不眠夜回顧録
「あぁもう、まただよ、最悪。」
深夜2時、冴え渡る感覚を持て余しながら、僕は横になっている。
真っ暗な中、わずかに見えるのは壁にかかったデジタル時計。
今日は、年に数回ある、全く眠れない夜。
理由はなぜだかわからないけど、鼓動は休まることを知らないみたいに、大きく拍動する。
別に気温が高いとか、低いとか、そんなせいではない。ただ、眠りにつくことを、体が拒絶する。
「明日は早いんだから、さっさと寝ろよ」
そう自分に言い聞かせても、むしろ逆効果で。
眠れないことに焦り、焦りで余計に眠れなくなる。
ふと、目を閉じると、一瞬の闇が視界を覆ったのち、不思議な世界に迷い込む。
突然誰かに海へと突き落とされる、僕。
水面に触れるその瞬間、僕を突き落とした人間の優しい微笑みがわずかに見える。
たくさんの気泡に包まれながら、うねる視界には明るい太陽が映る。
息苦しさもなく、ただただ心地よい。
あたりが静寂に包まれると、僕はゆっくり沈んでいく。
あんなに明るかった太陽も、徐々に仄暗くなっていく。
その太陽の横に、僕を突き落とした人の顔がゆっくりと、現れた。
あぁ、懐かしいな。
黒いハットを被り、優しい微笑をたたえたその顔。
太っちょのじゅうやく。
「トップハム・ハット卿」
届くことない声を発し、僕の口から泡が溢れる。
ますます周囲は暗くなり、ついに彼の輪郭さえもみえなくなった。
あぁ、どんどん沈んでいく。
ここに底はないのだろう
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