見出し画像

漫画『アオアシ』で考える「コーチング」と「ティーチング」の使い分けについて


はじめましてこんにちは。プロコーチのお松と申します。コーチング、もっと広まったらいいな〜と思っており、その任務を遂行すべくこのnoteを綴っております。


「コーチング」とは、コミュニケーションスキルの1つ。どういったコミュニケーションスキルかというと、ざっくり言うと、「対話によって、相手の自発的な行動を促すコミュニケーションスキル」です。(この辺の定義は団体や人によって違うと思われます)


以前、大好きなサッカー漫画『アオアシ』の中で使われている「コーチング」についてのnoteを書いたのですが、もっと「コーチング」と「ティーチング」の使い分けや、アプローチの違いなど書いたほうがよかったな〜と思ったので、書きなぐっていきたいと思います!


『アオアシ』…愛媛県の弱小サッカー部出身の主人公・青井葦人が、「東京シティ・エスペリオンFC」という名門サッカーチームのユース生として、成長する姿を描いた漫画。ユースの漫画なので「教育」についての話も多い。また、「言語化の重要性」「相手の立場になることの尊さ」など、社会人のインプットとなるような要素が多く含まれる全人類必読の漫画。


▲こちらがそのnoteです


「ティーチング」と「コーチング」の違い


まずは、「ティーチング」と「コーチング」の違いについて。『アオアシ』は下記のように定義しています。



ティーチングはその名の通り、相手に答えを提示することを指します。人に何かを教えるときはほぼこれですね。後輩に仕事のやり方を教えたり、子どもに勉強を教えたり、私たちは日常的にティーチングを行って生きています。


一方、コーチングとは、対話によって相手の思考を言語化してもらい、行動へとつなげるコミュニケーションスキルのこと。こう書くと難しく感じますが、誰かと話している時に、「あ、自分こんなこと考えてたんだな」と思考が整理されることありませんか? あれの「もっと凄いバージョン」を想像してもらえればと思います…!


そういった点も踏まえ、簡単に「ティーチング」と「コーチング」の違いをまとめました。


画像1


ここで注意して欲しいのが、「ティーチング」は相手に「こうあって欲しい」というゴールから逆算してコミュニケーションをとるのに対し、「コーチング」は相手とコミュニケーションを取りながらゴールを発見してもらう、という点です。


つまり、こちらで「こういうことを理解させたい」という考えのもと、誘導するように質問をして相手に答えさせても「コーチング」ではありません。なぜならそれは教える側の「こうあって欲しい」というゴールから逆算した質問、つまりは「コーチング」に見せかけた「ティーチング」だからです。


それでも「いや、誘導したとはいえ、相手に考えさせて言語化してもらっているからコーチングなのでは?」という意見もあるかもしれません。でも、違うんですね。


コーチングとは、相手の自発的な行動を促すコミュニケーションスキルのことです。そして、自発的な行動を促すためには、相手に「ああ、自分の考えはこうなんだ!」と心から納得してもらう必要があるんですね。


じゃあどうすれば相手に「ああ、自分の考えはこうなんだ!」と心から納得してもらえるか。そのためには、相手自身の深いところまで潜って思考してもらうしかありません。(抽象的な表現で恐縮です…)


たとえば、クイズ番組なんかを見ても、翌日そのクイズが身になっていることってほとんどないですよね? きっと番組を見ている時は、クイズの答えを考えているはずです。でも、翌日には綺麗さっぱり忘れている。これは自分自身の深いところではなく、浅いところで思考しているからに他なりません。


「コーチング」に見せかけた「ティーチング」、つまりゴールから逆算し、誘導するような質問もこれと同じ現象が起きます。答えてほしい質問を答えさせるためには、深い思考をする必要がありません。なぜなら、欲しい答えを答えさせるために、会話の中で必ずヒントを提示し、思考の手助け(誘導)をしているからです。


