現生霊長類分類

人類の祖先は弱みを強みに変えて生き残った(放送大学 放送授業第2回より)つづき③

放送大学 放送授業 「レジリエンスの諸相」第2回での山極教授の話をまとめてみました。山極先生の市販本をいろいろ読んでみましたが、この放送授業の山極先生の話が分かり易くまとまっているので、できるだけ忠実にメモしました。(カッコ内の記載は私のつぶやきです)
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前回②の続きからです。→人間の祖先というのは2つの類人猿の弱い特徴、つまり、子どもの発達が遅い、それから、胃が弱く未熟な果実や葉をたくさんは食べられないという特徴を持ってサバンナへと出ていった。そこから人間のイノベーションが始まる。

稲村先生)子育て、子供の養育にはどのような変化があったのでしょうか?
山極先生)サバンナに出てくると地上性の肉食獣がいます。熱帯雨林にいれば木に登れば地上生の肉食獣から逃れることができた。だけどサバンナに出ていくと高い木がありませんから、安全な場所 洞窟とか崖だとかは限られてます。だから、みんなが一緒に動くことができなかった。なので、男女、子供とか体力の違う者同士が食物を分散して集めることになったのだと思います。

(ここで注意が必要なのは、人類の祖先は森にいた時代から二足歩行で遠くまで歩き回り、食物を集め分配していた。その特徴がサバンナで生かされ,強化されたということかと思う。

(山極先生の話は続く)

山極先生)とりわけ、それでも安全性を100%確保することはできなかったはずだから、死亡率は高まったと思います。特に、肉食獣が狙うのは幼児です。森林性の動物が サバンナ性の動物と違うのは、類縁関係が近い動物と比べてみると、肉食動物の餌食になる動物は多産なのです。
 つまり、子供がたくさんやられるので、その分子供を補充しなければならない。
 だから、たくさん子供を産むという能力が芽生えるわけです。いのしし、しか たくさんの子供を一度に産みます
 しかし、人間は類人猿と同じ祖先をもってますから、一度にたくさんの子供を産む方向に進化が進めなかった。だから、できることは出産間隔を縮めて短い期間にたくさんの子供を産むという方法だったわけです。
 そのために人間の祖先がやったのは、赤ちゃんを早く離乳させて、次の子供を産む準備をするということだったのです。そのために何が起こったかというと、本来ならばおっぱいを吸っていなければならない子供がおっぱいでない固形の食物で育てられることになりました。離乳食が必要になった。当時離乳食というのは今みたいに人工的な離乳食とかウシの乳とかありませんから、柔らかいフルーツとかそういった時期の赤ん坊に食べられるような食物をわざわざ運んでこなければなりません。それは結構コストがかかったはずです。それを払ってまでも授乳期間を縮めて、たくさんの子供を産むということが生存能力を高める方法だったのだと思います。
稲村先生)そうすると、保育のために多くのサポートが必要になりますね。
山極先生)おそらく、お母さんひとりだけでは、あるいは、お父さんとお母さんだけでは、たくさんの子供は育てられません。

(以下で、人類の祖先は集団で子育てをすることになったという話、集団が大きくなると、社会性の発達→脳の発達という話につながる。別の本では、祖父母が長生きする話につながる。)

山極先生)それから、さらに200万年前から人間の脳が大きくなり始めるわけです。ここから人間の属名 ホモ という言葉が登場するわけです。
最初に登場する人間は、ホモハピリスです。器用な人と呼ばれて、道具を作ってそれを使うことができる人という意味ですが、脳容量がそれまで500ccというゴリラ並みの脳容量だったのが、600ccを超えるわけですね、そこからホモ、我々に近い人間になるわけです。
 脳容量はそこから急速に大きくなって40万年前60万年前ぐらいまえに、今の人間の脳容量が1400CC 1500CCになるわけです。 

(その期間に何が起こったことは何か、→肉食。当時使った石器が見つかっている。)

