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「かわいそう」という黒魔術は既に存在している。

 一部界隈において、「かわいそうランキング」というワードが誕生してから数年たっているわけである。かわいそうと同情を寄せられやすい性質があればあるほど、当てはまるものから出たものは他者から賞賛、同情、正義といった色々なものを得やすくなるというものだ。

 その一方で、同様の主張を提示したり、苦しい状況などにあっても「かわいそう」と同情されない者に対しては、冷たくあしらわれやすいというものであり、場合によっては従来の正義すら適用外にされるという悲しい話である。

 この傾向を目の当たりにし、色々と考えていく過程の中で、発展していった未来はこのような感じになるのではないだろうか?というものを目にした。

 確かに、「かわいそう」を最大限にこのような懸念をいだくのは不思議ではない。

                 が、

 私が知る限りこれは懸念ではなく、すでに起こっていることだといえる。烈海王みたく「キサマ等の居る場所は既に‥我々が2000年前に通過した場所だッッッ」なんてことは言いませんが、しっかりと人類がすでに体験しているわけなのです。
 「かわいそう」とされる人々を生贄にすることで、何を得てきたのだろうか?その傾向が特に強い性犯罪を基にいくつか事例を紹介したい。


1 ミーガン法ついて

 一番有名な話としては。ミーガン法が挙げられるだろう。ご存知の通りこの法律の制定されたきっかけは、1994年にニュージャージー州ハミルトンで7歳の少女ミーガン・カンカちゃんが誘拐、殺害された事件を基に制定されたものです。
 犯人であるジェシー・ティメンデュカスは、過去に児童への性的虐待で二度の逮捕歴があったわけですが、そのことを周囲の人は知りませんでした。

 制定された法の内容にはある程度は周知の事実であるので、あえて触れない。ここで問題にしたいのは制定改定や制定後、性犯罪そのものに対しての問題点である。

 事件後、メーガンの母を中心とした署名活動が始まった。運動のわずか3か月でニュージャージー州議会で法案成立となり、2年後には連邦法にまでなっている。正直なところ、かなり早いといっていいだろう。

 しかし、制定されたものの、ミーガン法には多くの問題点が指摘されている。それが下記のまとめに乗っている情報である。

ミーガン法のまとめ
http://macska.org/meg/basic.html

 詳しい内容は下記リンク記事に譲るが、性犯罪者の更生阻害の懸念、再犯率減少の効果がないこと、私刑の横行、管理不十分など多くの問題点を残す結果となった。
 法の面でも、二重処罰・残虐な刑罰の禁止や事後法の禁止といった憲法上の問題点が存在していたが、前者二つは強引に行政法上の処罰ということで違憲性を回避している。(これだけ身体拘束のきつい罰則を与えることを刑罰でないとするとなると、刑罰と行政上の罰との違いはなんだろうか?行政法上の措置なら強度の身体的拘束につながる措置がすべて認められるのだろうか?という大きな疑問が生じる。)後者に関しても、無視されているようだ。

 また、性犯罪そのものに関して、再犯率の高さが実は間違っていたことなど、性犯罪の厳罰の根拠に誤り、誤解、根拠が不明確などといった側面もある故、そもそも性犯罪に特別な規定を設ける根拠が本当にあるのだろうか?という疑問もある。(下記に詳しいが、見たくない人は見ないことをお勧めします。)

性犯罪の神話 前編 ~神話の根拠とその現実~
https://togetter.com/li/1115440
性犯罪の神話 後篇 ~神話とモラルの崩壊~
https://togetter.com/li/1115733
性犯罪の神話 リファイン版 二大巨頭の根拠とその真実
https://note.mu/okoo20/n/na222479c20e1

 これらの不都合な事実は未だに多くの人に周知されているわけではなく、疑問が出てきたとしても、世間に顧みられることはほとんどない。法の制定の速さ、問題点がなんら顧みられていないことなど。これらの事情は、まさに「かわいそう」という感情がなせることではないだろうか?

2 沖縄米兵少女暴行事件について

 この事件については、1995年9月4日、沖縄県に駐留していたアメリカ海兵隊員2名とアメリカ海軍軍人1名の計3名が、12歳の女子小学生を拉致、集団強姦、強姦致傷、逮捕監禁という犯罪を行った事件である。

 当時、日米地位協定の影響もあり、運動が過熱したというものがあるが、この当時に行われた抗議集会には大規模なものであり、参加者は8万5000人という抗議集会の中では歴史上最大規模のものが出来上がった。
 
 これに類似した事例だと、沖縄県うるま市の女性会社員がシンザト・ケネス・フランクリン容疑者(32)が起こした事件の時には、主催者発表で6万5000人となっている。

>主催者によると、参加者は6万5000人。1995年に発生した米兵3人による少女暴行事件に抗議するため8万5000人(主催者発表)が参加した集会以来の規模となった。

 現代までに沖縄では色々な集会が行われているが、これほどの規模になるものはおそらくないだろう。この二つに共通する点はもちろん女性が性被害にあっているという点は言うまでもない。

 ヘリが落ちた時や、事故があった時ですら、おそらくこれほどのことになっていないだろう。他に米軍兵士が性犯罪以外の事件を起こしたとしても、これに類似する数字は出せていない。これらを考えると、性犯罪に合った被害者がいるという「かわいそう」はいかにも強烈な威力を持っているといえないだろうか?

