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あなたの求める"理想のソニック"は、本当にソニックアドベンチャーですか?

あなたの求める"理想のソニック"は、本当にソニックアドベンチャーですか?

新作ソニックフロンティアに関する情報が出てくる中、今回に限らず特に日本国内のソニックファン界隈から挙がる声が
「新たな"ソニックアドベンチャー"をプレイさせろ」というもの。

ただ、そういう人たちの意見をちゃんと精査するとどうにもそれはソニアドではないのでは…?と言いたくなるものが結構見られる気がしたので、
今回はその辺を整理してみたいと思いました。
一応魔除けとして書いておきますが、ネガティブな意見を出すなと言っているわけじゃありません。
ただ求めるものが批判者本人の中ですら固まっていない状態でとりあえず殴られたらセガもどうしようもないだろという話。

まず、『ソニックアドベンチャー』とはどういうゲームだったか?
日本ソニックファン界隈では極端に神格化された存在であり、まるですべての原点であるかのような扱いを受けているこのゲーム。
1998年、ドリームキャスト発売から一ヶ月後に世に出されたソニック・ザ・ヘッジホッグシリーズ初の3Dアクションゲームです。
同じく世界的キャラクターの3Dアクション第一弾にして金字塔である『マリオ64』からちょうど2年半後(豆知識:マリオ64は奇しくもソニックの誕生日である6月23日発売です)に発売されたソニアドは、実際非常によく出来たゲームだったと思います。
3Dプラットフォーマーにソニックのスピード感を綺麗に落とし込み、またソニック以外のキャラクターでは全然別のゲーム性とストーリーが味わえる奥深さ。
更に『NiGHTS』のピアンから大きく進化したデジタルペット育成モードである"チャオガーデン"と合わせ、とにかくこの頃のソニックシリーズを返して欲しいと叫ぶファンは非常に多いです。

ただ、以前の記事でも触れた通り日本のファンは『ソニックアドベンチャー』ではなく、2作目…の更にゲームキューブ移植である『ソニックアドベンチャー2バトル』から入った人の割合が高いです(というか、当時すでに深めのオタクだった人間以外で品薄のドリキャス+ソニアドに手を出せた人自体がそう多くない。セガサターンで本編が出なかったソニックシリーズの知名度が日本国内では一旦落ち着いていたのも含め。ドリキャスはそのまま落ち目になり、ソニアド2が出る頃にはハード事業の撤退とソニアド2含むシリーズの任天堂ハードへの展開がすでに発表されていました)
『ソニアド』は『ソニアド2』より更に後に『ソニアドDX』としてゲームキューブに移植されたので、元々荒削りだった部分も結構な手入れがされました。
以降のPS3/XBOX/steam版なんかもベースは『DX』です。ドリキャス版無印ではなく。

ところで、"3Dソニックシリーズといえばソニアド"という風潮の割に、その意見の中身は「ステージを一気に駆け抜けるレースゲームのような爽快感こそソニックの醍醐味だ」というものが割とあるんですよね。
ですが、この路線に落ち着いたのは3Dソニックになって結構経ってからです。

ブーストの初出は2005年にニンテンドーDSで発売した『ソニックラッシュ』。翌2006年に出たいわゆる『新ソニ』の大炎上を経て、2008~9年に発売した『ソニックワールドアドベンチャー』で3Dメインシリーズに逆輸入されたシステムです。
『ワルアド』はこのブーストに加えて全くゲーム性の違うバトルアクションの夜パートや、2Dと3Dをシームレスに行き来する2.5D表現などかなり色んな要素を一気に取り入れた野心作でした。

以降いわゆる"ブーストソニック"シリーズは『ソニックカラーズ』『ソニックジェネレーションズ』『ソニックフォース』と続いていきます。
このシリーズではメガドラの『2』以降ソニックの代名詞であった「スピンダッシュ」が基本操作から外れ、走る体勢のまま一気に急加速するのが当たり前になりました。
カメラは固定で、直線的に伸びたコースを画面奥に向かってブーストで突っ走る。
これは『ソニックアドベンチャー』から『新ソニ』までのシリーズ(以降スピンソニック)とは全く異なるゲーム設計なんですよ。

スピンソニックのステージは入り組んだ作りになっており、仕掛けやアクションを駆使して立体的に駆け抜けるものです。
特にジェネ以降のブーストソニックではそれらの仕掛けは2Dパートに任せ、3Dパートのギミックは見た目の派手さを優先したレースゲーめいた設計になっています。
ジェネレーションズ後にスピンソニックに回帰した『ソニックロストワールド』がやたら難易度が高いと言われるのも、3Dパートに凝ったギミックとアクション性を取り入れ直したからです。ちゃんと画面内の仕掛けや敵を見て正解のアクションを求められるのは、ある程度大味に作られているブーストソニックに慣れたプレイヤーにとってはやたらせせこましく感じられるのは仕方ないことでしょう(脚本への極端な批判がゲーム性にも向けられているという部分も大きいですが)

なのでブーストソニックが出る度に「もっと360度自由に走らせて欲しい」という意見もかつては多く見かけました(海外では今もわりと居る)
つまりソニアド路線とブーストソニック路線は元々相容れないものなんです。
例えばソニアドにそのままブーストシステムを搭載して、あなたはまともにプレイできると思いますか?

