2019 J2 第14節 栃木SC ~攻撃に関する諸々の視点~

1.はじめに


何を書けばいいのか分からない。混迷に次ぐ、混迷。低下するモチベーション。引っ越し、引っ越し。やや酒。二度の風邪は喉から。というわけで、お久しぶりです。怠惰にまみれたZdenkoです。
思えば、まじめに書いた記事は琉球戦以来。メキメキ進化する大宮戦術ブロガーたちの記事を見るたびに、なにを書けばいいんだ~。なにか違うことを書かないとな~。と思うと筆が進まず、早二か月。カール・ヒルティも幸福論の中でこう言っています「善事に対して怠惰であるということが、われわれの本来の根本的な欠点である。それだから、生まれつき働き好きな人間などありはしない」。
ちなみに、この言葉は障害に打ち勝つためにはその障害を知らねばならぬ、という文脈の中で語られます。サッカーチームを応援する立場として、知らねばならぬ対象とは何か、当然一義的には試合の内容ということになるでしょう。試合の内容を知ってこそ、より選手と一体になって戦えるはずです。
とかく、サッカーチームとサポーターの関係性は一方的になります。一方的であるがゆえに熱くなります。盲目になりがちになります。これが的外れな批判や、人格否定にもつながることになります。ただ、そんな皆さんもれっきとした大人でしょう。大人ならば自分の意見を相手の言い分なしに押し付けることはせず、相手の事情をしっかりと理解したうえで接しなければなりません。この戦術ブログもそうした適切なコミュニケーションをとるための一助にしてもらえればと思います。戯言はこの辺にしておいて本題。
栃木戦において、栃木の攻撃、それに対する大宮の守備の場面で特筆すべきものがあったかというと・・・正直、めぼしいシーンはありませんでした。よって今回の記事は、栃木の守備がどうなっていたかを確認しつつ、それに対して大宮の攻撃がどうであったかを振り返りたいと思います。


2.システム


両チームともに3-4-3、いわゆるミラーゲームです。ただ、それは基本的なシステムでは、ということであって、守備では5-4-1になったり、攻撃では3-2-5になったりと、それぞれの局面において形を変えますので、基本形からどう可変したかによって、何をしたいかが見えてくるわけです。このままではシステム論が始まってしまいますので、さっさと局面を見ていくことにしましょう。



3.栃木の守備と大宮の攻撃


3-1 栃木の基本的な守備陣形

栃木の自陣での守備陣形は5-4-1です。MFラインは幅を狭くすることで中央やハーフスペースでの縦パスを制限しますが、DFラインが低いためDF-MFライン間が広いです。大宮としてはWBを起点にしてライン間にボールを送り込みたいところですが、さすがに相手の両シャドーがスライドしてくるため、容易にはパスを出せません。


3-2 栃木のプレスと大宮の攻撃


そこで、大宮は栃木のプレスを利用してこのライン間のスペースを利用します。上手くいったシーンのひとつめが11分のシーン。相手のプレスによって生まれたスペースに茨田がポジショニングして、菊地から縦パスを受けています。こののち左サイドへ展開して河面がPA内でシュートを打つチャンスを作り出しています。


ふたつめが35分のシーン(下の動画28秒から)。中央で受けた大山が栃木のDH、シャドーを引き付け、奥井へ展開。空いたライン間で茨田が受けて、サイド裏に走りこんだ奥井へパスという流れ。個人的に、ビルドアップに関しては大山がDHの位置でより積極的にボールを受けるべきだと考えています。ビルドアップでは相手のプレスや選手を引き付けると同時に、誘導したことによって空いたスペースを利用することが重要です。DHやHV、CBのなかでもこのプレーに優れているのが大山です。

また、38分のシーンでは35分のシーンに比べより高い位置で大山がボールに関与することができました。この場面で特筆すべきは、第一に菊地からの縦パスを受けてのターンで相手のプレスを躱したプレー、第二に奥井へ縦パスを送る前に茨田からの落としを受けるための予備動作です。いずれのプレーでも自分もしくは味方の立ち位置を利用してプレーできるスペースを創出しています。ポテンシャルは限りなく高い選手です。このように低い位置でも、高い位置でもパス回しに関与できるようになれば、大宮の王様として君臨できる日がくるのではないでしょうか。

