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これはラブレターです

その後がいくら辛くてもしんどくても、「あの夜」があったこと。あった、という事実。思い出せなくなるその日までは、それだけで十分なんだ。

それだけで、頑張れる日とか眠れる夜とか、逆に眠れない夜もある。

2022.3.27(日)、オールナイトニッポン55周年記念公演『あの夜を覚えてる』の千秋楽を観劇した。

今は朝方4:13になる。一度寝て、目が覚めて、これを書いている。今しか書けないと思った。

オールナイトニッポン55周年記念公演
”藤尾涼太のオールナイトニッポン”にかける人々を描いたニッポン放送を舞台にした生配信舞台演劇ドラマ。
9人のキャスト、200人のスタッフ、23,000人のリスナーとつくりあげたラジオの奇跡の物語。
あの夜 公式サイト

「あの夜、買おうか迷ってます。面白かったですか?」

きっかけは私がずっとずっと引きずっている大好きだったT先輩のストーリーズだった。
「最高だった」の文面と共に載せられた『あの夜』のスクリーンショット。親しい友達への公開。

そして、好きな人の趣味は全部コンプリートしたいという癖がある私。もともと先輩とは「深夜ラジオ」「オードリー」という共通点だけで運命を感じていた。もうこれは、私に向けられたメッセージだと思いたかった。

最後に私からDMを送ったのは、1年前だった。
典型的なザオラル(*1)メッセージとはかけ離れた文面で、それを見せた女友達からはもれなく「きっしょ!!!なにこれ!!!」と不評だった。凹んだ。

(典型的なやつはたぶん「元気〜?」「最近どう〜?」とかで、私の場合は長文で思ってることを全部書いちゃう系だった、、、ほんとに恥ずかしすぎて思い出したくない。笑)

「きっしょ!!!!」をまともにくらって発狂していると「まあでも、恋愛してるときなんて、誰でもきしょいからね」とフォローしてくれる女友達。優しい。

1: “ザオラル”とは、かの有名なRPG『ドラゴンクエスト』で、味方を戦闘不能状態から回復させる呪文のこと。世間では“疎遠になった相手との関係修復を目的"として送るメッセージを意味する言葉としても使われます。
出典: マイナビウーマン

たしかに、私のDMはすぐに既読無視されたので、女友達の「きっしょ!」は、超真っ当で客観的な評価だったことが証明されてしまった。
笑いにしつつも正直に意見を言ってくれる彼女を、これからも大切にしなくてはいけないなぁ...と改めて思う。

その人に最後に会ったのは、もう3年も前だ。
くっちゃくちゃになって終わった関係。
1年前のきしょいザオラルDMだって、すぐに無視されて終わっている。
こんな状態でDMを送ることは、私にとって(というか全人類にとって?)胸がえぐられるほど恥ずかしい行動だった。

でも、止められなかった。

「あの夜、買おうか迷ってます。面白かったですか?」

2分で返信が来た。

『絶対買った方がいい!』
『というか、買って!』

この速さで当たり前のように返信がきたことに、思い切り頬がゆるんだ。

本当は少し待った方がいいのかもしれないけど、そんな駆け引き、できたらとっくの昔からやっている。

「おおお!」秒で返した。

画面に(入力中...)の文字が出ると、それだけで嬉しい。

あえて特別感を演出する

私は、T先輩のことを①心から気の許せる友達②まあまあ酔っ払っているとき、の条件が揃ったときのみベラベラと話してしまう。

T先輩は理想とはかけ離れたタイプなこと、大学時代どれだけ好きだったかということ(「今は好きとかではない」と必ず強調)、これは執着だと自覚していること、今の彼氏が大好きで大切で傷付けたくないこと。

じゃあ何を望んでメッセージを送っているのか。
本当に「あの夜」の評判を知りたいだけなのか。
そこは自分でも分からない、ということにしておいている。

「お値段そこそこするので、迷ってて。でもそこまで言うなら、買ってみようかなあ、、」

『僕も最初そう思ってたけど、見たらそんなこと感じなくなるよ』

自分のことを"僕"と呼ぶ異性にきゅんとくる気持ちは、この人が教えてくれた。今でも僕呼び系メンズに出会うと胸が高鳴って仕方ない。
(自分のフェチとか癖を気付かせてくれた人って、忘れられなくないですか、、、)

「そうなんですね!周りにラジオのこと話せる人とかいないから、聴けてよかったです!」

周りにいない。
あえて特別感を演出する自分、あとから見返すと、なんかあざとい。狙ってる。

『ラジオ聴いてる人いないよねえ』

いないんだ!わー!!!!!

今の彼女(いるかも知らない)も、深夜ラジオ、聴いてないのかな。共通の趣味ってわけじゃないのかな。
ラジオの話とか、オードリーの話とか、若林さんのエッセイの話とか、誰にもしてないのかな。嬉しい!

