについても少し。
今聴き返すと最後のお便りコーナーでの「紙の本がやっぱ良いよね話」は、今年話題になった「読書文化のマチズモ」ではないかと思いました。今年芥川賞を受賞した市川沙央さんの作品『ハンチバック』は、グループホームで暮らす重度障害者の女性が主人公の小説で、次のような一節が出てきます。

〈厚みが3、4センチはある本を両手で押さえて没頭する読書は、他のどんな行為よりも背骨に負荷をかける。私は紙の本を憎んでいた。目が見えること、本が持てること、ページがめくれること、読書姿勢が保てること、書店へ自由に買いに行けること、――5つの健常性を満たすことを要求する読書文化のマチズモを憎んでいた。その特権性に気づかない「本好き」たちの無知な傲慢さを憎んでいた〉

本エピソード収録は2023年5月。『ハンチバック』を知ったのはそのあとの話でしたが、今はこんなに無邪気に紙の本ってやっぱいいよねーとは思えないですね。そういえば梅棹忠夫先生は晩年失明してしまいました。紙の本は読めなかったに違いない。秘書をつけて例の「京大式カード」で情報整理し続けていたそうですが、読書はどうしていたんだろう?(もこみ)

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【トーク内容】
感想読み上げ(左利き回と民博回について)/日本左利き協会/組織化しにくい世界最大規模の少数派/民博初代館長の梅棹忠夫大先生/分類・展示の仕方/『知的生産の技術』はタイムレスなド名著/脱コミ制作は影響を受けまくっている/学問の原点は生物学である/分類が全ての基礎/発見の手帳とメモの魔力/麦くんが読んでた前田裕二/作詞用のメモ/フィールドワークへの苦手意識/文章でメモるべし/すぐ使わなくなった京大式カード/AI時代になっても古びない実用書/規格化の重要性を説く/読むときの注意点2つ/抽象度を上げて読む/ひらがなだらけの理由/文章からにじみ出る時代感/エッセイ的にも読める/送った手紙のコピーを取っていた/ちょっとしたひと手間の重要性/ツイートとストーリーズ/整理と整頓の違い/本居宣長の整“理”の良さ/頭が良い=記憶力?/片付ける=目に見えない所に隠す?/アプリの整理と整頓/あとがきの先見性/「情報科」の到来/読んでいない本について堂々と語る方法/W杯観てないのに実況ツイートする人/民博行ったら読みたくなる/浮かび上がる小松左京の肖像/博物館回やりたい/紙の本の良さ/村上春樹新作の電子書籍版/ツイッターも紙でやればいい/交換日記リバイバル/プロフィール帳交換長文マン/お知らせをしなければならない

収録日:2023年5月10日

【参考リンク】
・梅棹忠夫『知的生産の技術』(1969年、岩波新書)

・みんぱく(=国立民族学博物館)

柳樂光隆編「Kassa Overall Handbook」

・Water Walk「これ、な~んだ!(音楽編)」

【出てきた固有名詞】
日本左利き協会(https://lefthandedlife.net/
梅棹忠夫
分類学
博物学
前田裕二『メモの魔力 -The Magic of Memos』

石原さとみ
ピエール・バイヤール『読んでいない本について堂々と語る方法』

小松左京
星新一『きまぐれ星のメモ』
Water Walk

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