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【エヴァ考察】アダムスとは何だったのか

今回は謎多きアダムスについてです.主にその人類補完計画上の位置付けと名称の由来+αの考察になります.



1.神が与えた

今回扱う台詞です.太字部分に注目します.

ゲンドウ「ゴルゴダオブジェクトだ.人ではない何者かがアダムスと6本の槍とともに神の世界をここに残した.私の妻,お前の母もここにいた」

同「バカな…"聖なる槍"は全て失っている.世界を書き換える新たな槍はありえないはずだ」

マリ「神が与えた希望の槍カシウスと絶望の槍ロンギヌス.それを失っても世界をありのままに戻したいという意志の力で作り上げた槍ガイウス,いえヴィレの槍.知恵と意志を持つ人類は,神の手助けなしにここまで来てるよ.ユイさん」

『シン・エヴァ』


(1)神が与えた槍

本記事の関心に沿って,上記台詞からいくつか内容を取り出します.

①アダムスと槍は神によってゴルゴダオブジェクトに設置された.
②槍は世界を書き換えるための道具である.
③槍は神から人類に与えられたものである.
④運命を強いる神から手助けがあった?

まずは,このうち②槍は世界を書き換えるための道具である,について解説を試みます.

引用したゲンドウの台詞「世界を書き換える新たな槍」とは,直接にはこの後起こされるであろうインパクト(ネオンジェネシス)に用いられるヴィレの槍を指しています.

しかし,文脈をすっ飛ばして「新たな」を括弧に入れ,これを「世界を書き換える槍」と読み替えても我々は意味を理解できます.なぜなら,本編を観れば世界を赤一色に塗り替えるインパクトについて,聖なる槍はそのための道具だろうことを知っているからです(槍の道具的理解のあれこれは「インパクトの方術試論」←URL埋め込み以下同じ).

海の浄化,大地の浄化,魂の浄化.インパクトとは世界を赤く染めることで世界から知恵の実を一掃し,生命の実の存在だけが許される世界に書き換えるための儀式でした(こうした新劇の補完計画と旧作のそれについては「続・ナウシカの続きとしてのエヴァ」).この世界の赤化=コア化は人類が知恵の実の生命体から生命の実を備えた生命体に生まれ変わるための一環として行われたものです.

ゲンドウ「知恵の実を食した人類に神が与えていた運命は2つ.生命の実を与えられた使徒に滅ぼされるか、使徒を殲滅し、その地位を奪い、知恵を失い、永遠に存在しつづける神の子と化すか.我々はどちらかを選ぶしかない」

『シン・エヴァ』

人類補完計画におけるこの結末は,聖書に因んで禁断の木の実=知恵の実を食した原罪への罰として,神が人類に押しつけた運命です.そしてマリの台詞によれば「聖なる槍」はこの運命を人類自ら遂行できるように神が用意した補助道具.これが神による「手助け」と理解できます.だからミサトらが自らの手で新たな槍を創出したことについて「神の手助けなしにここまで来てるよ」となるのです(以上,上記③④の説明).

こうした理解は,物語とも(今のところ)整合性がとれているのではと考えます.


(2)神が与えたアダムス

さて,槍についてそのように理解できるのならば,同じく神によって設置されたアダムスも同様なのでは.これが今回の結論というか仮説です.

すなわちアダムスは贖罪という人類の目的遂行のために神によって与えられた補助道具(兵器?)という理解です.

以前はアダムスを人類の敵と理解し,ゼーレがネブカドネザルの鍵の力でアダムスたちを支配下に置いた過去があったのでは,という予想を立てたりしましたが(「マルドゥック計画/ネブカドネザルの鍵」),考えを改めます.

細かい話ですが,今回の改説の結果,ネブカドネザルの鍵の理解も一部変更することに.以前,この鍵の名前の由来をネブカドネザル王(新バビロニア帝国)に求め,彼が行ったバビロン捕囚に因んでいると考えました(この部分は変更なし).

変更するのは"アダムス捕囚に用いた道具だから"ネブカドネザルの鍵という部分です.劇中で第3使徒をはじめとする使徒(私見では第11&12使徒も)が人間に捕獲されたわけですが,この捕獲の際に鍵の力が用いられた可能性があります.加持が鍵を持ち出してきたのが第3使徒を保管するベタニア基地だったことも鍵と使徒の関係を示唆するものだったのかもしれません.そういうわけで「バビロン捕囚」に因んで人類に捉えられたのはアダムスではなく使徒という理解に変更させていただきます.


(3)今後の課題:アダムスの入手経緯

残された問題として,ゴルゴダオブジェクトに配置されたアダムスと槍がどういった経緯で人類に渡ったかです.