話は変わって栃木の守備(プレス)の狙いですが、おそらく下図(7分)のようにサイドで追い込み、カウンターへつなげるプレスをしたかったのでしょう。しかし、前述のとおりDFラインが低いためにWBのスライドが間に合わず、追い込めない。前線のプレスもパスコースの制限ができているわけでもないので、奥井へのパスを予測して動くこともできない。結果、WBが後ろにステイする時間が多かったため、大宮は特に苦労することもなくビルドアップができていました。


3-3 栃木のサイド密集とライン間


ここで気になったことがひとつあります。栃木はスローインやゴールキック時などにサイドへ著しく密集します。下図はその中でも極端な13分のシーン。こののち、奥井が縦に突破することになるのですが、図を見てわかるとおり大前がフリーです。この場面に類似したシーンは多くありましたが、いずれのシーンでも大前に縦パスが通ることはありませんでした。もし、大前にボールが渡ればそのまま仕掛けてシュートまでもっていってもいいですし、河面に展開してもいいですし、裏抜けする奥井にパスしてもいいでしょう。色々な攻撃の可能性が広げられるのになぜ大前を使わないのでしょうか。


考えられる可能性としてはふたつ。ひとつが、そもそも状況的に、技術的に縦パスを通すことができない、もうひとつが縦パスを敢えて通さない。ところで、これまでの試合のメモを作っていてもネガティブトランジション(攻撃から守備への切替)の局面に関するメモが非常に少ないのです。これはネガティブトランジションに備えた予防的ポジション(左サイドから攻めている際に右WBが中央に絞ってカウンターに備えることなど)をしていない、あるいはネガティブトランジションで素早く相手にプレッシャーをかけていないということです。ここからは推論になりますが、万が一、上図のシーンで大前がボールを奪われたとしましょう、こうなると相手へ素早くかけられる味方はいません。場合によっては一気にゴール前までに攻め込まれることもありうるわけです。今回の例は極端ですが、中央でのライン間への縦パス失敗は、チームのボール回しの中心となるDHやアンカー、IHらのいるエリアで起こることなので、そこから一気に前線や空いているサイドに展開されれば、途端にピンチになる可能性を孕んでいるわけです。こういったリスクを避けることで、ネガティブトランジションで積極的なアクション(予防的なポジションや素早いプレス)をしなくてもいいように、攻撃をサイドに限定しているのではないでしょうか。ここで、FootballLABのプレーエリアを見てみましょう。
(FootballLABより引用)

ちょうど5バックが位置するようなエリアでのプレー割合が多いです。しかしWBの前面にあたるエリアでのプレー割合は著しく低いです。プレー割合が低いということは、そのエリアにそもそも侵入できる機会が少ないという場合とそのエリアを素早く通り過ぎてしまうがためにプレー割合が低いという場合に分けることができるはずです。大宮はおそらく後者に当たるでしょう。こういったことを総合して考慮すれば次のことが言えると思います。
「大宮はネガティブトランジションに備える必要がないよう、WBを起点に同サイドでの縦への早い攻めを志向している。」

3-4 得点に至るための攻撃とは


なぜサイドを起点にした攻撃が得点に至らないか、奥井のいる右サイドに限って言えば、裏抜けする地点が低いためでしょう。上述した35分のシーンのようにハーフウェーライン付近で裏抜けしたとしても得点には結びつきません。結局はDFラインの手前のバイタルエリアへボールを送るに留まっています。同じようなシーンは千葉戦でも見られました。

得点に至るためには、PA内に侵入することが一番の手段です。これまた上述した38分のシーンのようにより高い位置で裏抜けしないことにはゴールをすることは難しいでしょう。なればこそ、大山のように低い位置でも、高い位置でもボールを前に運べる選手の活躍が必要になってくるわけです。彼単体の活躍もそうですが、チーム全体として彼が活躍できるような展開に持っていくことができるかが攻撃の課題になるでしょう。
また、一方の左サイドですが、こちらもより高い位置で裏抜けするということは得点への近道のひとつですが、大前や河面が陣取るこのサイドでは後述する連動した動きによる崩しも有効になってくるでしょう。

