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<連載> 小竹直人・OM-1の魅力 Vol.3/ デジタルシフト撮影

デジタルシフト撮影の魅力

私が最初に手にしたOM SYSTEMのカメラは、OM-D E-M5MarkⅡで、M.ZUIKO DIGITAL ED 7-14mm F2.8 PROとの組み合わせでした。フルサイズの同一画角相当のレンズも所有していましたが、あまりのヘビーさにストレスを感じていたことからE-M5MarkⅡを広角専用機とし、このフルサイズの広角ズームは手放しました。
それをさらに後押ししたのはOM SYSTEM独自のデジタルシフト機能でした。当時シフトレンズを私のレンズラインナップに加えたいと思案していたのですが、どれも非常に高価で30万円以上しました。それまでOM SYSTEMのデジタルシフトという機能は全く知らなかったので、これには本当にびっくりしました。
通常のシフトレンズは単焦点なので、フルサイズとAPS-Cの2種類のフォーマットを用いれば1本のレンズで2つの画角を使うことができると考えていましたが、デジタルシフトならズームレンズ全域の画角で撮影できます。
ただ、E-M5MarkⅡのデジタルシフトは上下左右のいづれかしか対応しておらず、それが私にとって大きな難点でした。シフト撮影の9割以上は上下か左右どちらか片方の方向の調整で済むのですが、やはり上下と左右が同時に対応できてこそのシフト機能だと思うのです。
随分前のことになりますが、2016年の年末に満を持してOM-D E-M1MarkⅡが登場しました。AF追従や連写機能が格段に向上したという前評判から多くのカメラファンが心待ちにしていました。そしてそのデジタルシフトはE-M1MarkⅡから上下左右の同時対応になったのです。このカメラの登場によって、私の機材は全てOM SYSTEMに変わりました。AF追従、連写性能はもちろんですが、なにより私にとってデジタルシフトがマストアイテムになったのです。

OM-D E-M1MarkⅡ/ M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO 

新宿駅。ライブコンポジットで撮影後、OMワークスペースでデジタルシフト処理。

鉄道写真において、形式写真はもちろん駅舎、鉄橋などの建造物の柱がまっすぐに撮影され、水平垂直がビシッと決まった写真は見ていて気持ちが良いものです。それは様々な画像ソフトでも修正可能ですが、このデジタルシフトを使うと「撮影現場で確認しながら撮影できる」という他にはないとても大きなメリットがあります。古い考え方かもしれませんが、私はフィルム時代と同様に写真撮影はシャッターを押した瞬間に完結すると思っており、後で行うレタッチを極力しないで済むような撮影を心掛けています。

センサーサイズと画素数

さて、センサーサイズと画素数についてちょっと触れます。私は20年近く前の600万画素クラスの時代から、私自身の個展やグループ展など十数回にわたって写真展に携わってきました。ほぼ全メーカーのカメラの画像データを見てきました。ときに1600×2400㎜畳2枚に相当するプリントも制作しました。マイクロフォーサーズ2000万画素の画像で、大きなサイズにプリントしても全く破綻せずに綺麗に出力することができました。(PREMIUM又はPROレンズ使用作品)
こうした経験知からセンサーサイズの大小を意識することなくマイクロフォーサーズのシステムに躊躇なく乗り換えができました。それぞれが求める写真の意図によって、機能やセンサーサイズ、画素数を考えればよいのだと思います。
その一例として、写真家・故天野尚氏の写真展「佐渡-海底から原始の森へ」(2007年新潟県立美術館)のステートメントの一文にある「肉眼では見られなかった風景の細部が写真にすることで見えてくる」という言葉に感銘を受けたことを紹介します。
天野氏の撮影は全て大判カメラによるもので4×5よりも大きな5×7、11×14果ては8×20インチの超大判カメラで撮影に取り組んでいました。例えば、11×14インチカメラはフィルム1枚の面積がA3サイズほど(279㎜×356㎜)になります。これを画素数に置き換えると1億画素は下らないところでしょう。展示作品サイズも3畳、四畳半サイズは当たり前で6畳大のド級プリントまで展示されていました。大判シートフィルムの圧倒的な質感描写は、会場に一歩入ったなら佐渡の原始林に分け入ったかのような臨場感すらありました。
もちろん大判カメラで撮影する目的は、佐渡の生態系を表現するという明確な意図があったことに他なりません。そしてこの意図をデジタルカメラで表現しようとするならば、ラージフォーマットの超高画素機が必要となるのです。

デジタルシフトの効果

3枚の写真をご覧いただきましょう。いづれも僅かな違いですですが、その効果を実感して頂けると思います。

OM-D E-M1MarkⅡ/ M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO

左側通常撮影で右側はデジタルシフト機能で撮影。銀座線渋谷駅

OM-1/ M.ZUIKO DIGITAL ED 7-14mm F2.8 PRO

左側通常撮影で右側はデジタルシフト機能で撮影。山形鉄道フラワー長井線の羽前成田駅は今年で101年目を迎えました。

OM-D E-M1MarkⅡ/ M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO

上は通常撮影で下はデジタルシフト機能で撮影。建て替えられる前の原宿駅。

デジタルシフトをした写真は気持ち良くありませんか。皆さんもOM SYSTEMカメラに搭載されているデジタルシフト機能を活用して、水平垂直に今まで以上に気を配って撮影してはいかがでしょうか。きっと気持ち良く素敵な作品を撮影できることでしょう。

筆者紹介

小竹直人(こたけなおと)
1969年新潟市生まれ。日本写真芸術専門学校卒業後。フォトジャーナリスト樋口健二氏に師事。
1990年より中国各地の蒸気機関車を取材し、2012年~17にかけて中朝国境から中露国境の満鉄遺構の撮影に取り組む。近年は、郷里新潟県及び近県の鉄道撮影に奔走し、新潟日報朝刊連載「原初鉄路」は200回にわたり掲載され、以降も各地の鉄道を訪ね歩いている。
近著に「国境鉄路~満鉄の遺産7本の橋を訪ねて~」(えにし書房)などがある。



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