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愛しき人の命運





幸阪茉里乃さんで書きました


チキチー。さんの企画作品です


あまり喋らない人が
心では流暢に言葉を並べてる
気がしなくもない😌



よしなにしてくださいな












ーーーーー

心は雨模様。


ーーーーーー







(ああ――
この空はなんでこんなにも青く澄んでいるのだろう)
私の心情とはまるっきり反対
昔国語で習った「情景描写」についての記憶が蘇る


茉里乃
「確か辞書で引いたなぁ」


「特定の場面の光景、有様等に関する具体的記述」……だっけ?
先生が何度も、「この部分は落ち込んだ男の子の心情を空模様によって表現している
つまり、心情と景色の描写はリンクしている」と言っていたのが記憶に残っている
けれど今はそんなの絶対に嘘だって思う
こんなに落ち込んでいても
空は雲一つすら浮かんでいない快晴なんだもの



ーー
「茉里乃!また俯いて!そんな下ばっか見てても楽しくないでしょ?前を向こうよ」


声をかけてくれたのは、親友の綺良ちゃん
明るくて不思議でとても陽気な女の子
中学校で仲良くなり、同じ高校に進学したため今でも付き合いは続いている
今日も一緒に高校へ通学している
綺良ちゃんは、快晴に似合わない俯く私を心配し励ましてくれた


茉里乃
「はぁ……
私がこんな''能力''さえなければ、どんなに幸せだっただろう……((ボソッ…」


綺良
「ん?茉里乃なんか言った?」


茉里乃
「なんでもないよ
あ、綺良ちゃん
そこの曲がり角から''車が''飛び出してくるよ」


綺良
「わっ」


予言通りにブロック塀の影から
白い車が一時停止の標識があるにもかかわらず、さらに制限速度をオーバーし、通り過ぎていった
危ないことに、この道路は桜の木によって半分くらい視界が塞がっている
しかも、車通りもそこそこに多い


綺良
「ありがとう、茉里乃!」


綺良ちゃんは晴天に負けないくらい
無邪気に微笑んでいる
そっか……
物語の中心は、私なんかじゃない
他の誰かなんだ……
だから、私の感情は何の影響も与えてくれない


茉里乃
「……当然でしょ
(だって綺良ちゃんがいなくなったら
私は一生孤立しちゃうし)」


(私の悩みのタネはこれ……)


――''未来が視える''
じっと見つめると、その見つめたものが
どんな未来を歩むことになるかが
手に取るように分かる

道を見つめれば
通行する車や人が分かるし

空を見上げれば
いつ雨が降るかが分かる

人を見つめれば
何処で働いて
いつ死ぬのか
結婚はするのか
子供は居るのか

何だって分かってしまう
しかも未来を視ている間は
私の周りの時間は進まない
だから怪しがられることも
歩き続けて、電柱にぶつかることもない
一見すると、とても便利な能力に見えるけど、現実は甘くない
普通は分からない不幸でも、分かるが故に
気を病んでしまうから

現に、私は今まさにそれに悩まされている

(8年間片思いを続けた相手
幼馴染の○○とは、両思いであって
''私が告白すること''で付き合い始める
卒業しても付き合い続け
25で結婚し、子供を2人授かる
ここまでは順調
ここから悪い方向へと向かい始める
簡単に言うと○○は死んでしまう
信号無視をして猛進してくる車から私を守るために自らを犠牲にするから……
○○が亡くなって、シングルマザーとなる私に、子供二人を養う力はなく
養子として他の家庭に引き取って
もらうことになる
結果的に私は一人になり、孤立してしまう
唯一味方になってくれるのは
親友の綺良ちゃんだけ
でもずっと頼り続ける訳にはいかない
そんな人生はできることなら、いや絶対に避けたい)


綺良
「茉里乃?大丈夫?顔色悪そうだけど」


(……いけない
つい癖で考え込んでしまった
親友とはいえ、心配をかけすぎるのもやめたい)


茉里乃
「大丈夫、ちょっと考え事をしていただけだよ」


(できることならば
恋を、恋のままで終わらせなくても良い人生を生きたい
やっぱり、生まれ変わらないと運命は変わらないのかな……)
こんな具合に、ふとした時に深い絶望の淵に立たされた気分になる








ーーーーーー







気がつくと、もう高校の校門の前についていた


「おはよー」
「おはよう」


挨拶が飛び交う
この高校の人たちには、みんな、幸せな未来が待っている
...私一人を除いて
人の手によって、未来は変わる
例えば、私と○○が付き合わなければ
○○が死ぬことはないし、彼は他に結婚相手を見つける
でもなんだか、胸が苦しい……


ーー
「おはよう、茉里乃」


(この声は、○○だ
今は……私の前に来ないで……泣いちゃうから...)


