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【第二十回】ちょっと小腹がすいたんで。

蕨/吾妻屋

立ち食い蕎麦について語るとしよう。
立ち食いそばは江戸時代にはじまったという。
手軽なファストフードだ。
そのファストフードにも並々ならぬ肩入れの仕方が地域によってあるようで。
特に日本をぶった切って東と西に分けたとして、出汁の引き方からしてまず違う。
東は鰹出汁と昆布を中心に引いたモノで西はイリコと昆布を中心に引いたより魚介が強いモノ。
カエシも東の濃口、西の薄口なんて言われるようにようにまず色味からして違う。
ネギに至るまで東は白ネギ、西は青ネギといったふうにこだわりある別れ方をしている。
関西の立ち食いそば屋でそばを食ったならば黄金色に光るお出汁が並々と注いであって青ネギがちらしてありとてもお上品なモノが出てくる。
まあうどんも同じようなモノだな。

だが関東はわけが違う。

んじゃあ一つ朝の小忙しい中、そばでも食べに行こうじゃあないか。
関西でも関東でも皆時間に追われて生きているのは同じで立ち食い屋という便利な場所は重宝するもんだ。
今でこそそばがそばたる切り方でいかにもそばらしく出てくるが昔のは「そばがき」が主流で粉を熱湯で溶いて練った団子みたいなもんを立ち食いで食していたそうだ。

こういう粉みたいなやつをグリグリグリーって熱湯を入れたところでもってやって

こういうふうに練ったやつね。
こういうのを立ち食いで食っていたってんだから余り風情もへったくれもねぇよなぁ、と。

こういうのなら酒のアテには良さそうだが朝忙しい最中にあまり進みもしなさそうなもんで。

実際に朝、こういう店でそばがきなんか出されても投げ返してしまいそうな気もしないでもない。
だが今は皆が知ってる通りほら、そばの形をしたモノがちゃんと出てくるからご安心を。

こういう風情もあったもんじゃない券売機で自分の食いたいモノを押して買うわけだ。

品書きもこういった王道のモノがあれば変わり種まで一通り揃う。
こうやって忙しい朝の腹を満たすって算段で。
関東のそば屋の香りも鰹節の香りがプンっと漂っていて鰻よろしく匂いを売っている。
季節が冬であれば湯気と香りを売っている。
駅なんかでこの湯気を見かけると入りたくて堪らなくなってくるのはもう口がその旨さを知ってるからってなもんで。

食券を親父に出してモノの数分で「あいよ」ってゴトっと湯気に包まれたそれが運ばれてくる。

月見コロッケそば

関西の人はこれを見て「こんな醤油をウメたみてえなの食えねえよ!」って云うかも知れないが関東のそばといったらこうなのだ。
んでもって白ネギを生で食うって習慣も余りないってのを大阪に住んでる頃に聞いたもんだ。

極めつけにこのコロッケだ。

ありえねえ。
絶対に合わねえ。
濃そうで白ネギがかかったコロッケそば。
こんなもん食えねえよ(笑)
なんてふうな意見をよく聞く。
だがまてまぁまぁ毛嫌いしなさんな。
ここは一つ食べてみようじゃないか。

そばつゆは━━━━
甘くて濃口で少し塩っぱい。
これに慣れるとこれが朝には効く。
ザクザクとした白ネギは青ネギよか風味としては強くより、そばつゆの味をキリっと締める。
ここに玉子を溶いちまう。
これがまた堪らない。
玉子を溶くと少し薄まっていい具合になるんだ。
少し固まった白身もまた美味いんだ。
ここらへんで一味唐辛子をカマして更に食い気を出す。

コロッケは半分崩しちゃうの。

半分は食感が残ってるうちに頂く。
芋の甘みがつゆに浸透して美味え。
というかもうこの辺でお上品でも何でもないジャンクなわけだけど。

だがね、これを目の当たりにさせて関西の人に食わせると意外なことにハマるんだよ。
ジャンクは美味いんだってば。

コロッケは何でもねえような冷凍に毛が生えたようなモノで良い。
チープがチープと合わさってどうしても食いたいモノに相変わったりするからね。

半カレーとか頼んだら腹一杯で働く気すら失せる。
立ち食いそば屋の半カレーは半じゃなくて丸々一杯くらいのボリュームがあるからね。

寒い朝にこういうジャンクをキメてバリバリ働いていた昭和の人たちは偉い。
こういうジャンクが今も残ってるのは偉い。
風情なんか全くなくて良い世界。

寒い朝、駅のホームや駅前の立ち食いそば屋から湯気が立ち昇っていたらこういうもんが食いたくて入ってしまうんだ。
もし、こういうジャンクを経験したいって方が居たらお連れしますよ立ち食いそば屋へ。
イイトコ知ってんだ。