マーカー引用者.右の老人が木から実を取っているがアダムスと槍ということでしょうか

冒頭の台詞の通り,両者が設置されたのはマイナス宇宙にあるゴルゴダオブジェクトです.劇中でマイナス宇宙はヴンダーでは手出しができないことが確認されています.

したがって,人類は独力でゴルゴダオブジェクトに辿り着けないため,道具の入手にあたってはアダムス側から地球にやってきたと考えられます.具体的にはアダムスと槍も白き月に乗って地球にやってきたという説明です.

例えば,冒頭の台詞でゲンドウはリリス(ユイ)もゴルゴダオブジェクトにいたと言っています.これはリリスがゴルゴダオブジェクトから黒き月に乗って地球に降り立ったことを意味しています.

これを参考にすれば,同じくゴルゴダオブジェクトにいたアダムスや槍も同じように考えられるということです.実はこれにより,新劇の使徒は白き月から地球に降りていたという理解ができます.使徒が月からやってくるというこの設定は,実は旧作の初期設定にあったものです(真・エヴァ).

と,粘ってみたものの根拠のない憶測の域を出ません.今後の課題です(しかしこんな細かいことまで分かる日は来るのでしょうか).



2.名前の由来

(1)アダム家とリリス家2

さて,アダムスの名称に話を移しましょう.以前よりアダムスとはアダムの複数形という指摘がされてきました.リリス/リリンのアナロジーで.

リリス(Lilith 単数)/リリン(Lilin 複数形)——親子
アダム(Adam 単数)/アダムス(Adams 複数形)——親子?

序の次回予告より

ここからリリンと同じように,アダムスがアダムを生命の源とする生命体という理解が出てきます.もっとも,アダムを生命の源とする生命体には他にも使徒がいます.両者の関係が気になるところでした.これらをどのように理解すべきか.

この星の生命の始まりでもあり,終息の要ともなる,第2の使徒…リリスよ

序C-1394

リリスを参考に考えてみましょう.台詞の「この星の生命の始まり」.つまり地球にはヒト以外にも生命体は存在しており,その者たちもリリスを生命の源とするということです.使徒を除く地球上のすべての生命はリリスを源とするのです.

このこと自体は筆者が指摘するまでもなく一般的にそのように考えられているところです.これを踏まえると以下のように整理できます.

・リリス家
リリス(創造主)
リリン(被造物人型)
その他の地球の生命(被造物非人型)

・アダム家
アダム(創造主)
アダムス(被造物人型)
使徒(被造物非人型)

創造主と被造物という視点を導入するとこのように整理できます.リリスサイドとアダムサイドできれいに整理できます.ともに被造物が人型と非人型の2つに分けられており,これはアダムスがウルトラマンを模していて人型であること,そして使徒はそうでないことに合致します.

なお,上の整理に入りきらなかったのですが,エヴァインフィニティが初号機の姿をしていることについても,初号機(創造主)/エヴァインフィニティ(被造物人型)と理解することができます.

この創造主/被造物というものですが,もちろん聖書に因んでいます.神が人間を自分の似姿として造ったというお話です.

(創世記1:27)
神はご自身にかたどって人を創造された.
神にかたどって創造された.
男と女に創造された.

共同訳聖書実行委員会『聖書』

注意したいのは,聖書においてこの似姿の意味は人間が神の見た目に似せて造られたことを意味しないことです.なぜなら聖書の神は不可視,不可知の存在だからです.

では聖書における似姿はどういう意味かというと,神に倣って人が地上の生物を統べ治める者として創造されたことを意味します.人間以外の生物も人と同じく神の被造物ですが人間とは差別化されていることがわかります.統べ治める者とされる者.これが先ほど述べた人型被造物と非人型被造物の区別の由来です.

もっとも,『エヴァ』の神は不可視でも不可知でもなく実際に人型なので(ex.リリス),被造物であるリリンやアダムスが神と外見が似ていると理解して問題ないです.

以上,アダムスと使徒の区別は,聖書の被造物内の人間/非人間の区別に倣っており,アダムスが同じアダム由来であるのに使徒とは異なる扱いであること,また名称の付け方がリリンと同じだったこと,いずれの元ネタも聖書というお話でした.

また,上記考察の帰結として,冒頭の台詞「ゴルゴダオブジェクトだ.人ではない何者かがアダムスと6本の槍とともに神の世界をここに残した」における「人ではない何者か」とはアダム,ということになるでしょう.

最後に.先ほどのミサトの台詞の「終息の要」とはサードインパクトを指しています.これは破のラストのリツコの印象的な台詞「世界が終わるのよ」につながります.すなわち,リリスが終息の要というのは世界の終わりサードインパクトにおいて重要な役割を担うということでした.具体的にはおそらく旧劇サードのように巨大化して世界を赤くするのでしょう(詳細は「これまでのサードインパクト」).サードが世界の終わりというのは,残りのリリス由来の生命体がコア化して消えてしまうのでそう呼ぶにふさわしいということだと思います.