○○
「''なんで?''茉里乃?」


○○に顔を覗き込まれ目が合う
耐えきれず涙が漏れ出す


茉里乃
「グスン……ウウウ😢」


○○
「どうした!?茉里乃、大丈夫か!?」


(分かってる
ここで泣いても、○○を困らせてしまうだけだって)
でも、堰き止めていたダムが決壊したかのように溢れ出す涙は、もう制御することはできなかった



私は○○から顔を背け空を仰ぐ

(空はやっぱり青く、曇りだしたり、雨が降る気配はない)
私の思い通りになることなんてない
そんなことを宣告されているようで
無性に……虚しく……悲しかった……


綺良ちゃん
「あー○○!
茉里乃こと泣かしたんですか!」


○○
「僕が泣かせたわけじゃない……
と思うんだけど……」


(○○の所為じゃないけど○○が原因だ)
冷静にスクールバッグを開き
ハンカチを取り出す
とめどなく溢れ出る涙で大好きな○○の顔は霞んでしまい、良く見えなかった


○○
「あー何か、ごめん」


茉里乃
「ううん、私が悪いの
こっちこそ、ごめんね...」


○○は、そっと私に近づくと耳元で囁く


○○
「...この後、''なにか悪いこと''でも起こるのか?」


私は、未来が視える
だけれど、その能力は周りに秘密にしている
だって、悪用されるかも知れないし
何より、偶然が積み重なっているだけかも知れないから
○○は例外
いつも親身になってくれて、頼りになる
そんな○○だから私も勇気を出して自分の秘密を明かすことができた


茉里乃
「...うん
''とっても悪いこと''」


○○
「そうか……
じゃあ俺から離れるんじゃないぞ
そうしたら――」


柔らかい微笑み
普段なら、「愛らしい」と思えるその表情も
今だけは……勇ましく見える


○○
「いつだって、守ってやる」


(ああ、嬉しい
けど、私が今一番望んでいるのは
''○○が生きていること''
だから、もう、関わらないほうが良いんだ)


茉里乃
「ありがとう……
でもごめん……
もう……一緒にはいられない...!」


涙を拭うと、その場から駆け出す
サヨナラ……私の初恋


私が居なくなった後の校門前での会話


○○
「綺良、もしかして僕、嫌われた?」


綺良
「どうですかね?
でも声をかけるだけで泣かれるって相当...」


○○
「...言うな……わかってる……
……結構傷つくな……それ
昔から、ずっと一緒に居たのに」


○○は、寂しそうに茉里乃の走り去っていった校舎を眺めていた











ーーーーーー






お昼休み




(やっちゃった...もう引き返せない……)
窓側の最後列の席で、突っ伏してしまう
心は冷たく沈んでいるのに、暖かい陽気な日光が照りつけてくる
(何もあそこまで拒否らなくても良かったのかな……
関わらない方法なんていくらでもありそうなのに……
傷つけちゃったかな……
私って、最低なやつだな
この空に溶けてなくなってしまいたい……)


○○
「居た、茉里乃!」


(○○...私、あんなにひどいことしたのに
どうして?)


○○
「俺のこと嫌いになっちゃったなら
無理にとは言わないけど、一度ゆっくり話さない?」


(私はいつも、この優しさに甘えてしまう
あぁ……''好き、いや大好き……''
やっぱり、○○なしじゃ生きてけない)