▲そのあたりの話、こちらのnoteに書いているのでよかったら


コーチングの「誘導しないコミュニケーション」によって、相手に自身の深いところで思考してもらうことによってはじめて……


これが実現できるんですね。


「コーチング」に必要な忍耐力と勇気


『アオアシ』では、この「答えを安易に提示しない」ことの重要性がとても丁寧に描かれています。



こちらは主人公が所属するチームの指導者同士の会話。「正解をさっさと伝えるなんて、指導者の怠慢さ」というセリフはスポーツだけにとどまらず、ビジネスの人材育成においても深く刺さる言葉だと思います。


でも、会社で部下や後輩に指導するときなど、ついティーチングをやってしまいますよね。なぜかというと、コーチングは相手の深いところで思考してもらうがゆえに時間がかかります。なので、その「時間がかかる」のを待つ忍耐力と、「時間がかかってもきっと答えを導き出してくれる」という相手を100%信じる勇気が必要となるからです。



この渋い方は望コーチという最高のコーチ。うまくいっていない主人公とチームを、「きっと自分たちで立ち直るはずだ」という信じる勇気&うまくいっていない現状を我慢する忍耐力でもって「あと5分だけ見てみよう」という行動をとります。その結果…



主人公は望コーチの想像を超える活躍を見せます。


ティーチングでは、答えを教える、または、ゴールから逆算して誘導するがゆえに、相手の行動は教える側の想像の範囲内にとどまります。一方、コーチングはこちらでゴールを描かないので、相手がこちらの想像もしなかった行動を取ることが可能になるんですね。


そういった点を踏まえると、コーチングとティーチングの関係は下記図のように整理できるかと思います。


画像2


コーチング:コミュニケーションに時間がかかるが、相手がこちらの想像の遥か上をいく行動を取ることがある

ティーチング:コミュニケーションに時間はかからないが、相手の行動はこちらの想像内におさまる


こう整理すると、ティーチングよりコーチングのほうが優れているのではないかと思いますよね。


ティーチングよりもコーチングのほうが難易度が高いのは確かだと思います。ですが、全てにおいてコーチングのほうが優れているとは思いません。ようは使いどころかなぁと。



『アオアシ』に出てくる優秀なコーチ陣も、ティーチングとコーチングの使いわけには苦心しています。コーチングだけではダメだということを示唆しているのです。(悩む望コーチも最高)


では、ティーチングがコーチングよりも効果を発揮するタイミングはどこか。それは2つあると思います。


ティーチングが活きる2つのタイミング


1つ目は、緊急度が高く、答えの自由度が低いシチュエーションです。


前述の通り、ティーチングはコミュニケーションに時間がかかりません。相手に答えを提示すれば終わりなので、当たり前の話なのですが…。


例えば、最近コーチングを学び出したAさんという会社員がいたとします。明日までにクライアントに送らなければならない請求書について、部下が質問しにきました。書き方がわからない箇所があったようです。


ここで、コーチングを学び、その素晴らしさを知ったAさんは「安易に答えを言ってはダメだ!」と思い、コーチングを試みます。

===

部下:Aさんお忙しいところすみません。請求書の書き方でわからない点がございまして。教えていただけますでしょうか?

Aさん:なるほど。その請求書の書き方を知った君は、その後どのような姿になっていると思うかな?

部下:さっさと教えろカス

〜Fin〜

===

こうなるんですね。自分が部下だったら、こういった反応する上司めちゃくちゃめんどくさいですよね。絶対イヤ。時間がなく、相手も欲しい情報が定まっている場合は、ティーチングの方が適しています。



『アオアシ』において、望コーチがティーチングの鬼となるシーンがあります。それは、前半をボロボロで終え、ハーフタイムという短い時間でチームを立て直さなければならないシチュエーションの時でした。ここで望コーチは主人公も驚くほど細やかなティーチングを行います。



