月の出

 台風の影響で今年の十五夜は荒れ模様だったが、十五夜の月は「もちの月」ともいう。藤原道長が「望月の欠けたることもなしと思へば」といったあの望月である。別名があるのは、十五夜だけでなく、翌夜の十六日の月は「いざよひの月」という。この夜の月は、十五夜の月よりおくれ、日没後大分経ってからノコノコと出てくるので、「躊躇ふ」といったことからこの名がついた。「いざよひの月」の次の十七日の月となると「立待の月」、出てくるまで立ちつくして待つ月になり、十八日の月は、立っていたらくたびれるからすわって待ちましょうということで「居待の月」という。
 こんなに毎日変わってゆく月を一々呼び分けるのをみても、昔の人がいかに月を大切なものと考え、月の出を待ちわびていたかがわかる。街灯が普及し、明るい照明のもとで夜でも野球ができるようになった現在では、十六日の月も十七の月のなく、月はネオンの輝く夜空にひっそりと忘れられた存在になってしまった。
(出典は、ISBN978-4-10-121501-3からです)

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