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BUCK-TICKの好きな曲の話(90年代編その1)

BUCK-TICKの好きな曲について綴ります。

このタイミングでBUCK-TICKを聴くと悲しくなるかと思ったんですが、むしろ「なんて優しい曲たちなんだ」と慰められてしまうような感じがしました。一方で、死生観に基づく歌詞があまりにダイレクトに響いてきて胸が苦しくなったり。

ともかく改めて感じたのは、「良い」曲が沢山あるということ。その「良い」には「かっこいい」「泣ける」ほか「面白い」「すごい」そして「こいつら正気か?」「そんなんアリなのか?」などが含まれるわけですが、語るべき音楽がある。積まれた曲数はいくら書いても足りないほどで、だから今、すこしくらい書きたいと思います。



本記事は特に「代表曲選」でも「オススメXX曲」でも更に「この年代の個人的ベスト6曲!」でもなく、ほんとにただ大きな脈略を意識せず書きだしていきます。単純に思いついた6曲。本当はバンドの歴史をたどりながら書くともっと伝わりやすいと思うのですが、そんな力が今はない。

もしBUCK-TICKを聴いたことがない方がいて、どこから手をつけてみれば……と悩んでいる方がいれば、まずは拙稿やこの辺りの記事が参考になると思います。

そしてファンとして断言しますが、最新作『異空』はキャリア屈指のアルバムなので、この入口で間違いないです。前作『ABRACADABRA』、前々作『No. 0』、前々々作『アトム 未来派 No.9』にもまったく同じことが言えます。BUCK-TICKとはそういうバンドでした。


本題に入っていきます。
今回は90年代から何曲か選びました。



■National Media Boy('90)

『TABOO』でアルバム1位獲得後にLSD所持で逮捕~復活という、世間的な注目を最も集めていたタイミングで放たれた、自己紹介というには鮮烈すぎるオープニングトラック。

何曲ものアイデアを詰めこんだ目まぐるしい構成には、今井さんの「これで全員黙らせる」という若かりし気合が漲っている。一度入ったら戻れない場所に誘い込まれてしまうような名曲です。

音楽的にも今井寿が迸っています。

まず拍子感覚です。Aメロ出だしから6/4という珍しい拍を展開することでリスナーの体感を揺さぶります。続く「ラララ・ラララ」が3/4、「浮かぶ影にMore Than God (Ha Ha)」で4/4拍子に戻ってと息もつかせません。

コード進行も捻りにひねられており、派手な転調ではなく一時転調やドミナントマイナーを多用することで、シーン(場面)が切り替わるのでなくその場でカメラをぶん回すようなアングル転換で楽曲を展開していきます。一方でサビは半音下降していくコード進行が暗い夜道が開けて風が吹きぬけるようで美しい。「踊れ 踊れ♪」と急に爽やかでキャッチーなメロディを押しつけてくる。なんだろうこの世界観は。見事に誘いこまれてしまった。

トータルとして"次の展開"というより"次の小節"が読めないんです。ヒャダインおよび2010年前後のアニソンは「聴き手を飽きさせない」ために展開をコロコロ変えていきましたが、今井さんの目論見は明らかに「聴き手を混乱におとしいれる」ことでしょう。カラオケで歌ってみるとヤバさがよく分かるので、練習せずに何となくの記憶で選曲してみてください。死にます。

この異世界を駆け抜けるメタリックなギターソロがまた滅茶苦茶カッコよくて。後追いの自分は鋭角さと迫力が格段にました2015ミックス版、ここからBUCK-TICKに入ったのでした。


■スピード('91)

代表曲であり永遠の邦ロック名曲。自分がこのMVを観たのはリリース約30年後(!?)の2019年でしたが、ここにロックンロールの誘惑が完全に表現されていました。それでいて櫻井敦司の佇まいは中性的なんです。脳がバグってしまう。

「女の子 男の子 君には自由が似合う」の一節、両者が並んでいることももちろんですが、櫻井さんが歌うとどちらの性も等距離、対等な感じが自然と感じられるのがまた素敵だと思います。ヤガミトール氏の派手なドラムがまた最高のプレイと録音をしていて「お前が宇宙」と信じさせてくれる。

