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潰瘍性大腸炎、治る

夏のような陽ざしが照り付けていた。暑かったり、寒かったり、日々目まぐるしく変わる天候は、まるで私の体調に比例しているかとでも思わせる結果を導いた。

6月20日。この日は先日の内視鏡検査の結果発表の日だった。

胃と大腸合わせて3か所採取されていた細胞、自己免疫性肝炎と言われて初めて検査する潰瘍性大腸炎の状況ははたして。なんて思いながらも、さほど緊張せずに病院へ向かえたのは、前日残業で遅くなってしまい、寝ぼけ眼で家を出発したことと、自覚症状がなかったからかもしれない。

緊急事態宣言が解除された病院は、徐々に混み始めていた。椅子が密になりつつある。どこか落ち着けずあたふたしている間に診察の順番が訪れた。

扉を開ける。

先生は検査結果の写真を見ていた。表情は穏やかだ。

30代前半じゃないかと思われるこの先生は、あっさり、はっきり、わかりやすくて気持ちがいい。そんな先生が結果をどう伝えてくるだろう。少しだけ緊張してきた。脳裏には、潰瘍性大腸炎を伝えられた時の光景がよみがえっていた。同じ部屋で伝えられたあの時の光景が。当時はこの先生ではなかったけれど。

先生は口を開く。

「検査結果ね、潰瘍性大腸炎は組織も採ったけど、もう治ってるね。大丈夫そうだ。これでいったん通院治療は終わりにしよう。これからは健康診断の検便で潜血があった時やお腹が痛いなどの症状があった時に来てね。年一回の検査もなくしていいでしょう。」

まさかの別れが告げられた。身に覚えも想像もしてなかった状態の別れ宣告は、恋人からならショックも計り知れないが、病院からだとこれ以上の喜びはない。

そして先生は続ける。

「胃のほうもね、ポリープがあったので採取したけど、問題なかったので大丈夫ですよ。」

全てが安堵に包まれる。私はホッとするとともに、浮かんできた疑問を先生に尋ねる。

「潰瘍性大腸炎って治らない病気ですよね?治るんですか?」

先生は応える。

「難病だからね。でも、最近は内視鏡も発達していて治る人もいるんだよ。」

内視鏡で治せるとは思わないけど、発達した内視鏡の検査で問題ないってことがわかったなら、それは信じる以外の選択肢はない。

私、難病治ったらしい。潰瘍性大腸炎を克服したらしい。

「難病」という言葉に振り回されて、障がい者手帳や申請を考えたあの時間は何だったんだろう。治らない、一生付き合うにはどうしたらいいんだろう。自問自答を繰り返していた日々を思い出しながらも、今から再出発できるのかもしれない。そんな喜びがあふれた。今なら、何が起きてもへのへのかっぱ、そんな勇気がでてくるのも感じていた。


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