【エヴァ考察】 初号機の素体
今回はエヴァ初号機の素体についてです.前回と前々回の議論を前提に話を進めます.すなわちそこで検討した内容について特に本文で説明はありません.未読の方はこれらの記事を読んでからお進みいただいた方がわかりやすいと思います.
・前回「アダムスとは何だったのか」
・前々回「これまでのサードインパクト」
1.はじめに
さて,旧作と異なり新劇場版では初号機の素体は明示されませんでした.そこで考察の対象になるのですが,「これだ!」という説明は未だ登場していないと思います(当社調べ).大方予想はついているはずなのに,です.
どうしてか.説明しようとすると難しいからです.難しい理由の1つは,今のところ確たる証拠がないので間接的な事実の積み重ねでしか説明できないことでしょう.例えば仮に初号機の素体がリリス(のコピー)だとすると,〜で辻褄が合うといったことを延々とやらないといけない(この後自ら遂行するわけですが).
しかも,こうした議論の仕方は大抵不安定で,たとえばそれを説明できてもあそこと食い違ったり,新しい前提を持ち出したりすれば説明しなければいけない事柄が増えてしまったり...etc.
そうした中で今回あえて挑もうとした理由は,初号機の素体についてひとまず決着をつけないと,議論が進まない領域があるように思ったからです.
要するに今回はかなり細かい議論を展開します.
2.オリジナルアスカ登場シーン
それでは本題です.お馴染みのアスカの台詞を扱います.
最後のエヴァは,マリの「8+9+10+11+12号機」も考えられますが(詳細は「マルドゥック計画/ネブカドネザルの鍵」←URL埋め込み以下同じ),ここでは最後に製造された第13号機の方を取り上げます.
(1)「神」とは
ここでアスカによって13号機が同じ姿をしているとされる神は初号機です.両機体のカラーリング・頭部装甲の形が似ているからです.アスカは初号機を神と認識していることになります.
彼女のいう神とは何でしょうか.たとえば筆者は過去記事を通して,知恵の実と生命の実を備えた存在を神として扱ってきました.これは聖書の失楽園物語(英:Paradise Lost.創世記第2-3章のこと)の記述に由来します.そこでは人間が神のように賢くなることが問題とされています.
さらにそこでは人が命の木の実を食べて,おそらく神同等の存在となることをも危険視しています.新劇場版の神が人類から知恵の実を消去しようとすることについてもこの失楽園物語に依っていると思いますが,とにかく『エヴァ』で知恵の実と生命の実を両方備えると神になる元ネタはこれです.
ちなみに旧劇だと生命の実を得た初号機が神同等の存在となったことが指摘されていましたが(冬月,ゼーレ),前提として初号機には知恵の実が備わっていたことになります.
話を戻すと,この「知恵の実+生命の実」という基準によれば上記アスカの台詞の段階で初号機は第10使徒を取り込んでおり基準を満たし,これは13号機も同様です(『Q:』の第12使徒).
そこでアスカの台詞の内容に戻ります.「13号機が神(初号機)と同じ姿」とはどういうことか.
(2)オリジナルのオリジナル基準
たとえば次のように読むことは可能でしょうか.「13号機は初号機と同じ姿だけど,姿だけなんだよね」.つまり13号機は神そのものではないと.
この場合,アスカは先ほどの神かどうかの基準に則っていないことになります.彼女は異なる基準で神を捉えている.
それでは他にどのような基準が考えられるか.ここで前回の話です.前回,創造主/被造物の分類を紹介しました.この議論によるとアダムスは被造物であるのに対し,リリスは創造主(神)の位置づけで両者は区別されます.この説明に2つの実は出てきません.
この基準を踏まえて次の仮定を加えましょう."初号機の素体がリリス(のコピー)"という仮定です.すると初号機は神=創造主という位置付けになります(リリスの体と魂を宿しているので).対する13号機の素体は主としてアダムス(被造物)なので,両機体は創造主/被造物の基準によって異なる存在同士となります.
