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<連載>OMと旅する鉄道情景(第1回/神谷 武志)GROUP K.T.R

「えちごトキめき鉄道」に輿入れしたオイラン車を撮りに行く

●オヤ31ってなに?

2023(令和5)年3月、車両限界測定用試験車・オヤ31 31が、えちごトキめき鉄道に譲渡されました。
「建築限界測定用試験車」という聞きなれない名称は、新線開業時などに設備関係が列車に接触する危険性が生じていないかを検査・測定するための専用車両を指します。その測定は、車両から上体ぐるりと角のように検知針を突き出し、それが接触しないかどうか調べるスタイル。アナログだけど絶対確実な検査とも言えます。検査に従事するその姿は、髪にかんざしを挿した花魁(おいらん)の姿をイメージすることから、俗に「オイラン車」と色っぽい愛称を受け、各地で活躍してきました。
…とはいうものの、この「オイラン車」が走るのは、当然ながら開業前の新線や工事区間のみ。時刻が公表されるわけでなく、筆者(神谷)もその存在を知りながらも撮影したことは一度もありませんでした。

今回、日本最後の現役客車検測車であったJR西日本のオヤ31 31が直江津入りすることになり、初めてじっくりと「検測車」という形式に向かい合えたというわけです。

●オヤ31、直江津に行く

姫川の鉄橋を渡る、オヤ31 31。生涯で最初で最後になるであろう「JR貨物機による牽引」です。オヤ車内には何人もの係員が添乗し、こちらに手を振ってくれていました。後から鳥塚社長に聞いたところ、えちごトキめき鉄道の若手社員だとのこと。「二度と自社線内で「旧客の旅」というものは出来ないだろう。この機会に若手は体験しておいで」と送り出したものでした。こういった鉄道愛溢れる会社は素晴らしいなあと感嘆。

OM-1 / M.ZUIKO DIGITAL ED 12-100mm F4.0 IS PRO

後追いの列車で直江津へ。追いついた私の目前で、EF510からバトンタッチを受けたのはなんと「レールパーク」に佇むD51 827。このD51に火は入っておらず、圧縮空気で構内をデモ運転するだけの車両(法的には「備品」)です。このD51が、鉄道の公式な作業に従事している…。

係員の誘導で、静々と(鉄道用語では「やわやわ」と呼びますね(⌒∇⌒))連結、推進運転で構内を走るオヤ31+D51の編成。時代がさかのぼって、今まぼろしを見せてくれるような、感動の一瞬。

OM-1 / M.ZUIKO DIGITAL ED 12-100mm F4.0 IS PRO
OM-1 / M.ZUIKO DIGITAL ED 12-100mm F4.0 IS PRO

当然ですが構内は撮影ポジションを自由に選択できません。三脚も禁止。被写体は動き続ける…。こんな時は、なんといっても「信頼できる高倍率ズームレンズ」の独壇場です。以前は「食わず嫌い」だった私、その「昭和な固定概念」が粉々になったのが、この12~100㎜との出会いでした。
各所で「神レンズ」との評も不動のこの一本、すでに周知なことなので、ここでは屋上屋を架しませんが、「撮影会」などでは唯一無二、必須の一本です。

●オヤ31、夜に輝く

やがて周囲には夜の帳がおり、大好きな夜間撮影の時間がやってきました。
被写体に対し「斜め後方から60%」「斜め前方から40%」の割合でライテイングします。後方に重きを置くのは、車両を闇に浮かび上がらせるカミヤの常とう手段。可能なら背後に強め一灯を追加します。「ライトアップイベント」と聞いて楽しみに出かけたのに、どうにも消化不良な気持ちに…ということが得てしてあるのは、たいていが正面一灯で終わっているがため。夕日に車体が輝く「ギラ」の法則と同じです。
気になった方は、「アマテラスな鉄のすゝめ」で以前こちらにも取り上げていますので、ぜひあわせてご覧ください。


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OM-1 / M.ZUIKO DIGITAL ED 12-100mm F4.0 IS PRO
OM-1 / M.ZUIKO DIGITAL ED 12-100mm F4.0 IS PRO

