別雷神の父は火雷神?

『山城国風土記逸文』では玉依媛に子供を生ませたのは乙訓郡の社におられる火雷命(ホノイカヅチノミコト)と書いています。丹塗矢の正体が火雷神ということです。ただしこれには異説があり、大山咋命(オオヤマクイノミコト)だとも言われていますが、ここでは『逸文』に従って火雷神として話を進めます。
火雷神は火雷大神(ホノイカヅチノオオカミ)と表記され、ウィキペディアによると、雷神であり、雷の猛威に対する畏れや稲妻と共にもたらされる雨の恵みに対する農耕民族であった古代日本人の信仰から生まれた神と考えられている。律令時代には大膳職に祀られ、火の神として信仰された。また、天神信仰では火雷神が由来の火雷天気毒王(からいてんきどくおう)がいる。主神の天満大自在天神(没後の菅原道真を神格化した呼称)が火雷大神として混同されることがある。とあります。天神信仰は別雷神の伝承とは関係ないのでここでは触れません。
大膳職(だいぜんしき、おおかしわでのつかさ)は朝廷において臣下に対する饗膳を供する役目です。天皇の食事は内膳司(ないぜんし、うちのかしわでのつかさ)が掌り、主食は大炊寮と役割が分かれていました。宮中では調理を担当する役所で火の神として祀られていたということです。
雷は「稲妻」や「稲光り」という言葉があるように稲の豊かな稔りをもたらす存在として敬われ、また落雷は火災を引き起こすとして恐れられました。パワーみなぎる神霊と言えます。
日本神話で火雷神が登場する場面は、イザナギがイザナミに会うために黄泉の国を訪ね、そこでイザナミの変わり果てた姿を見てしまいます。イザナミの亡骸には蛆(うじ)がたかっており、頭に大雷神、胸に火雷神、腹に黒雷神、女陰に咲(裂)雷神、左手に若雷神、右手に土雷神、左足に鳴雷神、右足に伏雷神の8柱の神が生じているのを見て、衝撃を受けてイザナギは逃げます。イザナミは恥をかかされたと追いかけます。そしてイザナギによるイザナミに対する絶縁宣言となり、その時に熊野信仰の速玉男命と事解男命が生まれています。この話の中では火雷神はイザナミの遺体の胸に生じていることになっていますが、火雷神はここで生まれた8つの雷神の総称でもあります。代表者という訳です。この神々は雷が引き起こす現象を表したものとされます。大雷神は強烈な雷の威力、火雷神は落雷が原因の火災を、黒雷神は雷が起きる時に天地が暗くなることを、咲雷神は雷が物を引き裂くことを、若雷神は雷の後の清々しい地上の姿を、土雷神は雷が地上に戻る姿を、鳴雷神は鳴り響く雷鳴を、伏雷神は雲に潜伏して雷光を発する姿、という具合です。
また中国の雷神信仰の影響から竜や蛇と関連づけられることもあります。
東京の代表的な観光名所の浅草寺には、「雷門」と書かれた大きな提灯がかかった門があります。この門は正しくは「風雷神門」と言います。俵屋宗達が描いた国宝の「風神雷神図屏風」は三十三間堂に祀られる風神雷神像をモデルにしたと言わています。背中に雷鳴を象徴する太鼓を背負っています。風神と雷神がベアーになっています。民話では雷が落ちて捕らえられ、この場所には二度と落ちないからと約束して許してもらったという話があります。「くわばら」という場所だったので、このことから雷が鳴ると落ちないように「くわばら、くわばら」と唱える俗信があります。
雷には恐しい面と親しみやすい面があるようです。火雷神は強いパワーがあり、その神から生まれた別雷神はより強いパワーを持っているとされたのだと言えます。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?