くつわ虫


月の明るい夜など庭の秋草の根元ですだく虫の中で、鈴虫やきりぎりすはバイオリンやチェロのように高く澄んだ美しい音色をきかせるが、つくわ虫となるとガチャガチャと鳴くばかりで、お世話にも冴えた音色とはいえない。  ところで「くつわ」というのは馬につける道具の一つだが、若い人に、馬のどの部分に使用するものかと聞いてみると、馬のひずめにはめるものだと答える人が少なくないようだ。もちろん、あれは馬の口にはめる金具のことで「口の輪」ということからクツワというわけであるが、クツワー靴輪という連想が自然に行われるので、どうも足の輪のような気がしてくる。  野球で二塁・三塁にいた走者がいっぺんにホームインしたときに「くつわを並べてホームイン」などというアナウンスが聞かれるが、これも口というより足がいっせいになだれこんだ感じがする。どうもこれは誤解をまねきやすい語感をもったことばだった。 (出典は、ISBN978-4-10-121501-3からです)


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?