山極先生)これは恐らく肉食動物が残した餌食からその骨に残っている肉を切り取ったり、あるいは、植物をたたいて小さくしたり、そういう用途に使われたと言われてます。その当時から恐らく肉食が増えました。肉というのはエネルギーの塊ですからそれだけで余分なエネルギーを摂取することができます。脳もこれは非常にエネルギーコストのかかる器官です。我々も脳というのは体重の2%しかないのに摂取エネルギーの20%以上を使ってます。そのような脳を大きくするために余分なエネルギーが必要だった。だから肉食というのは脳を大きくする前段階として貴重だったと思います。
 なぜ脳が大きくなったかという話なのですが、これは脳が大きくなることと集団の平均サイズが増加することときれいな相関関係があると言われてます。ですから集団が大きくなるにはそれだけいちいちの構成員、仲間の特徴を覚え、その1人1人に適切な対処をする方法を経験値とともに考案しなければならなかったからそれだけ脳を使ったのでしょう。
 つまり社会的な知性を使うために脳は大きくなったと言われているわけです。ですから社会の増大、複雑さと脳の増大というのは非常に大きな関係があります。
 つまり、多産というものと 多産によって集団の構成員を増やしたことと 脳が大きくなったこととは大きな関係があるし、そして外敵 肉食動物から自分たちを安全に守ることと集団のサイズが大きくなることは恐らく関係があったと思います。そういうことがシナジー効果になって人間の社会性が発達していったと思います。

 とりわけ脳が大きくなったということは人間に実は大きな課題を押しつけることになりました。それは200万年前に脳が大きくなったが、実は直立二足歩行はその500万年前に始まっているわけです。脳が大きくなった時には直立二足歩行が完成してしまっていて、骨盤のかたちが皿状に変化していました。そうすると骨盤の真ん中にある「産道」の大きさをそれ以上広げることができなかった。だから胎児のうちに脳を大きくして脳の大きな赤ん坊を産むことが人間の女性にはできなかったわけです。だから産んでから急速に脳を大きくさせる道を選んだわけです。そのために人間の赤ちゃんは生後1年で脳の容量が2倍になります。ゴリラの赤ちゃんは4年で2倍になってそれで終わりですから人間んお赤ん坊は4倍のスピードで1年間 脳を大きくするわけです。そのためにものすごくたくさんのエネルギーを脳の発達につぎ込まなくてはいけない。そのエネルギーをどこから持ってきたか肉食ではもたないわけですね、そのために身体の成長に使うエネルギーを脳の発達に回したわけです。だから、人間の赤ちゃんはその頃から身体の成長が遅れ気味になったわけです。その結果として、頭でっかちの赤ちゃん、成長の遅い赤ちゃんをたくさん抱えるようになった人類の祖先はとてもとてもおかあさん一人では子供を育てられません。おとうさんとおかあさんでも無理です。だから、1家族が繁殖の単位になって子供を育てるよりは複数の家族が集まって共同体を作って共同で育児をすることが非常に有利になったわけです。その時に明らかに人間の社会体制というのは家族と複数の家族が集まったコミュニティという二重構造になったと私は思うのです。

(山極先生の話のつづきは次回へ)

(以上の山極先生の話は現在の様々な社会問題を連想させる。人間の子供はもともと母親1人だけ(あるいは母親と父親だけ)で育てられる前提で生まれてきていなかったということになる。育てる子供の数が減ったとはいえ、長い期間、手間がかかる赤ん坊を育てるのは、家電製品の登場により便利な社会になったとはいえ、母親、父親だけでは難しいことに変わりはない。人間の赤ちゃんは大人になるのが遅いのだから。人類の祖先の時からずっと、集団で育てる前提の時代が長く続いていたことになる。その時代には、親による虐待などはなかったであろう。ゴリラの雄のようにイクメンも当たり前の時代が長かったのかもしれない。核家族化した社会の中で子供を増やすという課題の根本的な解決のシナリオが見えてくる。)



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