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届かないかもしれないラブレター

「小説を書くというのはね、いわばどこか知らない誰かに届かないかもしれないラブレターを書くようなものなんだよ」

作家の太田忠司先生は講評会でそう言っていた。

「とにかく、今その時を書けばいいんです」

作家の中村航さんはそう言っていた。

先日とある賞に入選し、講評会に出席した。

「誰だって最初から書けるわけじゃない。最初はミステリーから始まって、エッセイを書くようになって。その間彼女にもいろいろあったわけです。いろんなものを読んで、吸収して気が付いたら自分のものになっていく。そういう感覚が、わかるときがある。」

私はそんなことをいう先生を目の前に、ただ圧倒されていた。
脇から汗が垂れてくる。
彼らは、どこで何を見てきて、どうして小説家になろうと思ったのか。

「僕はね、小説家になろうと思ったことはないんだよ。本も全然読まない子だったしね。だけど高校生くらいかな。図書館にはたくさん本があることに気づいたんだよ、それでね、そこが僕がほかのみんなと違うところなんだけど、自分もじゃあ書いてみようと思ったんだよね。だから小説家になろうと思ったことは一度もないです。」

そういう先生は、きっと天才なのだろうと思った。
天才なんて言う言葉で終わらせてしまっていいのか、それすらもわからなくなるくらいあっさりとした回答だった。

そうか、書けばいいんだ。なにも躊躇することはない。自分にだって、できる。

どこか誰かに届くかもわからないラブレターを、今日も粛々と書く。


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