ブーストソニックの3Dパートは画面内で見る必要のある情報量を意図的に削ぎ落としてあり、ブーストで気持ちよく駆け抜けるための作りになっています。
なので街中のステージでも道路は当たり前に空中に浮いているし、コースの両側は基本的に奈落です。
いざ想像してみればシティエスケープをはじめ、ソニックアドベンチャーシリーズのステージはそうではないロケーションも多いことに気付くと思います。
クライシスシティのように細かい足場を渡っていくジャンプアクション要素も、ブーストソニックの3Dパートでは少ないですよね?
これらのプラットフォーマーとしてのゲーム性を担うのはブーストソニックシリーズでは主に2Dパートの役割となっています。
クラソニという2Dパート担当が生まれたジェネ以降は特にこれが顕著で、3Dパートは気前よく駆け抜けるもの・2Dパートは細かいアクションが求められるものというメリハリを生みました。

これはメガドラ自体から2Dシリーズで常に言われていた「ソニックってハイスピードなイメージあるけど実際気持ちよく走れるのなんて1-1だけじゃん」みたいな声への割と力技な解決策でもありました。
ギミックに敵や穴にトゲなど常に注意を払わないといけないものが多く、よほどのやりこみプレイヤーでないと最序盤以外のステージはハイスピードなプレイにはならない。
ソニアド~ヒーローズもそうですが、GBA『ソニックアドバンス』シリーズなんかもモロにその系統のゲームでした。
そのイメージがある程度払拭されたのは明確にブーストソニックになってからなので、DS世代・ソニックラッシュという存在がいかにシリーズの中で大きい存在かよく分かると思います。
これには画面の狭さ=見通しの悪さも大いに関係していたので、ソニックオリジンズのワイドスクリーン化というのは想像以上にゲーム性に影響がある部分なんですよ。

なのでロスワの細かい仕掛けが多い3Dパートが、ブーストソニックに慣れたプレイヤーや、ソニック自体が初体験のマリオシリーズなんかのプレイヤーから「難易度が高すぎる」という評価を受けたわけです。
遅くともソニアド世代あたりを普通にプレイしていた人間からすれば、ロスワは別に(ソニックとしては)高難易度な作品ではありません。
ただしその「難易度が高すぎる」という評判が独り歩きした結果、恐らくその反動もありフォースは極端な低難易度化を招きました。
フォースに関して主に海外で一番見かける批判はレベルデザインへのものです(難易度の他、クラソニも居るのにモダソニでも2Dパートありすぎだろという意見もある)

閑話休題。
浮いている道路が空中を走っているラジカルハイウェイでも、あの上下するシリンダーのような足場等ブーストとは食い合わせの悪いギミックで高低差が作られていますよね?
スピンソニックのステージはブーストという手段がないために逆にループやカーブを気持ちよく駆け抜けさせることでスピード感を演出していて、冷静に見るとコースの続く先が視界に入っていない部分が結構多いんです。
他にも例えば"建物の中"というロケーションはブーストソニックではほぼ2Dパートになっています。螺旋状のレールなんかは2Dと3Dの切り替え演出に使われるのがメインになりました。
スピンソニックとブーストソニックではそれぞれに最適化されたコース設計が求められ、その風景もまた違ってくるということです。
ソニックフロンティアへの意見でしばしば見かける「遥か遠くに見えた目的地まで一瞬で辿り着く気持ちよさがソニックだ」というのは、実はソニックアドベンチャーシリーズではほぼできなかった体験です。

そして現在出ている情報を見る限りスピンソニックとブーストソニック両者のいいとこどりをしようとしているソニックフロンティアの映像を見て受ける「世界がスカスカすぎる」「いちいちギミックのために足を止めるのが煩わしそう」という感想は本来このどちらのソニックを求めているかで違ってくる部分だと思われます。
これは現在までに公開されているプレイ動画が"ブーストソニックのような開けたフィールドで""スピンソニックスタイルの細かい探索をさせる"という風に見えている部分もあります。アドベンチャーや新ソニではハブになる探索フィールドはオブジェクトの多い街中が基本だったので、ソニアドを求める人からはその点で物足りなさを感じたりすることはあるでしょう。
反対にブーストソニック好きからすればただ全方向に開けた風景は"目的地が明快でない"というマイナス要素に映ります。

ただ、これはどちらも実際に製品版の世界を見てみるまでは判断の下せない部分です。公開されている動画は開発初期のものであり、またストーリーや世界観に関する要素はかなり慎重にネタバレを避けているのは見ればわかると思います。
「そう見えるから不安」はわかりますが、まるですでに全てのゲーム内容を把握したかのような過剰かつズレた批判も多いので、そこらへんはもう少し意見の出し方を一考する余地があるのではないかと思います。

個々の細かな違いを置いておいてもこの二系統のソニックシリーズのエッセンス部分というのは基本的に相反する要素であるため、"ソニックファンの総意"や"全会一致の理想のソニックゲー"などといったものはそもそも存在しようがないんです。

ただこの自分の理想のソニックゲー像がどちら側なのかをちゃんと理解せず、漠然と大きすぎる主語で"(理想化された)ソニックアドベンチャーを寄越せ"と叫んでいる人が多すぎるように感じます。
"とにかくハイスピードに開けた世界を突っ切る爽快感こそソニックだ"というあなたの求めるものは『ソニックアドベンチャー』ではないです。
ブーストソニックシリーズが好みならその要求は逆効果であり、開発スタッフを混乱させるだけです。
ソニックフロンティアや今後のソニックシリーズに良くなって欲しいと思うのなら、建設的に整理された意見が交わされてほしいと思います。

(大事な点が抜けてたので追記)
新たな『ソニックアドベンチャー』を求める人は、ゲーム性に関してではなくストーリー描写に力を入れろという意味で言っている人も多いです。
現在はその部分が混同されがちなのでは?という話でもあった。
ちなみに近年のストーリーに関して個人的な意見を言えばフォースは脚本自体は悪くなかった(ただしムービーや会話で重大イベントを済ませすぎでゲームとして実際体験できる部分があまりに少ないのは問題)と、カラーズぐらい軽いもの・ロスワぐらいわかりやすくメッセージ性を持たせたものもアリだと思ってます。

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