ここまで来ればアスカの台詞は一点の曇りなく理解できます.「13号機は被造物だけど創造主=初号機と同じ姿」と.見た目(装甲)だけは同じと.
以上,初号機の素体をリリスと仮定したら説明が上手くいくパターンの1つでした.
3.アダムスとインパクトの方術
続いてもう1つ実演したいと思います.
(1)ミサトの推測
次のアナザーインパクト発動時のミサトとリツコの台詞の検討から始めます.以前とは異なる読み方をします.
とりあえずミサトの台詞からは,セカンドとフォースはやり方(方術)が同じだがサード(ニアサーも)はそれらと異なることが示唆されます.もっとも,光の翼を見た彼女はどうしてこれから行われることがセカンドと似ていると思ったのか,よくわかりません.
というのも,このときの状況を確認しましょう.NHGの2番艦と3番艦から光の翼(と尾)を出した現象を目撃して上記台詞を発するわけですが,この段階では1番艦ヴンダーは乗っ取られる前で,4番艦は未登場.13号機も再起動前です.さらにはネルフ本部は誘導弾の着弾以降,エネルギー流を出していない模様.
前々回,破の脚本からセカンドは5体のアダムスによって起こされたと指摘しましたが,ここでは2隻のNHGのみが何やら始めており,直ちに両者が似ているとはならなさそうなのです.それなのにどうしてミサトはセカンドと同じ方術である可能性を考えたのでしょうか.
おそらく次のようなことだと思います.まず各インパクトの次のように整理します.
太字部分を比較すると,ミサトは〈光の翼を出すアダムス〉が用いられたのがセカンドだけだったので,NHG(アダムス)の光の翼を見てすぐにセカンドだと思ったと推測できます.なお,仮に初号機=リリスだとしたら彼女がニアサーを除外した理由も想像できます.
(2)サードインパクトの方術
以上を前提として進めます(長い).先ほどの分析によるとサードで〈光のアダムス〉は用いられていないことになります.サードでアダムすが用いられていたならミサトの台詞は「セカンドやサードと同じ方術で〜」とかになるはずだからです.
では,"サードのトリガー初号機説"(前々回記事参照)を採用する本記事からは初号機がサードで用いた方術をどう考えるべきでしょうか.
先ほどの整理をもう一度参考にします(下記に再掲).
トリガーがアダムスならば「リリスの再現」を担うアダムスやネルフ本部とセットになることが予測できます.
そこで初号機の素体が問題になります.前々回指摘したことですが,サードは「リリスの復活」であって「リリスの再現」は行われなかったであろうことを考えれば,トリガーの候補はアダムスではなく初号機になります.ではここでも仮に"初号機の素体はリリス"だったらうまくいくかを検討してみましょう.
リリス説を採用すると,初号機=神という理解になるため,もれなく先ほどの創造主/被造物の議論が活躍します.これによると,セカンド・フォースはアダムスによって行われるため被造物によるインパクトとなります.そしてサードは創造主(初号機)によるインパクトに.
そしてやはり「リリスの再現」ですが,初号機はもはやリリス御本人なので別途に再現する必要はなくなり,結果としてネルフ本部や光のアダムス無しで起こせるということになります.したがって,初号機単機で12本のエネルギーを発生させることになるでしょう.
対して被造物アダムスは神(創造主)ではないゆえに神の再現に一手間かかるという理解になります.
といったようにこれまでの説明に合致するので,ここでも初号機の素体=リリス説はうまくいったといえそうです.
そういうわけで,今後は堂々と初号機の素体=リリス(のコピー)説を前提にして考察していきます.厄介な問題でしたが大方の予想を裏切らずに済んだかなと思います.
今回は以上になります.最後までお読みいただきありがとうございました.
画像:©khara/Project Eva.
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