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工芸の壁を壊さず、潜り抜ける。DESIGN WEEK KYOTO CRAFTHON 2020イベントレポート

クラフト×ハッカソン = クラフトソン

2020年8月29日-30日に開催された、DESIGN WEEK KYOTO CRAFTHON 2020に参加してきました。2日間に渡り、工芸をテーマとした新しい事業プランをチームごとに検討する本イベント。デザイナーやイラストレーター、実際に伝統工芸を作っている職人、広告宣伝に関わっている方まで幅広い職種の方が一同に介し、工芸が抱える課題やこれからすべきことについて、どっぷりと議論しました。

CRAFTHON 2020の詳細はこちら

伝統工芸の職人さんと一緒にものづくりをする機会も増えてきた中、持ち帰るものが多いイベントだったので、以下覚書。

その前に、Miroすごい

いきなり本論から脱線しますが、オンラインホワイトボードMiroに感動しました。

昨今の状況下を受けて、イベントはオンライン中心で行われました。京都現地でも1人1台パソコンをあてがい、ソーシャルディスタンスを保った形での実施。この手の創発型ワークショップはオンラインでどうやるのかと思いきや、Miroがすこぶる快適だったので、特筆せざるを得ません。

リアルの場でポストイットをぺたぺた貼ったり、ホワイトボードにコメントを書いたり、ブレストに必要な行為をオンラインに置き換えたサービスなのですが、文字を書き直したり、コメントにさらにコメント被せたり、「あれ?リアルにやるより、かえって便利じゃね?」と思うことばかり。例えば、ポストイットだと描ける面積に限界がありますが、これにはない。

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加えて、使い勝手も素晴らしかった。参加者の年齢層はバラバラで、ITリテラシーも人それぞれだったのですが、最初は登録方法や操作方法につまづく人もいたものの、最終的には闊達な議論が交わされていました。これも、かなり直感的なUI/UXだったこそ。ポストイット1つとっても、端っこがくるんとした歪みが再現されており、職人技を感じました。仕事でも使えるツールだと思い、今日からMiro信者として布教活動に勤しみたいと思います。

Miroについて詳しく知りたい方は

工芸の、壁

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さて、本イベントのテーマである工芸について。工芸を要素分解したり、イベントのテーマが「日常に潜むバグで、暮らしを取り戻す」だったので、自分の身の回りのバグを共有したり、ひたすら発散と拡散を繰り返し、ビジネスの芽を探しました。その中で、ある方が「職人さんによっては、魅力を伝えることよりも、作ることに集中したいという方もいる」という意見が出ました。

これは、工芸を知る機会がない、知ったとしても遠い存在に感じてしまう、という議論から出てきた意見です。身の回りの職人さんのことを考えてみると、デザイナーと組んで新しいものを生み出したり、SNSで情報発信したり、伝えることに積極的な方ばかりでした。先のような意見を聞くと、自分の場合はたまたまそうだったんだな、と思いました。

作ることに集中したい。良いものを作れば、必ず手にとってもらえる。というのは職人らしさそのものであり、崇高さすらを感じます。一方で、そのスタンスでやっていくと、ますます孤立したものになってしまう。とはいえ、その魅力を伝えたい外部の人間に踏み込まれると拒絶反応が起きる。この間にある壁をどうするか。

壁を壊さずに、潜り抜ける

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つい、「そんな壁などを取り払えばよい」と考えてしまいます。そんなものなければ、もっと多くの人に関心を持ってもらえるのではと。でも、議論を交わす内に、壁は必要な存在でもあると思い始めました。

長年、続けてきたやり方、ポリシーを変えるのは、職人に限らず抵抗感があります。その年数が長ければ長いほど、当代ではもはや変えられないかもしれない。だからこそ、壁があることで、外部からの変化を避けられていると思えるのかなと。

ただ、刻々と時代は変わります。たまには壁から出てみるかと顔を出してみたら、もはやそこに誰もいなかった、なんてことになります。それを見越して、壁を取り払い、今までのやり方を刷新する方もいます。問題は、それができない、したくない職人をどうするか。

壁を薄くするか?
壁を低くするか?

いかに壁を壊さずに、工芸との距離を近づけるアプローチを議論する中で、「穴を掘れば良いのでは?」という意見が飛び出しました。もはや城攻めのような話。壁はそのままに、抜け道となる穴とは一体?

「工芸です」、から始めることを止めてみる

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すると、冒頭のある方から「職人側の手間をかけずに、こっちで色々やって伝える分には嫌がられない」と。なんて高い壁だ...と思っていたのですが、工芸にそこまで知識がないという方がポツリ一言。

「伝統工芸って、わかりにくい」

工芸が持つ歴史や文化を語り、手仕事や技をアピールし、そのもののクオリティを魅せる、というのが工芸を伝える常套手段だと思っていたのですが、その一言がぐさりと刺さりました。必死にあれこれ思案して伝えたところで、むしろその過程でどんどん高尚な内容になってしまった結果、理解できる層をどんどん小さくしてしまっていたのではなかろうかと。

いっそのこと、工芸から入ることを止めてみる。パッと見でまず気に入って、よくよく調べたら工芸だった、というぐらい、あり方を転換できないか。そんな視点から、チームの新しい事業プランが練り上げられていきました。

プレゼンテーション

の具体的な内容は主催者のイベントレポートに委ねるとして、各チーム、ヒントが詰まった内容ばかりでした。たった2日間で、しかもはじめて会った人同士でこれだけの成果が出せるというのは、何か新しいものを生み出すのに、長い年月や組織が必要なのかと考えさせられつつ……

・工芸は、ログが残る。シワ、滲み、割れ、すら、価値に転換できる
・「使う」と「食べる」を組み合わせて売る
・伝える人が圧倒的に足りない。伝える人を育てるスキームを作る
・モノ売りで稼がす、コト売りで稼ぐ

などなど、いい視点もたくさん貰いました。

好きでもない人を巻き込むには、
好きの力が必要だ

そんな良いイベントで、何より一番思ったのが、「みんな、工芸好きなんだな」です。好き同士で集まると、熱量が生まれるのが、オンライン越しでもよく分かりました。もちろんその熱量そのものは、あんまり興味のない人からすると足を遠ざけてしまう一因ですが、その日だけで面白い事業プランが何個も生まれたように、新しい何かを生み出す原動力に変えられるんだなと。これは工芸に限らない話だと思います。

工芸の明るい未来を期して...。