3-5 ゴール前を固める相手の攻略


55分にCBの藤原が退場してから栃木の守備陣形は5-3-1に変わります。失点をしないことに明確な目標を定めた栃木はプレスを一切止め、非常にコンパクトな陣形で守備をします。こうなっては相手が大宮でなくとも、得点をとることは非常に難しくなります。

相手に引かれた状態では難しいゴール前へのボールの供給をどうすれば質を高められるか。手段のひとつが、サイドでフリーな状況を作り出した上で、クロスを上げることです。退場後に最もスムーズにペナ脇に侵入したのは下図の64分のシーンです。このシーンではいわゆるサイの動き(※)を駆使して大山がフリーな状態からクロスを上げました。クロスを上げていたのが左利きの河面であったら得点に結びついていてもおかしくない展開でした。

※サイ・・・3選手が一直線に並ぶ陣形から中央の選手が抜ける動き
 詳しくはとんとんさんのブログをご覧ください。

もう一つの手段が、相手の陣形が乱れている間に攻めてしまうこと、つまりセカンドの回収です。84分の場面、山越がシモビッチにロングボールを通してから小島がボールを拾うまで、栃木の守備陣はシモビッチへ対応するためのポジショニングになっています、セカンドを回収すればこのように相手の守備が現状に合っていない状態、すなわち相手の守備が乱れている状態から攻撃を始められる訳です。セカンドの回収については石川の出足の速さが生かされるはずですが、すでに交代済みでした。

最後にはやはり個人技による崩しです。ペナ脇に侵入した状態からパス回しやドリブル突破でニアゾーンに侵入し、アシストするという流れになるわけですが、こういった展開を期待して高木監督も小島やバブンスキーを投入したのでしょうが、彼らが活きるようなシーンはほとんど見られませんでした。おそらくファンマとシモビッチという分かりやすくターゲットになるツインタワーがいるために彼らをフリーにする、もしくは彼らからのこぼれ球をゴールに押し込むという算段だったのではないかと思いますが、この部分が監督の意図と乖離してしまったがために、WBが相手のWBにクロスのコースを制限されながらも強引にクロスを上げるという単調な攻撃に終始してしまったのではないでしょうか。

3-6 大宮の攻撃の総括


栃木に退場者が出たためにどうしてもゴール前を固めた相手を崩しきれなかったということが印象として強く残りますが、前述したとおり10人しかいないにしてもあれだけ引かれてしまってはどんなチームでも苦戦を強いられます。結果論ではありますが、前半のうちに得点しておきたかった試合でした。失点をしないことを最優先事項として掲げる大宮の戦い方を考えれば、相手がゴール前を固めるというシチュエーションが起こりうる機会はそう多くないはずです。機会の多い少ないに関わらずそうした展開の中でも得点をとることは重要であることに変わりありませんが、やはり両チームが点をとりたいような状況の中で、つまり前半の状況のような展開の中でゴールを決めることが、大宮にとってはより重要になってくるわけです。そのためには前述したとおり、アタッキングサード手前を起点にして、ペナ脇のライン裏に侵入することやペナ脇での崩しというものが大事になってくると思います。

4.あとがき


みなさんは試合後のファンマを見たでしょうか。何と尊いことか。私はあの苦悩する表情が好きです。変態?いやいや。きちんと言えば、苦悩する表情から匂う飛躍への期待感といったあたりでしょうか。人間、なにが大事か。楽しいこと?それは次につながらない。重要なのは苦しむこと、それを正しく受け止め、正面から乗り越えること。いつも、見ているでしょう。暴れ馬のように走るスペイン人の背中を、顔を。きっと乗り越えますさ、彼なら。それが、柏戦になるのかは次節のお楽しみに・・・


5.宣伝

大宮に戦術を語る機運を醸成すべく大宮戦術談義会というグループを作っています(とか言いつつ大宮を肴に楽しく飲み会をするのがメインですが・・・)。これから戦術ブログ始めたい!戦術についてあれこれ語りたい!という方は大歓迎ですので、気軽にお声がけください。


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