自分であざといと気付いておきながら、相手の「(他には)いないよねえ」には敏感すぎる。やっぱり私はどうしても、この人に関わるときしょくなってしまう。はあ、きっしょい。

『オードリーの他にも、今聴いてるのある?』

し、質問してくれた!!
急いでradikoを開いてマイリストをスクリーンショットする。写真の編集画面で、下の3番組を黄色のハイライトに塗りつぶす。
本当はオタクとしてSixTONESのラジオも毎週聞いてるけど、なんとなくそこは隠した。

「下の3つは毎週聴いてます!」

『いいね!』

『僕はオードリー、クリピ、三四郎、ハライチを聴いてるよ〜』

お互いが知っている言語で会話できることが、心の底から楽しかった。
あの回が面白かった、この番組は沼そうでまだ聴けていない、やばいそれ面白そう。
たった15分くらいのやり取りなのに、目の前がポワポワしてくるくらい幸せな時間だった。

相手からの返信が数分空いたうちに、公式サイトからチケットを購入した。
開演まで、あと1時間と少し。
まだお風呂も入っていなかったから、色々と準備を整え始めた。

真っ暗な部屋、手探りでティッシュを探した

19:47
すでに開場していたから入ってみたら、佐久間さんの生アナウンスやチャット欄など、オンライン観劇ならではの演出がたくさん散りばめられていて感動した。

カチカチカチ

「配信画面からメール送れるのすごいですね!」

もうやめとけばいいのに、また追撃で送ってしまった。
集中を削がれると悪いから、一旦スマホの通知をオフにして「あの夜」に没頭することにした。

20:19
始まってから割とすぐに、買ってよかったと思った。
ラジオネタがたくさん散りばめられているだけで楽しいのに、それだけじゃなくてストーリー自体が面白い、ひかるちゃん演じる植村が可愛すぎる。
チャット欄も盛り上がっていて楽しくて、ついつい連投してしまう。メールも勿論送った。

先輩に感想を送るため、スマホのメモに感想を打っていた。

チャットにメール、メモ帳。あれこれマルチタスクしながら、でも耳と目は画面に集中した。

22:30
途中から部屋を真っ暗にしていた。
大学時代、夜中にリアタイしてたあの時間に入り込みたかったのかもしれない。
暗い部屋の中、涙を拭くためのティッシュを見つけられず、手探りでテーブルの下を探した。

完全に終演したあとも、文字通りの放心状態だった。
溢れる思いは、全部メモ帳に書き起こした。

まさに、自分の、あの夜

カチカチカチ

「今終わりました。やばかったです」
「これ、観てないのと観たのじゃ、世界変わるやつですね」

『でしょ、、』
『ラジオ好きで良かったと心から思える』

そこから何ラリーか感想を送り合った。
私が打ってる間に相手も入力中になったり、相手が入力中でも私も送ってしまったり。お互いのスピード感が伝わった。

『ひかるちゃんで良かったよね』「千葉くんの話もさ、、」『野々宮の胡散臭さもたまらん笑』「あんな重要な役だったとは笑」

『あと、ラジオ聴きながら寝てた大学生の頃を思い出したな〜』
『まさに、自分の、あの夜』

深い意味なんてないんだろう。
彼にとっての「あの夜」がどの夜を意図しているのかは知らない。知るはずがない。私、先輩のこと全然知らないし。一緒にラジオ聴いたことなんてないし。
単に、毎週大好きなリスナーの番組をリアタイしていた夜のことを呼んでいるのかもしれない。

でも、私が思い出した「あの夜」には、確実に先輩との「あの夜」が含まれていた。

「若林さんのエッセイが好きだ」と言っても、誰も共感なんてしてくれないと思ってた。まず言おうともしなかった。
オードリーのラジオを聴いてる人なんて、周りにはいなかった。(日本にたくさんいるはずなのに)

なぜかずっと少し惹かれていた彼が、リトルトゥースだって言うから。若林さんのエッセイ大好きで全部持ってるだなんて言うから。

深夜にコソコソと電話したり、ラインしたり。
もうそこまで先輩との会話を鮮明には覚えてはいないけど、どうしようもなく好きすぎたことは覚えてる。

彼との初めてのデートにはビッチリ付箋だらけの「社会人大学人見知り学部〜」(若林さんのエッセイ)を持参した。付箋には面白かったポイントを書いていた。まじめか?
今思うと、本当に気持ち悪くて、ちょっと愛おしい。

私は何事も用意周到に準備をするタイプで、それは今も変わってない。特に、プレゼン前とか。でもさすがに「デートはそこまで準備して挑むものではない」と分かるほどには、今は大人になった。だって、あれからもう3年が経った。

『まさに、自分の、あの夜』

「わかります〜」「今日もあの夜にリストインしました」と返した。

変な意味にならないように、慎重に言葉を選んだつもりだ。

「文字だけで伝えるのって、難しいですね」と打っては、送らずに消した。

ピロンッ

『また今度話そう、今日は寝るね〜』

先輩は何気なく、単に話を切り上げたのかもしれない。
でもこの瞬間、思った。
ああやっぱり私たちは「あの夜」にしかなれないんだ。
もう未来なんてないんだ。何を望むわけではないけど、望んでいないはずだけど。
分からないけど、たぶん、「また今度」なんてないんだろうなあ〜〜〜〜。

私がメッセージを送れば返してくれるかもしれないし、ラジオの話題で盛り上がれるかもしれない。
それでも、私たちの関係性はもうこれ以上何も変わることはない。

でも、しょうがない。「あの夜」があるだけで、もういいのかもしれない。人生はそういう連続なのかもしれない。

藤尾だって、もうあの夜が最後のANNだったかもしれない。
あの夜は最高で、それ以前の100回の夜も最高だったはずだ。それでも、番組が続くかどうかはまた別で。
野々宮が言ってたように、スポンサーとか建前とか、色んな事情があって。マイカだって人気だろうしね。

それに、藤尾本人だって、もうあれ以上はキツイのかもしれない。続けることだけが正解ではないし、正義でもない。

そのあとがいくら辛くてもしんどくても、「あの夜」があったこと。あった、という事実。思い出せなくなるその日までは、それだけで十分なんだ。
それだけで、頑張れる日とか眠れる夜とか、逆に眠れない夜もある。

今日も、新たに「あの夜」になった。
そんなに多くはない、私の「あの夜」。

月曜日、週の始まり。今は5:56。
こんな日でも、仕事は山ほど溜まってる。
3時間しか寝ていない、ばかすぎる。

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