 他にも強姦事件があるときには、マスコミも大きく報道しているような印象が強い。運動屋も利用しているような節も感じるのも、これを知っているからかもしれない。

3 女性専用車両から近年、急に話題に出てきた御堂筋事件

 女性専用車両に関しては、既に言うまでもないほどの問題点と非論理性、ダブルタンダードが出ているにもかかわらず、「かわいそう」からどれだけ多くの矛盾や問題点があっても、知らぬ顔を決め込んでいる。

 これだけでも、「かわいそう」の影響を感じさせるわけであるが、ここ1,2年程度だろうか?急に取り上げられている事件として御堂筋事件というものが出てきた。

 情報の発信源は悪名高い武蔵大学の千田教授である。

女性専用車両をめぐるトラブル多発中―車両は男性差別?
https://news.yahoo.co.jp/byline/sendayuki/20180216-00081687/

>そもそも女性専用車両が導入されるきっかけのひとつに、1988年の地下鉄御堂筋事件がある。

 しかし、この事件をきっかけとするにはかなり問題点が多い。

(1)事件と専用車の制定、制定から注目まで10年以上の空きがあること

 この事件から専用車が試験的に運航される2000年以降から10年以上も空いている。また、先にも述べたがこの事件がきっかけとなったと主張された話は明らかにここ1,2年のものであり、特に千田教授が主張したあたりからの情報が強い。

 ここで疑問がある。なぜ10年も前の物がきっかけなのだろうか?また、なぜ制定からこの期間まで時間が経っているにもかかわらず、相手から今更主張されたのだろうか?

 そのような問題が当時から主張されているのであれば、制定時や少し時間が経ったくらいに何らかの情報を見ていてもおかしくはないのである。が、かなり長い間女性専用車両にかかわっている私でさえも初耳といっていいほどの内容だった。それほどきっかけとして重要であるのなら、なぜ今まで出てこなかったのだろうか?というのは当然の疑問だろう。
 おそらく、制定当時にほぼ主張されていなかったものとも解釈される。活発に話されているのなら、何か情報が出ていてもいいのであるが、この時まで言われなかったということはそういうことなのだろう。

 また、10年前の事件を用いるということ自体かなり時代が経過しているものであり、本当にきっかけとして利用されたのか疑問もあるといえよう。件の会が行った中の一つ?(といっても専用車を導入推進したのは公明党が中心だが)だとしても、影響力がどれほどあったのかも不明だし、単に関わったからといってきっかけになるというのなら、多分件の会がやったことは何でもきっかけといえるため、広範過ぎるのではないかという話にもなる。
 根拠にするには、遠いきっかけなのではないだろうか?

(2)当時の情報を含め、情報提示をほとんどしていないこと

 更に問題なのが、この情報を出した千田教授を含め、それらしい情報をほとんど出してすらいないのである。調べてみたものの、この事件で発足した性暴力を許さない会というのは確かにこの事件がきっかけといえそうだ。が、当会が直接この事件を用いて専用車を導入させたような記述はなく、御堂筋事件について当会が書いている情報でも、せいぜい女性専用車が導入されたことが羅列的に書いてあるようなものしかなかった。
 また、当時かかわったとされる人が、きっかけとしてこの事件を挙げている話を提示してくれた方もいたが、その情報ですら当時の詳しい事情や経緯にこの事件がどうかかわったのか具体的に何ら書かれてはおらず、提示情報自体もやはりここ1,2年に書かれたものと明らかに新しい情報だった。

(以下ソース)
御堂筋事件

「女性専用車両、設置の経緯と考察 ―性暴力被害防止の視点から―」
山本(山口)典子


 その他にもこの事件について色々か経っている人を調べてみたのだが、誰一人として、女性専用車の制定過程において、本事件がどうかかわったのか?当時のあたりの議事録や鉄道会社の見解、公明党といった推進団体の記事などといった情報は見られなかった。
 また、上記のような情報提示をしたものはほんの一人だけで、あとはしっかりとした情報すら提示していない者ばかりであった。私が調べた成果は以上である。
 にも拘らず、情報だけがほぼソースもなく拡散され、真実であるかのごとく流布されているというわけである。本当ならせいぜいきっかけと言えたとしてもかなり遠因であり、色々な情報の中の一つくらいで消えていても不思議のない話だったろう。

 (ひょっとしたら本当にあるのかもしれないが、あったところできっかけとして主張するには遠すぎる可能性が高いし、証明できる可能性がほとんどないといえる。何かもっとよくわかる資料提示をしていただければいいのだが、今のところそれがないとなると何ら千田氏の主張を立証するのは難しく、きっかけといえるような強い内容とはいえない。)

 先日、性犯罪関連でデマであっても注意喚起などになればいいと擁護するようなものを見たが、本件もデマとまでは言わなくても類似の性質を有していると言える。しかも、特定の事件を基に特定の属性を隔離せんとする差別論では典型的な問題点をだすというおまけまでつけてくれた。

 確固たる情報がないにもかかわらず、これだけ広がるというのは「かわいそう」という面が、事実や経緯を調べることを曇らせたのかもしれない。ひょっとしたらこの事件の経緯がでたのも「かわいそう」だからという理由を用いて、正当性の強化を計るために、感情で人を操ろうとしたのではないのだろうかという疑念まで持ち上がる。 

(2019年3月21日 追記)

 弁護士ドットコムにおいて、この件が挙げられていたが、やはりこの記事でも当時の制定過程が書かれている情報源は何ら存在しなかった。 既に書かれた問題点に何ら触れていないあたり、弁護士ドットコムでも問題点を認識している人は少ないのだろうか?

(2019年8月18日追記)

 御堂筋事件についてより詳細を検討したnoteを掲載する。結論を述べるが、この事件はきっかけとして採用することはできないと考える。

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