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20字小説 1~19とエンドタイトル/小牧幸助文学賞 参加作品まとめ

「行くの?」
「ああ」
雨はまだ、やまない。

「世話になったね」
君は返事をしなかった。

僕が君の部屋に転がり込んだのは、1年前。

その夜も降っていた。
雨が。
ただ音もなく。

何もかも失った。
皆が僕から離れていった。

ほっとけない、と君は言った。
僕は甘えた。

「そう、なんかサティっぽかったからかな」

「えっ?」
「ジムノペディが聴こえる感じ」

夜職の彼女は、ペットのように僕を飼った。

「ねえ、私をひとりにしないでよ」
「ああ」

妙な咳が取れず病院に行った。
肺癌だった。

もうこの部屋には居られない。
さよならだ。

秋風。
やがて、別れの気配が部屋に満ちた。

扉を開けると、夜の雨。
もとより傘はない。

「行かないで!」
君の声。
僕は、振り返る。

「私の部屋で死んでよ!」
知っていたのか。


愛が何か僕は知らない。
のこされた時間も。
手を伸ばしても届きはしない。
ざまはない。
わからないまま生きる。
りくつはいらない。


<タイトル>
「愛の手ざわり」
~雨の夜、ジムノペディ~


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