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バッハ体制延長への警鐘〜サマランチのデジャブは回避すべき〜

国際オリンピック委員会(IOC)が15日にインドのムンバイで開いた総会で、バッハ会長(69)=ドイツ=の任期延長を求める声がIOC委員から相次いだ。五輪憲章は最長2期12年に制限しており、同会長は2025年で退任予定。バッハ氏は「私は憲章に対して忠実だ」と述べるにとどめ、反対はしなかった。
 アルジェリアの委員が指導力を称賛して「再選を可能にすべきだ」と訴えると、ドミニカ共和国、パラグアイ、ジブチの委員が追随した。過去に五輪招致を巡る買収問題が起きたIOCは長期政権を避ける規定を設けており、国際体操連盟会長の渡辺守成委員は反対した。
【ムンバイ共同2023年10月15日 18時39分】

私は第141次IOC総会をYouTubeで見て驚いた。今ではIOC総会がライブで視聴できる時代になったことにIOCの変革を感じていた矢先、冒頭の共同伝のシーンが展開され、過去に舞い戻った。

1995年ブダペストでのIOC総会。国際サッカー連盟(FIFA)会長ジョアン・アベランジェ(IOC委員でもある)が根回しをして、IOC委員の定年年齢を75歳から80歳に引き上げる憲章修正案を採択させ、IOC会長サマランチが1997年に4期目の立候補ができるようにした。

その結果、何が起こったか?2002年に開催を控えたソルトレークシーテイ冬季五輪の招致疑惑が1999年に発覚、IOCは世界からそのガバナンスの不誠実と不透明を非難され、改革を余儀なくされた。サマランチは2001年に辞任、ジャック・ロゲが第8代目の会長となった。

そしてその改革の中心が定年制と会長任期の厳守であった。

 バッハ政権延長の提案はアフリカNOC連合会長でもあるIOC委員からであった。彼は杭州のアジア大会時にバッハに「この提案が自分だけのものではなくアフリカ全体のものだ」と告げたという情報がある。バッハ体制支持者は世界を相手に磐石の体制を築いたと思っていて、その傘の中にいる自らの地位の安住を願っているのだ。オリンピック運動のためではなく自己保身のためと言うべきだろう。

 確かにバッハが2013年にアジェンダ2020の改革精神を提げて会長に躍り出た時から今日まで彼は国連に対しても諸外国の盟主に対しても堂々とスポーツを代表して渡り合いオリンピズムを基本にした政策を実行してきた。コロナのパンデミックに対しても社会に対して未来のあるメッセージを発信し続けた。

 しかし、1995年を想起しなければならない。あの当時、サマランチが1981年から築いたスポーツ王国に安住したい人々が彼の任期を延長させたのだ。今、ムンバイのフロアーから起こった出来事はあのブダペストのデジャブだ。今との違いは当時の総会が密室であったことだけだ。

 私がバッハに最も共感し共有できたことは、スポーツが世界を救うためにはスポーツを代表する者が政治に対しても対等に物申し、行動を起こすというあり方である。G20でもG7でも国連総会でも飛んでいき、そこでオリンピック運動の価値を訴える姿はまさにスポーツ国の大統領であった。

 しかし大統領も任期があり、それを守るからこそ、自浄装置が働くのである。

 安住の総会のフロアから「荒野で叫ぶ声」が聞こえた。国際体操連盟の渡辺守成の言葉だ。「スポーツは社会に模範を示すべきだ。規律を守り、フェアであること。このところスポーツはスキャンダルでイメージを落としている。IOCは世界のスポーツ組織にロールモデルを示すべきだ。それは良好なガバナンスでなければならない」
 バッハが自らも改革を望んだIOC憲章のその規定を変えてまで、自らの王国を維持することは不良なガバナンスだろう。渡辺の声は太く深く総会の場に染み渡った。

 バッハの公認候補は豊富だ。国際陸上競技連盟会長のセバスチャン・コー(走るナイト)、フアン・アントニオ・サマランチの子息のファン・アントニオ・サマランチ(父と同姓同名)、ウクライナのブブカ(鳥人)、彼らはIOC委員であり功績と手腕もあり立派な会長候補だ。そして、パリ五輪組織委会長のトニー・エスタンゲ(カヌーで金3つ)。今は委員ではないが、パリ五輪の成功を土産にIOC委員に復帰できるだろう。彼らのバックグラウンドとフェアネスはバッハを継ぐに十分だろう。
 バッハにあって彼らに足りないものがあるとすれば、ポリティクスだ。清濁合わせ飲めなければ政治とは戦えない。

 渡辺守成は彼の発言の最後にこう言った。「I love you!」
 会場は沸いた。バッハ会長任期延長の反対意見を述べつつ、最後に彼はバッハへの愛を示したのだ。

 次期IOC会長に最も相応しいには彼だと私は思ったのだった。

(敬称略)

2023年10月18日

明日香 羊
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編集好奇
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前号のスポーツ思考は「山下泰裕の一本に期待する。されど秋風落莫の感、否みがたし」で閉めた。今まさに我が胸中を去来するは秋風である。それはJOCから、そしてもしかするとIOCからオリンピック精神が失われた寂しさか。もはやこれまで。バッハが読売新聞の結城記者の「オリンピック運動への情熱を維持できるか?」の質問に「私はどこにいてもオリンピック運動に燃えている」と答えた。その意味では私もバッハと同じだ。私はJOCを去って、さらになおオリンピズムに燃えているのだから。

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