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春のこと

いよいよ本当に暖かくなってきて、春を胸いっぱい吸い込んでいる。ついでに花粉も吸い込まれ、それには本当にまいってしまうのだが、とにかく一年で一番好きな季節を楽しんでいる。

うちのすぐ裏にはちょっとした緑道があり、桜並木もあれば色とりどりの花も植えられている。冬は少し寂しい感じになるが、その分春になった時の、一気に華やかに色づく様は凄い。春が生命の始まりであることが体の芯まで沁み渡るように実感できる。緑道にはせせらぎがあり、鯉やカモがいる。ときにはサギもやってきて川の中を気持ちよさそうに歩いている。せせらぎはやがて目黒川へと流れ込む。この頃になってようやく目黒川も花見の喧騒が落ち着き、春の気持ち良さを取り戻した。奥さんが出勤で目黒川の方へ行くので、最近「朝活だ」と言って、娘を保育園へ送り届けた後、僕も奥さんの出勤に付いて行って、目黒川沿いにあるコーヒースタンドでコーヒーを買い、目黒川に架かる橋の上から川を眺め、30分ほどのんびりした時間を楽しんでいる。陽の光が川面に反射しているのをみると、ここが東京のど真ん中であることを忘れ、大好きな森に来た気分にさえなる。目黒川がこんなに澄んだ川であったことに、今更ながら気づいて嬉しくなる。

春の陽気を肌に感じると僕はいつも、1浪の時の予備校での春のある日を思い出す。その日も実に春らしい空が青く晴れ渡った気持ちの良い日で、僕はあまりにもの気持ち良さに、アトリエ外の廊下の突き当たりにある窓の前で、スツールに座りながらぼんやりと窓の下(アトリエは2階にあった)を行き交う人や車を眺めた。本来ならば課題に取り組むべき時間だったが、そのときは「こんなに気持ちが良いんだから、まあ少しくらいサボってもいっか」と思えた。ただそれだけの記憶。いや、夢のように心地良かったその感触を未だに鮮明に思い出す。大層な逃避行でもない。小一時間そうして過ごしたくらいで僕はアトリエに戻ったと思う。何故そんななんでもないときのことを未だに思い出すのだろうと不思議に思っていたけど、考えてみるとそれは僕が春の気持ち良さを「自分から」楽しもうとした、初めての瞬間だったからかもしれない。

今では季節を、自然を楽しむということが、自分にとって当たり前で、かつとても大きな喜びになっている。どうやらそれはあの石膏像に囲まれて薄汚れている廊下の奥で、むくっと芽生えてきたものだったようだ。

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大桃洋祐

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