茉里乃
「うん...」


○○
「よかった」


○○はほっと胸を撫で下ろした


○○
「この先、どんな事が起こるのか教えてほしいそうすれば、何か解決策を思いつくかも知れないから」


先程の流れで、屋上までやってきた
通常、生徒の立ち入りは禁止だけど○○が生徒会長の権限を使って開放したみたい
職権濫用はやめてほしいんだけど……


茉里乃
「残念だけど、○○には''どうすることも''できないの……」

これは本当
だって、未来の○○が死ぬ間際に言い残した言葉を知ればよく分かる





ーーーーーー




○○
「茉里乃……無事で良かった……
俺は駄目みたいだ……
子どもたちをよろしく頼む……」


茉里乃
「○○!お願い……私を置いてかないで!」


そして、○○は最も美しい顔で微笑む


○○
「僕は、茉里乃が生きているだけで幸せなんだたとえ……俺が……死ぬこと……に……なった……とし……て……も……」


その瞳は、強い決意の火を灯していた


私が何と言っても、身代わりになるのを辞めることはない
だから、○○自身をどうにかすることは出来ない……





___つーっと一筋、流れ星が落ちた



















ーーーーー

あの時の君は。


ーーーーー










とめどなく溢れた涙
(私は本当に泣き虫だ
自分の感情にも打ち勝てないのに「○○を救う」なんて大口を叩いて……)


○○
「本っ当に変わらないな、茉里乃」


茉里乃
「……え?」


○○の瞳は
時たまにすべてを見透かしているかのように透き通っていて凛々しくなる……


○○
「''ずっと視てきた''から分かるよ
小学校の時もそうだったじゃん」



小学校...ああ、3年生の時のことかな?
私が夜、不審者に遭遇してしまったこと
街灯の少ない暗い道を通った時に
黒いマスクにサングラス
そしてフードで完全に顔を隠した
いかにも不審者!って男が、急に話しかけてきた
何度も断ったのだけれど、
終いには無理やり連れてかれ
車に乗せられて連れ去られそうになった
その時にやってきた助けてくれたヒーローが、○○だった
(あの時の○○は、かっこよかったな
颯爽と私のところに駆けつけてくれて
倍くらいの体格差がある大人相手に
果敢に立ち向かっていった
……同時にヒヤッともした場面もあったけど
怖くて悲鳴も上げられなかったのに
逸早く気がついて助けに来てくれた
私のヒーロー……
そして初恋の相手……
だいぶ拗らせてきたけれども……)









○○は、吐息の一つでも
はっきりと音が聞こえてしまうほどの距離に顔を近づけてくる
後退ろうとしたが、後ろは壁
上には貯水タンクがある
それ以上下がることはできない
そんな状況で、○○ははっきりと口を開く


○○
「――茉里乃は、SOS……
''たすけて''のサインが見えづらい」


そんなつもりはなかった
自分では、逃げている''つもり''だった
それなのに……


茉里乃
「...」


何も……言い返せない……
いや、自分でも分かっていたのに
この能力、''未来視''の所為で
どうしても、普通に接することが出来ない
甘えられなかった


○○
「自立することと、独立することの違いって分かる?」


茉里乃
「?
どっちも似たような言葉じゃないの?」


○○
「全然違うよ笑
独立って調べると分かるんだけど
助けを借りずに自分の力だけでなんとかするそんな感じ
でも、人間って1人では生きていけないでしょ?」


茉里乃
「……うん」


○○
「反対に、自立を調べるとなんて出てくると思う?」


茉里乃
「人を頼って生きていく?」


○○
「そこまではいかないけどね
依存はしない
けど、主体的に行動をして必要があれば
誰かを頼ることができる
それが自立だよ」


茉里乃
「そうなんだ...」


学校では、「自立をしろ」と教育されてきた
確かに「自立」の意味なんて考えたこともなかった
勝手に「独立」と同じ意味だと解釈している


○○
「だからさ、もっと周りを頼って
根本的な解決にはならなくても、心の支えにはなれるかも知れないから」


そう言ってはにかむ○○は
陽光に輝らされて、神様みたいに見えた
本物の神様は、未来を変えてくれるのかな...


