「乱反射」読んだよ!

結構前に読み終えました。個人的にはかなりアタリな小説です。

一人一人の悪意なき小さな悪事(ゴミをポイ捨てする、などの行為)が、積もりに積もって最終的に人を殺してしまう、というお話です。
(一応、少なからず罪悪感を抱いたりはしているので、悪意あるような気もしますが…。)

この本、関連人物(事件に影響を多少なりとも及ぼす人)が多いんですよね。よくこんなに多くの人が関連するストーリーを考え付いたな、と感心します。
その分、自分の日頃の本当に些細な行動が、後に重大な事件に結び付きうるか、ということが感じられます。
読み終わると少し行動を改めたくなるお話でした。

この小説を読んで良かったなと思った点は、
①物語のラスト
②細やかな救い
ですね。
以下ネタバレ注意です。

①物語のラスト
本作の主人公である加山には二歳になる子供がいます。
この子供が、不慮の事故で命を落としてしまうのですが、前半パートは「いかに人々の悪事が積み重なっていくか」、後半パートは「加山が事故の真相を明かしていく過程と、事実を知ったときの関連人物らの反応」が描かれています。
前半後半共に、加山はもちろん、その他の登場人物の視点で物語が紡がれます。

息子を亡くした後、加山は、事故(事件)の真相を探っていく過程で、息子を殺したのは人々の些細な悪事であり、自らも過去に同類の悪事を犯してしまっていることに気付きます。
(物語の冒頭で、加山は自宅のゴミをパーキングに設置されているゴミ箱に捨ててしまいます。)
そこで、自分のような人間が息子を殺したのだ…!と衝撃を受けます。
ここまでが一応本筋です。

さて、私は本を読む前に大まかなあらすじを知っていました。なので、冒頭の加山の悪事が、最終的に子供の死に繋がるような展開なのかな、と思っていました。
しかし、実際は直接的に事件に影響を与えるわけではなく、「自分も奴らと同類ではないか」と気付かせる程度のものです。
この部分を読み終えてすぐの感想は、正直「な~んだ」でした。
てっきり、自分が自宅のゴミをPAに捨てたことが回り回って息子を殺し、それを知り絶望に打ちひしがれるものだと思っていたのです。

ですが、後日談の話を読んで、このラストが最良であると思うようになりました。
もし加山の行為が息子の死の遠因だったら、加山が救われなさすぎますよね…。
加山に対する救いを残しつつ、人々はみな無意識のうちに誰かを殺しうることを示すラストだったと思います。

物語を最後まで読むと、タイトルの秀逸さにも気付きます。
タイトルが本の内容を端的に表しているんですよね。
一つ一つの光の反射は小さいものでも、それらが一点に重なると紙を燃やし得る、みたいな…。
乱反射も集まると大事なんだな、みたいな…。
ともかく、良いタイトルだなと思います。

②細やかな救い
この物語には二つの救いがあると思っています。

まず、加山夫妻への救いです。
息子を事故で亡くしたあと、加山夫妻は精神的に参ってしまいます。
加山夫(主人公)は真犯人探しに奔走するものの、皆が皆犯した罪は極々小さなもので、全く反省しようとしません。
息子は何故死ななければならなかったのか?に対する答えが導き出せず、精神を磨り減らしていきます。
加山妻は、事故が起きた瞬間息子のベビーカーを押していて一番近くにいたり、息子が死んだのに自分は生き残ってしまったりなど、心に来るものがあったのでしょう。
床に臥せって泣くだけの生活を送っていました。

そんなところに、夫妻の元にとある絵はがきが届きます。
事故から時間が経ち徐々に快復していた夫妻は、絵はがきの場所を探しに行こう!と、沖縄へ向かいます。
絵はがきには場所の記載がなく、自分達で探したり、地元の人に聞いたりして、なんとか絵はがきの場所に辿り着きます。
そこで、加山夫は、死んだ息子が生きていたら、ここに一緒に来れたんだろうなぁ…などと想いを巡らせ、ようやく「健(息子)は死んだのか」と言い、加山妻は頷き返します。
これで本当に物語が幕を閉じるのでした。

加山夫妻の衰弱ぶりは読んでいても痛々しいものでした。
しかし、最終的に彼らは息子の死から立ち直り、息子の死を受け入れることができました。
物語のことだけを言えば、加山が自身も同類であることに気付いたシーンで終えることもできたはず。
ですが、後日談として彼らが息子の死を受け入れられたことを知れて、思わず涙ぐんでしまいました。
息子が死んでしまった事故には何も関係のない加山夫妻が救われて良かったです。

もう一つは、加山の行動によって自らの罪を反省する人物がいたことです。
彼女は、車の運転が苦手なものの、運転できる人が他にいないため一家の運転係になってしまった人物です。
事件当時、買い替えた車が大型すぎて家の駐車場に入れられず、怖くなって車を放置して家に籠ってしまいます。
この放置車が原因で一時的に渋滞し、救急車の進行を妨げることになりました。
このことを加山から問い質され、彼女は罪悪感を感じるものの「私のせいではない!」と主張します。

彼女は、一度は自分を正当化しつつも、事故現場に花を手向けに行きます。
他の関連人物らはそのような描写がないので何とも言えませんが、恐らく"容疑者"の中で唯一花を手向けた人物なのではないでしょうか。
そして、自分の免許証を捨てて、もう二度と運転しまいと誓います。
加山の一連の行動に意味があった、ということが表れているように思います。
一番遠因である彼女が反省するのは少々皮肉なようにも思いますが…。

ともあれ、ただただ凄惨なだけの物語ではないことが分かります。
良くバランスが取れていると思いました。

以上、色々省略しましたが、「乱反射」とてもオススメの小説です。
登場人物の行動がどのように事故に収束していくのか、ワクワク・ハラハラしながら読むことができます。
なかなかボリュームはありますが、続きが気になりあっという間に読み終えられる本です。

#小説 #読書 #乱反射

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?