このリーゼントは冨樫という主人公のチームメイト。ハーフタイムでの望コーチのティーチングによって、自身のプレーを取り戻し、そこからさらなる成長を遂げます。



その結果、チームも活性化し、相手チームの応援もこの驚きよう。まさにティーチングが活きた場面でした。



ティーチングが活きるシチュエーションの2つ目は、相手のスキルや情報がまだ一定のレベルに達してない時です。



こちらは、主人公含む1年生がBチーム(二軍)から、Aチーム(一軍)に上がった際に、監督の福田からみっちりとティーチングを受けているシーン。


試合中ではなく、練習中なので緊急度も高くないのに、なぜ福田監督はこんなにもティーチングを行っているのか。そのヒントは玉樹 真一郎さん著の『「ついやってしまう」体験のつくりかた――人を動かす「直感・驚き・物語」のしくみ』の中にあります。



この著書では、ざまざまなゲームを引き合いに、「つい」人が行動を起こしてしまう仕組みが紐解かれているのですが、その中で『スーパーマリオブラザーズ』について言及しているところがあります。


そして、こういう質問があります。


==

キノコ、フラワー、スター、1UPというアイテムが出てくるタイミングは次のうちどちらでしょうか?


①ゲームの序盤・中盤・終盤にばらけて登場させる

②4種のアイテムを最初のステージに集中させる

==


さて、あなたはどちらだと思いますか。どちらの方が、プレイしている人に、アイテムの使い方を効率的に理解してもらえるでしょうか?



これ分かったら結構すごいです。



正解は……



②4種のアイテムを最初のステージに集中させる


です。意外ですよね…。


その理由も著書の中に書かれています。そのキーワードは「初頭効果」です。


「初頭効果」:学習心理学用語。時間をかけて学んでいく時、体験のはじめ頃に集中力や学習効率が高まる、というもの。

 

つまり、『スーパーマリオブラザーズ』をプレイしている人は、序盤で一気にキノコ、フラワー、スター、1UPが登場する方が、プレイしている人の集中力が高まっているので、効率的にそれぞれのアイテムの特性や使用方法を学べる、というわけなんです。


だから、福田監督も主人公含めたB→Aに昇格した選手に対し、繰り返しティーチングを行っているんですね。それは、昇格組がAチームでの練習という新たなステージを体験し、彼らが集中力や学習効率が高まるボーナスステージに突入しているからです。



この「初頭効果」というボーナスステージをうまく利用した結果、昇格組の1年はメキメキと成長を遂げ、Aチームのレギュラーを獲得するまでになります。この成長を導くためにあえてティーチングを多用した福田監督、やはり只者ではないですね…。


〜まとめ〜

ティーチングが活きる2つのタイミング

①緊急度が高く、答えの自由度が低いシチュエーション

②相手のスキルや情報がまだ一定のレベルに達してないシチュエーション

▲KOREDA!


以上です! やっぱり『アオアシ』って最高に面白いですよね。ちょっと堅苦しいことを書きましたが、純粋に心おどるサッカー漫画として最高なので、まだ読んだことない方はぜひ読んでみてください!


コーチングやってますので、ご希望の方はこちらにDMお送りください!


次回は、コーチングで一番大切なスキルの一つ、「認めるスキル」について、『アオアシ』を題材にしながら書きなぐりたいと思います。では〜


*『アオアシ』では、試合中に選手が選手に指示することも「コーチング」と呼んでいるのですが、このコーチングは本来のコーチングの意味ではないので、混合しないようにしてくださいね。


*それと、今回の記事を書けたのは、『アル』のコマ投稿機能のおかげです。こういう風に「作者の方に迷惑かけちゃうかな…」と考えずに、コマを投稿できる機能最高です。この場を借りて感謝の意をあらわしたいと思います。『アル』チームのみなさん、本当にありがとうございました!

この記事が参加している募集

コンテンツ会議

記事にスキをもらえると、スキになります。