この頃のBUCK-TICKは「見たことない場所へ自分を連れてってくれる」感じがすごいです。聴いてる間は幻想のなか無敵になれる感じ。そう錯覚させる魔力がある。ありったけの夢と希望を刹那に詰めたロックのイデアたる名曲です。


■Madman Blues -ミナシ児ノ憂鬱-('93)

しかしてBUCK-TICKはリスナーとともに束の間の全能感に酔い続けようとするバンドではなかった。今井寿の無限のイメージの膨張、そして櫻井敦司の自虐と破滅願望により、バンドはドロドロに溶かされ、再構築とともに異形へと深まっていきます。

作詞作曲・今井寿、それすなわち鬼才の脳内を現世に顕現する領域展開。「National Media Boys」がポップ方向に振り切ったものだったことがよく理解る、創造力のミサイルを撃ち込んだ爆風のような怪曲。ここに更にテクノや電子音が混血して暴走していく『SEXY STREAM LINER』までの軌跡は何度聞いてもスリリングです。

個人的に忘れられないのがコロナ禍にて劇場での公開となった『TOUR 2020 ABRACADABRA ON SCREEN』での本曲の演奏。真の意味で完全にオルタナティヴだった。この辺の怪曲、当時のライブ映像もカッコイイですが、2000年後半からのライブ演奏もメチャクチャ深化していて凄いんですよ。またいつかみんなでLIVE STREAMING観たいですね。


■ドレス(’93)

星野英彦さんによる名曲のひとつ。

「ビジュアル系」の是非はともかく、このMVの櫻井敦司を見てその姿・佇まいに何かの思いを馳せないことは不可能でしょう。いったい何人の人生を踏み外させたのか分からない。Youtubeだと海外コメントが非常に多いのも何だかフフッてなります。

欧米のグラム・ロックからニューウェーブ、日本の沢田研二からBOOWY、そしてV系への一見飛躍にみえる道筋。そこを結ぶ存在がBUCK-TICKと言ってもいいはず。

退廃的でありながら気品に満ちた独特の感触。今回は3点あげたいです。

まずは非常に抑制のきいた樋口豊さんのベースラインが素晴らしい。『悪の華(曲)』とこのプレイを両立できる力量よ。BUCK-TICKがなんでもできるのはリズム隊ふたりの職人肌的な仕事ぶりがあってこそです。

そして忘れちゃいけないのが、『殺シノ調べ』から制作に参加したマニピュレーター、キーボード担当"横山和俊"さんの貢献です。この人と今井さんが出会ったことで『Six/Nine』に至り、『異空』に至るまでの音のアップデートが果たされていく訳で。横山和俊さんのBTへの貢献度はもっと語られてもいいのではないかと思っています。ブログに綴られた制作話は平易・簡潔な文ながら「そんな風に作られていったんだ」ってエピソードが満載でファン必見です。特に「その4」~「その9」、『COSMOS』~『ONE LIFE,ONE DEATH』までの記事は要チェック。

にしても、イントロ・Aメロ・サビと楽曲の大半を同じコード進行(しかもたった2コードのループ)で回しきった星野英彦さんの作曲センスたるや。この循環進行がまた、「羽がない」閉じた感じをうまく描いてるんですよね。この和音ミニマリズムが次曲で結晶化します。


■密室('95)

星野英彦さんによる名曲のひとつ2。ファン人気も高く、個人的マイベストBUCK-TICK楽曲のひとつでもあります。

星野さんは最小限の循環コードで楽曲を描ききる天才ですが、この辺はThe Cure『Disintegration』などの影響が強いはず。その極地が「密室」で、恐ろしいことにF#mとEの2つをループするだけで楽曲が終わります。同じ場所を延々と周回しているだけなのに、楽曲がどこまでも深く沈みこんでいく。いうなれば、たった一部屋をカメラで映し続けるだけでドラマを描ける作曲家なのです。個人的にはSyrup 16gの五十嵐隆も同じ系譜であります。