茉里乃
「ありがとう
すこし元気が出た」


○○
「それは良かった
もう一度言うけど、1人で溜め込まないでね?」


念を押された
フフッ笑
やけに真剣そうな○○を見て、自然と笑いが込み上げた
そうだよね
未来がどうであろうと、今から思い詰める必要はないよね
しばらくは、この心地よい関係に溺れていよう






















ーーーーーーーー














――キーンコーンカーンコーン






授業を終える鐘の音が鳴り響く






ーー
「これで授業を終わります。号令」


ーー
「気をつけ、礼」


ーー
『ありがとうございました』





6限目の数学が終わった
太陽はやや傾き、影を伸ばしていく



茉里乃
「ふぁ〜、眠い...」


こうやって、今日も特筆すべき事もない
一日は終わりを告げる
(今日は早く帰って寝よう)
スクールバッグを持って、1人、駅へと向かう
綺良ちゃんも○○も部活があって
一緒には帰れない
私も何か運動出来る部活に入ろうと思ったけど練習中に大怪我をし、後遺症が残るという未来を視たので辞めた
何をやっても平凡な私は、特に誰からも気に留められないので、「一緒に帰ろう」的なことは言われない
(いわゆる陰キャってやつ?笑)
駅のホームで電車を待つ
スマホは電池の残量が微妙なので、開けずにしまっておく
風はないけど冬だからか少し肌寒い...
(……なんか誰かに見られてる?気がする……
気の所為か……)
まだ日の沈んでいないホームには、屋根の吹き抜けから射す光によってくっきりと陰をつけた列車が、風を切りながら停った


ーー
「電車をお降りの際は、足元にご注意下さいPlease watch your step when you leave the train.」


少数が降りた後、大勢が車両に乗り込む
あぁ、満員電車って苦手だ……
このぎゅうぎゅう押される感覚がどうにも慣れない
こうやって帰宅するのも2年目だと言うのに
蒸し暑いし……酸欠かな……頭が痛い
どうし____ゾワゾワッ!
…………満員電車だし、たまたま当たっただけかも知れないけど...……


茉里乃
「ッ!!!ひぇ...」


(これは、絶対わざと……痴漢だ……)
下半身に触れる手は、完全に獲物を狙う動きをしている
怖くて身体が強ばる……恐怖で声が出ない...
痴漢なんて、バレないわけがないって思ってた……
だけど、実際に遭ってみると怒りとかそんな感情よりも恐怖が勝ってしまう
人間、何をされるか分からない状況ほど怖いものはないんだ


茉里乃
(誰か、助けて...!)


ーー
「――すみません
ちょっとお話したいことがあるので、次の駅で降りてもらえませんか?」


痴漢の手が離れたかと思ったら、そんな声が聞こえた
(この声は……)
振り返ると、そこには痴漢の手首を握りつぶさんとばかりに恐ろしく冷たい目をした○○が居た
丁度その時、次の駅へと停車するため列車はゆっくりとブレーキを踏んだ


茉里乃
「○○……ありがと……」


そんな、そっけないお礼しか言えなかったが、本当に感謝している
ただ、屋上の件からは、ちょっと気まずい
だって、キスでもするかというほど接近した○○の顔が脳裏をよぎるから
その距離は僅か十数センチ
小学生の時に助けてもらって恋してから、初めて意図的に○○を避けるようになって
あれ程近づいたことはない
今でも、思い出して心臓がバクバクと鼓動している
なんだか恥ずかしくなって、ふいっと顔を背ける
すると○○は


○○
「当たり前だよ
好いてる女の子が困ってたら助けたくなるものでしょ?」


さも当たり前かのように、笑顔でとんでもない爆弾発言をしてくる
さーっと頬に紅が射す
同時に、それは''友達として''の好きだと思うようにする、と言っても両思いだった未来は見えているのでそんなことはないのだろうけど……
どちらにせよ、浮かれてはいけない
私は○○と結ばれるべき相手ではないのだから

駅のホームから駅員室へ行くと、駅員さんに痴漢を引き渡し、警察を呼んでもらった
痴漢は逃げる様子もなく、犯行もほぼほぼ白状している
あとは、警察の到着を待つだけだ


○○
「少なくともこれから、事情聴取何かがあるだろうからしばらくは帰れないかもね...
早く帰りたそうにしていたけど、大事にしちゃってごめん」


茉里乃
「なんで謝るの?私、助けてくれて本当に嬉しかったよ?
それに、安心したよ
やっぱり○○は私のヒーローだよ」


○○の頬には、ほんのり赤みが射す
ここだけ見たら、ただの可愛い男子高生
でも、本当に大きくなったな...幼稚園に入る前から○○のことは知っていたけど
小学校を卒業するくらいまで、身長差はあまりなかった
それなのに、今の○○は私よりも15センチくらいは高くて、運動もしているから体格もガッチリしている
○○の背中を見て、「逞しい」と思う日が来るなんて想像もしなかった