(2)月面の巨人

さて,先ほどのアダム由来/リリス由来の整理を採用すると,月面の巨人(Mk6の素体)の正体について何か言えそうです.

これまでこの巨人ついては,第12使徒説,アダム説,アダムス説が唱えられてきました(当社調べ).ではいとも容易く復習できるえげつない解説をすると,

①第12使徒説
→ QでMk6の装甲から使徒が出た際,装甲の中は空っぽだったことから(Qコンテ),Mk6の素体自体が第12使徒だった.また,同機体が真のエヴァと言われるのも,人類の新しい器が生命の身を得た生命体すなわち使徒であるからという設定に合致すること辺りを根拠とします.ちなみに,おそらくこの説はMk6を3号機のように使徒に取り憑かれた状態のエヴァと理解する見解ではありません.

Qコンテ.マーカー引用者

②アダム説
→旧作リリスははじめアダムと紹介され,ゼーレマークの仮面をつけていた(下記画像右).新劇でははじめからリリスと紹介されたにもかかわらず使徒の面に変更になった.翻って,ゼーレマークの面は実質アダムの仮面と理解でき,それを被る月面の巨人をアダムと理解すべきことを暗示している.Mk6の面は旧作でリリスが付けていた仮面とほぼ同じデザインですし(下記画像左),この面を付けるのは新劇を通してこの機体だけということも根拠になるでしょう(他のMkシリーズは"新劇"ゼーレマークが刻印された使徒の面).ちなみにこの説からは真のエヴァと呼ばれる理由は,エヴァの素体は基本的にアダムのコピーでしたが,Mk6の素体はアダムのオリジナルだからということになります.これはご存知の通りエバ(イヴ)がアダムの肋骨から造られたという聖書に因んでいます.

影でわかりいくいが目が二つ見えます(左).アイマスクのようなものを重ねることにも意味はありそう

③アダムス説(2説有り)
→1つ目は,Qで13号機が第12使徒に包まれるシーンは『ウルトラマン』39回(ゼットン回)のオマージュである.ウルトラマンを包んだのは同じ光の国の使者ゾフィー.ゾフィーを模したアダムスがセカンドインパクトの回想で登場した.ここから13号機を包んだ第12使徒が宿っていたMk6の素体は元はゾフィーアダムスだった可能性があるといった説明.この説による「真のエヴァ」の説明は使徒説と同じになると思います.
 
→2つ目は,6体目のアダムスという説明です(下記記事参照).ウルトラ6兄弟でいうウルトラマンタロウということになります.これは月の巨人と共に6本目の槍が描写され,アダムスと槍のセット感があること.そして「真のエヴァ」については,初号機を除く新劇エヴァの素体をアダムスと考えた場合,アダムスのコピーではなくアダムスそのものだからと整合的に解釈できることが根拠(の一部)に挙げられています.もっとも,この説は,月面の巨人が設定資料等において(「6号機蘇生現場」といったように)むくろであることをどう理解するのかよく分かりません.上記1つ目の説明はセカンドインパクトで使い果たされたといった説明が可能なのですが(アダム説も同様),この説の場合どういった経緯で死体になったのでしょうか.


なお,以上は筆者が理解するもので提唱者の説明と異なる可能性があります.

ちなみに,アダム説・アダムス説ではQでMk6の装甲から第12使徒が出てきたことの説明が求められますが,サードインパクトの前後に使徒に乗っ取られたと考えることになるでしょう.

では先ほどのアダム家の分類を用いてこれらの見解をふるいにかけると,第12使徒説が引っかかることになります.月面の巨人は人型なので非人型被造物である使徒ではなさそうだからです.

残りの2つの説ですが,正直どちらがより説得的かは分かりません.ただし1つだけ指摘できることがあるとすれば,それはセカンドインパクトに用いられたゾフィーアダムスがヴンダーに変身を遂げている可能性があり(「ゾフィーの行方」),そうだするとこの可能性と整合する見解はMk6=アダム説ということです.

もっとも,この見解はヴンダーがゾフィーアダムスであるという根拠の薄い前提に乗っているため,そうかもしれないといった程度です.今後この辺りの議論が進むことを願います.


今回は以上になります.お読みいただきありがとうございました.


・参考文献
大貫隆ほか編『岩波キリスト教辞典』(岩波書店,2002年)


画像:©khara/Project Eva.


※追記(2023/3/25)
月面の巨人について6体目のアダムス説を追加.

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