そんな閉塞的な楽曲に「密室」という言葉を添えられたのは出来過ぎている。主人公は"君"を見ているようで、自分にのみただ囚われている。他者の監禁的な意味もありますが、何よりまず自己の精神が「密室」に在るんですよね。だから最後「僕は……」と叫び「何もない」と認めてしまう。そう見立てていくとき、大っぴらには張れないんですが『WARP DAYS』のライブ映像が本当に完璧で愛しています。この、ほぼ櫻井敦司(歌の主人公)しか捉えないカメラアングルですね。本楽曲の全てを物語っているし、これだけで映像美が成り立っているのが奇跡すぎる。倒錯的に「いいよ閉じ込めて」と思わせるくらいの圧倒的魔力がある。罪な男すぎる。

大名曲。星野節の結晶であり、櫻井敦司のボーカルの傑作です。

この頃レゲエ(ダブ)に影響をうけた楽曲で対になっているのが、今井寿「キラメキの中で・・・」と星野英彦「密室」です。2人の作曲を聴き比べられるのもこのバンドの面白いところなんですよね。


■COSMOS('96)

BUCK-TICKの『TATOO』~『Six / Nine』の軌跡は、ロックバンドの進化であり、櫻井敦司の作詞(死生観)の成熟だったと思います。当初ゴシックモチーフの表層的な拝借にとどまっていた作詞は、まず「さくら」で内面に深くふみこまれ、そして「鼓動」に至った……というのは前回書きました。そこから、慈愛とでもいうべきスケールのバラードを、BUCK-TICKもとい櫻井敦司は作るようになります。そのひとつが本曲「COSMOS」です。

ここまで、いちおう音楽的な具体を踏まえながら曲について書いてきたつもりです。だけど慈愛とまで感じる本曲の「ふところ」のようなスケール感がどこから来ているのか、うまく言葉にできません。もちろん、「C」と「F on C」だけが流れつづける良い意味で抑揚のない楽曲展開が「大空(宇宙)」のような大きさの風景を逆に感じさせるとか、いろいろな要素は取り出せるけど、それはあくまで「手法」であって、他の誰かが同じ手法をもってしてもこうはならないでしょう。

この記事の最初でこう書き出しました。

このタイミングでBUCK-TICKを聴いていて、悲しくなるかと思ったんですが、むしろ「なんて優しい曲たちなんだ」と、逆に慰められてしまうような錯覚すら感じました。

「COSMOS」にもこれが言えます。なんていうか、櫻井敦司さんが至った境地が宿ってる気がしてならないのです。それを「優しさ」と呼ぶのが正しいかはともかく、『悪の華』~『Six/Nine』に至るまでの苦難、その先の、世界に対しての「受容」みたいなもの。

ひとりの人間が地に足をつけなおして、自分なりのゴスペルに辿り着いた。

そんな説得力が宿っている。説明は出来ませんがそう確かに感じられる。何か大きな包容力を感じられる。そしてその感覚を求めてBUCK-TICKを再生する時があり、救われたりしたことがあります。だから自分は「本当に良い音楽だ」と、今回こんな記事を書いてみたのでした。




とりとめなく書きましたが、『COSMOS』のおかげで何とかまとまったようなそうでないような。疲れてしまったので、今回はこの5曲でいったん終えます。(というか、「FLAME」のBメロを聴いていたら完全に手が止まってしまいました)

しかして2000年代のBUCK-TICKはもっと面白く、そして2010年代からのBUCK-TICKはもっと圧倒的であります。また、80, 90年代にも取り上げるべき楽曲はもちろん数多たくさんある。なんせこの記事は「さくら」にすらふれていません。先日の「#BUCKTICKベストソング2023」を見ましたか?凄まじい結果が広がっていました。

ちなみに自分の選出はこんな具合でした。

BUCK-TICKが残してきたもの、たぶんこれからも積んでいくもの、は本当に沢山あります。それらを丁寧に拾い集めて、しっかり聴いていきたいな、という気持ちです。

櫻井敦司さん、謹んで哀悼の意を表します。本当にありがとうございました。


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