○○
「そう言えば○○、部活はどうしたの?」


○○の所属するバスケ部は、今日活動があるはず
大きな大会も近いので、練習に力が入ってると思っていた


○○
「実は...怪我しちゃって」


茉里乃
「え、どこを!?」


○○
「左足首を……」


そう言って、制服のズボンを捲ると、足首を見せてくれた
包帯が巻かれていた


茉里乃
「大会大丈夫なの?」


○○
「軽く捻っただけだから安静にしてれば大丈夫だよ」


そんな他愛の話をしていると唐突に話しかけられた


ーー
「警察です
痴漢の現行犯だと聞きましたが、状況を詳しく説明していただけますか?」


茉里乃、○○
「はい」


警察が到着したようだ




















ーーーーーー

未来を変えるために。

ーーーーーー









茉里乃
(はぁ…○○はどうしてこんな私に優しくしてくれるのかな
諦めるって決めたのに、ダラダラと引きずってしまう
もういっそ、転校でもしようかな……)


黙りこくった私を見兼ねたのか、警察のおじさんが話しかけてくれる


警察のおじさん
「怖かったかい?最近、痴漢が多いんだよ
警察も、対処に困っている」


茉里乃
「…そうなんですか」


おじさんは、どこか懐かしむような目で、駅員室の窓から外を眺める


警察のおじさん
「俺が警官になったのは、それが原因でもあるんだ」


茉里乃
「……?それは、どういう…」


警察のおじさん
「昔、付き合っていた彼女がいた
ある日、君のように痴漢にあったのだが
犯人を捕えることはできず、心に深い傷を負ってしまった……」


雰囲気が重くなった……
(もしかして…)


茉里乃
「……彼女さんは……どうなったんですか?」


警察のおじさん
「……言わんとしていることは分かった
勿論ちゃんと生きているよ
なんなら、今は俺の嫁さんだ」


(よかった……自殺してしまったのかと思った)


警察のおじさん
「犯人を捕らえられなかった理由は、証拠を提示できなかったことだ
今回は、現行犯逮捕ができたおかげで
問題なく裁けるんだが
一度逃してしまうと難しいんだよ
再犯でもしない限り」


茉里乃
「それで、あなたが警官になった経緯は何ですか?」


警察のおじさん
「社会を、''未来''を変えるためだ
犯罪の抑止や検挙率の増加を図ってきた
目立った効果はなくても1人でも、たった1人でも報われる人が増えることを願っている」


茉里乃
「…」


(未来を変える
そんなことはできるのかな?)
今まで、視てきた未来が違ったことは1度もない
寸分の狂いもなく運命の歯車は廻り続ける


警察のおじさん
「ありがとう、君達のおかげで検挙できそうだ
奴は常習犯だったし、実刑に出来る」


茉里乃
「そうですか
それは、良かったです」


事情聴取から解放された時には、
日は暮れ、辺りは真っ暗だった
事情聴取も、殆ど何も話さなかったのだが











ーーーーーーー









茉里乃
「○○、足大丈夫?」


私たちは電車を降りると、一緒に歩いて帰っていた
見慣れた光景
だけど、今日は何処か特別な気がする
ブロック塀の続く一本道の果てには
無限とも思える空間が広がっている
空を見上げれば多くの星が一つ一つ
精一杯に輝いている


○○
「お陰様で
それにしても、災難だったね
急いでいたみたいだけど」


自分も巻き込まれたというのに嫌な顔一つせず、私の事を気遣ってくれる
昔から、献身的だったな
人の為にその身を削って
そんな彼が、報われることを願っていた



___彼は、○○は死ぬべきじゃない



茉里乃
「急いでいた訳じゃないよ
ただ……眠かっただけ」


嘘ではない
理由の一つだ
もう一つ、居心地の悪い学校からいち早く離れたかったというのもあるけれど


茉里乃
「…○○は、私のこと……どう思ってる?」


○○
「どうって、大切な人だよ?
もちろん、''幼馴染として''だけではなくね」


茉里乃
「ん?それって…」


○○は私を……
私の心を……見透してしまうかのような
透き通った瞳で見つめてくる


○○
「俺は、茉里乃のことが''好きだ
いや、大好き''だ」


茉里乃
「…」


(これは、告白だ
本当なら、泣いて喜んで受けたいところなのだけど、私なんかと結ばれていいことはない
本当に彼のことを想うのであれば、断る以外の選択肢は……ない)


