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「カラビ=ヤウゲート 深淵の悪魔」/第二十四話(最終話)

私がここに記す言葉は、エピローグであり、警句でもある。

宇宙の法則。

その美しきプログラムを、デザインしたのはいったい誰なのだろうか。

この宇宙と、そこに住まう我々が何者かによって創造されたものだとしよう。ならば私たちが創造したものにも命が生まれ、私たちには感知できない形でなんらかの生命を再生産しているのだろうか。

フラクタル。

宇宙は、世界は相似形を保ちつつ、無限の再生産を繰り返しているのかもしれない。その出発点は、終着点はどこなのだろうか。


一連の騒動の後、恋河原美穂の体内には新たな生命の芽吹きが確認された。恋河原は正式なプロポーズを受け入れ、2人はよくある夫婦の形態をとって生活を始めている。

クロノスの会は解散した。目的を果たすためとはいえ、『悪魔』を信奉する教団としてのイメージがついた以上、存続は難しかったようだ。もっとも、はなからそれは計算のうちで、会員たちはそれぞれの場所で信念に従って活動を継続するらしい。森林氏は生まれ故郷の長野に戻り、清原青年は北都大学に再び通いだしたとのことだ。

堀川准教授は大きく活動の場を変えた。悪目立ちしたせいで北都大学をやめざるを得なくなったのだが、捨てる神あれば拾う神あり、東京の有名私大が彼をスカウトし、マスコミ出演の機会も増え始めている。

曰く、「研究費の支援額が桁違いで嬉しい悲鳴」だというから、ひょんなことから転機を迎えたといえよう。

さて事ここに至り、なぜ私がこの物語を記すことにしたかを説明しておいた方がいいだろう。

一言でいうなら防衛のためである。

一連の怪異はいずれ『悪魔』の手により、この世界、この宇宙に生きる私たち人類のメモリーから消去されるだろう。

単なる観測者であったはずの『悪魔』が、なんらかの事情で意志のようなものを持ちえたことは脅威である。サッカーの審判が突然どちらかのチームに与してボールを蹴りだすようなもので、甚だ遺憾だが、それを完全に止める手立ては今の私たちにはない。

ならば微力ながら、創造物の形で後世の人類に対応策のあらましを残しておこうというのが、この物語の存在意義なのだ。

この物語がより多くの人に読まれれば読まれるほど、『悪魔』の手を煩わせることができるはず、という仕掛けである。そういうわけなので、ここまで読んでいただいた紳士淑女の皆様には、この物語をさらに広げる手助けをしていただけるとありがたい。なにせ、人類のためなのだから。

そうそう、先日私は堀川准教授とのメールのやり取りの中でふと、こんなことを尋ねてみた。

「結局、あの『観測者』はなぜ『悪魔』って呼ばれてたんでしょうか?」

するとこんな返事が返ってきた。

「いまごろ何を言ってるんだ。あいつは『マクスウェルの悪魔』じゃないか。気づいてなかったのか?」

・・・よくわからないが、そういうことらしい。

ともあれ、せめて私が生きている間くらいは、平穏な世であってほしいものだ。みなさんも、そうは思いませんか?


では、人類の未来に幸あれ、と書いて筆をおかせていただこう。

紅林太一郎 記す。


追記:生まれてくる子が娘だったら「美佳子」と名付けようと思っている。


<「カラビ=ヤウゲート 深淵の悪魔」終わり>


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