ビートルズ解散の原因は税金だった!?2

●税金対策としてアップル社

前回、ビートルズは売れ始めてすぐに税金に悩まされているということを述べました。
1966年当時のビートルズの課税額の見積もりは約300万ポンドだったと言われています。日本円にして約30億円です。半世紀前の30億円というと相当の価値がありました。それが税金としてとられてしまうのです。

ビートルズの面々は、収入をほかの事業に投資するなどして節税をしようとしました。
収入をそのまま受け取れば税金がかかりますが、事業に投資をすればそのお
金には税金がかからないからです。

そのため、ビートルズは新たに会社をつくることにしました。
かの有名なアップル社です。
アップルは単なる税金対策会社にはとどまりませんでした。
自分たちのレコードをつくり、その莫大な収入で、ほかのいろんなクリエィティブな事業を試みる、というものでした。音楽、映像、美術などの様々なアーティストを発掘し、世界の芸術の先端を行くつもりだったのです。サイケデリックな服、雑貨などを集めた“アップル・ブティック”など、商業界にも革命をもたらす予定でした。
いわば「アーティストの理想郷」のような場所をつくろうということです。

今のままではビートルズの莫大なレコード収入のほとんどが税金として持っていかれてしまう。税金にとられるくらいならば、自分たちの好きなことにそのお金を回し、新たなカルチャーをつくりたいということでした。
ビートルズは、デビュー前にあちこちのレコード会社から断られたという苦い経験がある。そのため、若いアーティストに自分たちのような思いをしなくてもいいシステムを提供しようと考えたのです。
「みんな僕らのところにきて『こういうアイディアがあるんです』って言ってくれればいい。そしたら僕らは『やってごらんよ』って言ってあげる」
ビートルズはアップルの設立趣旨をこう説明していました。
 
しかし、生き馬の目を抜くと言われるエンターテイメント・ビジネスの世界において、事業の経験がまったくないビートルズがいきなりうまく行くはずはありません。
音楽であれば、彼らには元からの才能があり、地を這うような努力の成果があったので、大成功を収めることができました。しかし、ビジネスの世界では、彼らはまったく何の力もなかったのです。
が、彼らは音楽で成功したのと同じように、ビジネスでも成功すると思い込んでしまったのです。

それはある意味、仕方ない面もあります。
なにしろ、当時の彼らはまだ20代の半ばなのです。20代の半ばで大成功をおさめ、莫大なお金を手にすれば、「自分たちは何でも成功できる」と勘違いするのも無理はないのです。

●地元のダチを経営に参加させる


大金を元手に会社を作りましたが、ビートルズの面々が直接事業をするわけにはいきません。かといって、事業を任せられる有能なビジネスマンに知り合いがいるわけでもありません。
彼らはどうしたのでしょうか?
事業の経験もない「地元のダチ」に、いきなり大きなビジネスを任せたのです。

それはまるで「不良少年がいきなり大金を手にして舞い上がっている」という構図そのものなのです。

ジョンは以前に税金対策としてスーパーマーケットを買収していました。
ジョンは、そのスーパーの経営を、幼なじみでビートルズの前身のバンド「クオリーメン」のメンバーだったピート・ショットンに任せていました。

ピート・ショットンはクオリーメンでウォッシュボードという打楽器を担当していましたが、クオリーメンにポール、ジョージが加入して本格的なギターバンドになるころに居づらくなってやめています。ジョンとはその後も交流があったのです。

そしてビートルズが、アップルをつくったとき、ジョンは、アップルのブティック部門の経営をこのピート・ショットンに任せました。このブティック部門はアップルの中核事業とされていたものです。

ジョンはピート・ショットンに依頼をするときに「200万ポンド使わなきゃいけないんだ。そうしないと税務署に持っていかれる」と言ったそうです。

スーパーマーケットであればビジネスのフォーマットはあり、地域住民にとっては必ず必要なものなので、経営は場所さえよければどうにかなります。
しかし、ブティックはそうはいきません。品ぞろえが悪ければまったく売れないし、店の内装などにも専門の知識が必要となります。
ピート・ショットンは、地方都市リバプールのただの若者です。いわば「田舎のあんちゃん」に過ぎません。もちろん、ブティックの経営知識などはありません。
アップル・ブティックは、お洒落に見せるために店内の照明を暗くしたため、万引き天国となってしまうなど、明らかな失敗を犯し、たちまち大赤字を出しました。~ビートルズ解散の原因は税金だった!?3に続く~

この記事は、拙書「お金で読み解くビートルズの栄光と挫折」(秀和システム)から抜粋したものです。よかったら手に取ってください。

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