やがて室内灯とテールランプが、点灯しました。
車体も光源に、艶やかに反射しています。
まるで往年のお召列車・1号編成の供奉車もかくやと思われる美しさ。送り出しをしたJR西日本の方々の、オヤ31への長年の仕事を労わる気持ちがその整備に現れているように思えました。
そんな車両とは、私たちもじっくりと向かい合いたい。
こんなときこそ、手持ちハイレゾの出番です。
先に「撮影会では特に唯一無二」と記した12~100㎜。この「手持ち最強伝説」レンズでは「三脚無し5秒シャッター」を体験済みの私ですが、ここは躊躇なく感度を上げ気味にして数を稼ぎます。
手持ちハイレゾショットは16枚連写を行って、それらを加重平均でかさね打ちします。そのため2段分のノイズが軽減されるので、ISO1250で撮影したものの、その解像度は実質的にはISO320での撮影と同意義です。
三脚は、たとえ使用可であったとしても無用でしょう。三脚を使うと、高さすら調整するのがつい面倒になってしまいます。手持ちならば、「背伸びする」「しゃがむ」だけ。くわえて高感度の画質劣化の懸念無し…なら、どちらが優位か、もう考えるまでもありませんね。

OM-1 / M.ZUIKO DIGITAL ED 12-100mm F4.0 IS PRO

●オヤ31、終の棲家に

撮影タイムは終了。オヤ31はふたたびD51の推進によって転車台へと向かいます。
長かった変転の履歴の果て。トキめき鉄道が用意してくれた終の棲家。扇形庫に入庫します。
しかしここで私は疑問がひとつありました。
転車台にはオヤ31とD51がつながった状態で載ることはできません。では推進動力を失ったオヤ31は、いったいどうやって車庫入りするのだろうかと…。
D51がオヤを推進。転車台が回転します。オヤの住処への番線を、羅針盤の針のように示しました。すると係員の方々がその場に集まって、「せーの!」の掛け声で、車体を人力で押し込んでいったのでした。
これは想定外!
人の、ぬくもりのある手のひらで、優しく気持ちを込めて入庫していったオヤ31。オヤ31もきっと感激していたに違いありません。
入庫の場面は静止画で撮らねばならなかったものの、この貴重なシーンは動画でも記録しておきたい。
とっさにダイヤルを動画モードにして、ボタンを押して録画します。動画はあくまで「オマケ」な私。今までは「思い付き切り替え」を失敗して何も撮れてなかった…という悲劇があったことを、恥を忍んで告白しないわけにはいかないのですが、OM-1は録画中はしっかりとファインダーが赤枠で表示され、うっかり者の私でも安心して記録できました。
(シャッターボタン横の◎スイッチに、動画のクイックスタート機能を割り当てることも可能です。モードダイヤルを回すことなく、瞬速で動画に切替になります。スチールメインの神谷はここにハイレゾ切り替えを登録しています)。


OM-1 / M.ZUIKO DIGITAL ED 12-100mm F4.0 IS PRO
OM-1 / M.ZUIKO DIGITAL ED 12-100mm F4.0 IS PRO
OM-1 / M.ZUIKO DIGITAL ED 12-100mm F4.0 IS PRO

庫に収まって、D51と並んだオヤ31。良かったね!

OM-1 / M.ZUIKO DIGITAL ED 12-100mm F4.0 IS PRO


えちごトキめき鉄道では筆者(神谷)プロデュースの、ファン向け「朝から晩まで撮影会」を毎年11月に行っています。2023年は本稿のオヤ31に、ラッセル車DE15も加わり、一段と「熱い2日間」になること請け合いです。夜間撮影会も予定されていますので、ぜひハイレゾショット機能などを活用し、じっくりと鉄道車両たちに向かい合ってください。
(お尋ねは10月以降「えちごトキめき鉄道」へ)。

筆者紹介

神谷 武志(カミヤ タケシ / Takeshi Kamiya )

1963年 東京都新宿区生まれ。1995年より、交通新聞社「月刊鉄道ダイヤ情報」誌にて海外蒸機紀行を6年、国内編を4年、足掛け10年間連載を担当。ほかJAL機内誌や鉄道雑誌(日本・台湾)などで活動。著書は「世界を駆ける蒸気機関車」(弘済出版社)、「日本路面電車カタログ」、「蒸気機関車紀行」(イカロス出版)など。クラブツーリズム社写真ツアー講師。「鉄道写真をもっとオトナの趣味に」をテーマに、地元・鉄道・撮影者がみなHAPPYになれる関係を目指して、さまざまな撮影イベントを企画・運営している。


※GROUP K.T.Rとは、このnoteを担当する「鉄道を愛し、OMを愛する」3人のフォトグラファー牧野和人、神谷武志、高屋力の名前のイニシャルから取った頭文字です。
グループの首謀者神谷の準地元であり、OM SYSTEMの地元でもある「京王線」の旧社名をリスペクトした名称でもあります。今後もさまざまな鉄道ネタをご紹介していきます。どうぞお付き合いの程、よろしくお願いいたします。




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