消費税とインボイス制度のざっくりとした長い話

「インボイス制度」っていうものが2023年10月から開始されます。これはフリーランスの、特に売り上げが1000万円以下の人にとって、収入が1割減っちゃうくらいの大きな変化なんだけど、そのことを知らない人はかなりいるんじゃないかな〜と思うのでいちフリーラン目線でざっくりとした説明をしてみようかなと思います。バリバリ当事者なのに「インボイス」なんて全く聞いたことないよ〜っていう人に向けて、せめてものとっかかりにと思って書いてるので、詳しいことは詳しい人に聞いてね。

まず「インボイス制度」の話をする前にそもそも消費税ってよく分からないところ多くないですか?
僕はずっと

・なんで自分は消費税を納めていないのにクライアントに消費税を請求していいんだろう?
・それになんでクライアントは(おそらく免税事業者だと思われる)僕に消費税を請求されても何も言わず払ってくれるんだろう?

ってことについて、疑問に思っていました。

免税事業者でも消費税は当たり前に請求していいんだということは本で読んで知っていたからそうしていたんだけど、いざ「お前は消費税納めてないんだからこちらが払う必要ないだろ!」とか言われたら反論するのが難しいなと。

同じように思ってる人って多いと思うんだけどどうですか?
最近になってようやくそこらへんの答が分かってきたんですが、このことは「インボイス制度」とも大きく関わっています。

まず一つ目の疑問である、なぜ免税事業者(年間の売り上げが1000万円以下の人)でも物やサービスを売った時に消費税を徴収してよく、それを納めずに自分の懐に入れていいのか。
その答は「それが売り上げの少ない中小企業を支援する制度だから」です。つまり国が正式に「このお小遣いで何か美味しいものでもお食べよ」と言ってくれてるわけです。嬉しい。

とか思っちゃいそうですがそういうことではありません。これは国が消費税を導入しようってなったときに、反対しまくった国民に対して、交換条件として差し出した制度だったわけです。お金持ちにも貧乏な人にも皆一律に同じ負担を強いる消費税はいわば庶民に対して厳しい制度です。それで反対した庶民をなだめるために免税制度というものを作り「売り上げの少ないあなたたちにとってはむしろ収益を増やせる益税なんですよ」と言って「え、そりゃ、、いいじゃねぇか・・・」と始まったのが消費税だということです。税金というのは国が徴収した後、「国民の為の何か」に使われるお金のことですが、消費税の場合はその税収の一部は「売り上げの少ない事業者の為に還元しますよ(その過程を簡略化して納税免除という形になっている)」という約束と共に国民に認められた税制です。

話を戻すと、つまりだからしがないフリーランスの身としては、「そもそもこの免税制度を条件にこっちは毎日消費税払って買い物してやってるんだから(まあそれを決めたのは自分達世代ではないが)、堂々と請求していいんだ。」ということです。

でも2つ目の疑問は残ります。いくら国がそうしていいよって言ったって結局僕らが請求する相手はクライアントだからなぁ。クライアントに悪い気がする・・・
という風にも思いかけたんですが、これは僕の考えが足らなかっただけで、よくよく消費税の仕組みを見てみればそれがまったく見当違いな考えだったことに気づきました。

なにか物やサービスなどの商品を売る時、たいていの商品には原材料が必要です。で、この原材料を買うときには普通の買い物と同じように消費税を支払って買うわけですよね。つまり商品の価格のうち、原価にかかる消費税は「既に原材料を買う時に別のお店に支払っている」んだから、残りの部分だけに消費税をかけようねという話になるわけです。なので消費税を納める時には、「商品を売った際に発生した消費税」から「原材料を仕入れるときに支払った消費税」を差し引いた金額を納めます。(ここらへんの計算がややこしすぎるので消費税を納めるようになったら大抵の人は税理士さんに依頼するようになるわけですね)

僕はアニメーションやイラストという制作物を商品として売っているわけですが、クライアントからすると僕のアニメーションなりイラストは、「テレビ番組」だとか「広告」だとか「書籍」なんかの商品を作るための原材料にあたるわけです。つまりクライアントが僕に対して支払った消費税分は、そのクライアントが国に消費税を納める時にはきっちり差し引かれているので、クライアント的には僕に消費税を払うことで、トータル納めるべき金額にプラスもマイナスもありません。
(もっと言うと消費税を払っているのはクライアントが作った商品を「買った人達」であり、クライアントもエンドユーザーから預かった消費税を納めているだけの立場です。)
僕から請求されなければ直接国に納めるし、請求されれば僕に消費税を「任せます」(そして僕が免税事業者であればそのお金をそのまま貰って良いという「国との約束」があるのです)
やっぱり僕にお小遣いをくれていたのは国だったというわけです。

と、いうことを踏まえ・・・

ここからが「インボイス制度」の話です。
前置き長過ぎて痩せたわ。嘘だわ。痩せてないわ。

あまりに長くなっちゃったから小見出しなんて使っちゃった。

「インボイス制度」とはざっくり言うと
「今まで免税事業者にお小遣いあげる約束だったけど、それ(実質的に)無しね。あ、でも消費税は10%に上げまーす笑」
という話です。

「は?」って感じだと思うので、もう少し具体的な話をします。

正確には「インボイス制度」とは
課税事業者(僕にとってはクライアントにあたる)が消費税を納める時に、原材料分の消費税(僕に払っていた消費税)を納税額から差し引くためには、仕入れ先(つまり僕)から「インボイス」という『正式な形式で書かれた請求書』を発行してもらわないといけませんよ、という制度です。