茉里乃
「ごめん、それは…受けら____」


○○
「告白したのは、''俺''だよ?」


茉里乃
「?」


そのまま、○○は続ける。


○○
「茉里乃の視えていた未来とは
少し違うだろう?」


茉里乃
「……あっ…
……違う……」
(私が見た未来は''○○''からの告白じゃない……)


警察のおじさんの言葉を思い出した


警察のおじさん
「___未来を変えるためだ」


未来は変わるかもしれない
不動なものなんてない
諸行無常なんだ


茉里乃
「○○……知っていたの?どこで……?
誰にも言っていないのに……」


(言っても、自惚れだとか、馬鹿らしいとか返される気がして、誰にも相談しなかったはず)


○○
「……まあね
だから少しのきっかけで良くない未来が変わるかもしれない……
それより……」


○○は、私に迫ってくる
後に引くものの、ブロック塀に阻まれてしまい、僅か10センチの距離まで接近された
彼は片手を、私の肩の上につくと


○○
「……告白の返事を貰えないかな?」


茉里乃
(こ、これって''壁ドン''!?
は、反則だよ……
もうとっくに私の気持ちなんて分かっているくせに……)


茉里乃
「……お、教えて
何で、私が視た(○○との)未来を知っているの?」


○○
「あぁ……今まで黙っていてごめん……
実は……俺……」























''人の心が読めるんだ''














茉里乃
(心が読める????
理解が追いつかない……
も、もしかして私が考えていたこと
全部筒抜けだったってこと?)


○○
「そうだよ
今まで俺とのどんな妄想していたかとか、普段あまり喋らない茉里乃が懇切丁寧に心の中で流暢に考えていることを披露していることもひとつの漏れもなく全部」


茉里乃
「!?!?!?カァッ///
へ、変態!!!」


顔が赤くなる


(心が読めるなら、早く教えてよ!
心の声ダダ漏れだったなんて、恥ずかしいんだけど!)


○○
「ごめんって
今も、言う気はなかったんだ
だって、心を読まれるかもしれないって思いながら一緒に居るの……嫌だろ?」


茉里乃
「ちょ、ちょっとまた心を読まないで!
……ムゥ……嫌だけど、嫌じゃ…ない……」


(私は、どんな○○でも好き
私をここまで想ってくれる人なんて、全世界を探しても他に居ないと思う)


○○
「それって……」


茉里乃
「……言わなくても心……読めるんだから……分かるでしょ……」
心を読める○○を皮肉る


○○
「茉里乃の口から直接聞きたい」


茉里乃
(意地悪)


私の口からは自然と、一生打ち明ける気のなかった思いが溢れはじめる


茉里乃
「私は、○○のことが''好き……いや、大好き''……ずっと前から……」


○○
「俺もだよ……だから、''俺と……付き合って欲しい''」












未来なんて、どうなるか分からない
その時視えた未来は次の日には変わるかもしれないし、元々、未来なんて視えていないのかもしれない
だけど、これだけは断言できる
___私は、○○を嫌いになることはない
絶対に好きで居続けられる自信があるから
だから……


茉里乃
「……喜んで……
これからよろしくね」


この夜、私たちの初恋は8年の時を経て成就した













ーーーーー

















ーー
「幸阪くん、□□社の株が2割増だ凄いじゃないか」


茉里乃
「ありがとうございます。
後、先週から苗字が変わりました」


そう言って、薬指の結婚指輪を見せる


ーー
「おお、それはめでたいね
おめでとう」


私は証券会社に勤めるようになった
また、○○は大手の商社に就職した
就職後、数年経ちお互いに安定して生活できるようになった私たちは先日、籍をいれた

未来は少しずつ変わる
1人だと変えることは難しいかもしれない
でも2人ならほんの僅かかもしれないけど
変えられるかもしれない











これは、未来の視える少女''茉里乃''が、心が読める幼馴染の''○○''と結ばれ、2人で幸せになるまでの恋物語






















____fin

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