この「正式な形式」には「事業者登録番号」というものを書かなければいけない決まりなんですが、この事業者登録番号というのは「課税事業者」のみに付与されるものです。
つまり売り上げ1000万円以下の免税事業者は事業者登録番号を持っていないので、「インボイス」がそもそも発行できない。というのがこの制度で大きく話題になっていることです。

では「インボイス」が発行できない免税事業者はどうなるのか。
仕事をした後、今までのように消費税を請求したとします。
するとクライアントはあなたに「インボイス」を発行してください。と言ってくるでしょう。だってそれがないと消費税を納税する際にあなたに支払った消費税分を差し引けないわけだから。「インボイス」を発行できない相手から請求された消費税は、消費税でもなんでもなく、ただの報酬の上乗せです。そんなのは誰だって支払ってくれないでしょう。

そうなると考えられるのはフリーランス側が「消費税を請求しないようにする」ということです。実際には消費税を請求しない取引というのはそれ自体が問題になってしまうかもなので、「内税でいくら」みたいに事前に交渉することになるのかもしれません。いずれにしても今までは報酬を8%増しにできていた(消費税が10%になったらさらにおいしかった)のが通用しなくなります。このマイナスだけでもフリーランスの人にとってはかなり痛いと思います。

また問題はそれだけに止まらないかもしれません。この制度が始まったらクライアントから「インボイス」を発行できるかどうか問われる機会が度々あるだろうことは容易に想像できます。その質問に対しての回答は「その人の売り上げが1000万円を超えているかどうか」を示唆するものになってしまいます。そんなこと気にしないと言う人もいるでしょうが、相手との関係性によっては(特に今までに長い付き合いがある相手などには)随分デリケートな情報であるようにも思えます。
また企業などによってはそもそもインボイスを発行できない人とは取引しないという方針をとるかもしれません。企業の経理は複雑ですし、正式な書類は必要だとか一々事前の価格交渉などに付き合ってられないということはあるかもしれないので、そうすると下請けであるフリーランスはインボイス発行の可否によって仕事の機会自体が減ってしまう可能性も考えられます。


売り上げ1000万円以下のフリーランスの人が仕事を続けるなら選択肢は大きく2つです。

1つには上記のリスクを覚悟した上で免税事業者として仕事を続けることです。ただし今までのような利益は無く、リターンは煩雑な手続きをしなくていいことくらいですが、リスクに対して見合っているのかは難しいところです。

もう1つは売り上げは1000万円を超えていないけど、自主的に消費税の課税事業者に登録することです。それは可能です。もちろんクライアントに請求した消費税分が自分の利益にならないことには変わりありません。どころか自分で消費税を国に納めるという手間が増えることにもなります。前述しましたが消費税の計算は複雑なので税理士さんに依頼する費用も発生するかもしれません。ですが正式に「インボイス」は発行できるようになり、クライアントから仕事を受ける機会自体は守れるかもしれません。


これが「インボイス制度」のざっくりとしたあらまし(だと思うんですけど違っていたらごめんなさい)です。なんか大変そうですよね。
その是非はともかくとして、インボイスの発行だとか納税事業者として登録だとか現実的な手続き自体なんだか難しそうで、そんなことを皆が皆出来るんかいな?というのも疑問です。(確定申告も個人事業主が本当に皆出来てるの?!って思っちゃうくらい難しいですよね)
だからせめてもの心構えというか、なんとなくそういうことがこの先あるんだなということくらいは知ってもらえたらいいかなと思ってこうしてやたらと長い話を書いてしまいました。「インボイス制度」のもっとちゃんとした話はどうかそれぞれインターネットで調べてください。消費税が10%になってから2023年の10月まで「経過措置」なるものを経てから本格実施となるそうです。経過措置って何?

これからの議論によっては変わる可能性もあったりするのかな?延期とか?ちょっとそこらへん、僕もこれから調べてみたいと思います。

フリーランス仲間の皆さん、明日からも生きていきましょう。では。

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(追記)
フリーランスになって4、5年目くらいのときの自分の想定でざっくりとした計算をしてみた。年の稼ぎが500万+消費税免税分50万(消費税10%計算)、支出が400万で暮らしてる人の場合、消費税が2%アップすることによる税負担の増加は8万円。対してインボイス制度が始まることによるマイナスは50万以上だ。しかもこの2つは同時に行われるので実質60万程度収入が減るということになる。
当然稼ぎも支出も大きい人ほどマイナスもでかくなる。免税事業者ギリギリラインの900万程度の稼ぎの人であればマイナスも100万円近くなるだろう。
皆さんもざっくり自分の場合を計算してみてはどうでしょうか。肝が冷える〜。

(追記2)
免税事業者の視点からのみの話になってしまったけどフリーランスで1000万円以上稼いでいる課税事業者の人たちや企業に勤めている人にとっても他人事ではない。
だって原材料を買ったり経費としてお金を使う相手がインボイス発行できないと自分の消費税負担が増えるということになる。個人でやってる人相手には経費を使いづらくなるわけだけど、それであなたのお仕事に支障はありませんか?払う側にしてみてもとても厄介な問題だ。

作品制作に繋げていきたいと思いますので是非よろしくお願いします。